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さくらの熱量チャレンジ 第29回

対談:jig.jp福野氏×さくら田中氏、オープンデータの可能性

大変な時代だからこそ、地方でオープンデータにチャレンジしやすい

2019年01月09日 08時00分更新

文● 森嶋良子 写真● 曽根田元

提供: さくらインターネット

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 全国に先駆けて、自治体としてオープンデータにコミットしていることで知られる福井県鯖江市。この鯖江市に拠点を構えるjig.jpの創業者であり、取締役会長の福野泰介氏は、同市のオープンデータを推進した立役者だ。福野氏とは同じく高専出身であり、現在は様々なプロジェクトで協働しているさくらインターネット 代表取締役社長の田中邦裕氏が、福野氏とオープンデータをテーマに対談した。

jig.jp 取締役会長の福野泰介氏(左)、さくらインターネット 代表取締役社長の田中邦裕氏(右)

――対談を始めるにあたって、まずお二人の馴れ初めといいますか、関りについてお伺いしたいのですが。

田中:福野さんが福井高専、僕は舞鶴高専と、となりの高専出身で学年も1年違いなんです。高専はコミュニティが小さいから、同じ大学の違うキャンパスくらいの感覚ですね。その後もなんだかんだいろんな交流があって、もう10年以上の付き合いになります。会社の事業以外にも、NICTがやっているICTメンタープラットフォームで一緒にメンターをやっていたり、とにかくいろんなところでつながりがあってですね。オープンデータも、福野さんに影響されて興味を持ちました。

福野:それは嬉しいですね。僕がオープンデータという話を初めて聞いたのは、W3C(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)のティム・バーナーズ=リー氏の講演だったんです。彼はイギリス政府のオープンデータの話をしていたのですけど、そこでHTML5について一言も触れなかったのが面白くて興味を持ちました。後から聞いた話では、そのころティム・バーナーズ=リー氏はXHTML派で、HTML5を推す勢力と仲が悪くて、W3Cからいったん抜けたもののティムが折れて再び合流した直後だったとのこと。

彼の講演を聞いて、オープンデータの取り組みというのは、はるか昔に彼自身が提唱したセマンティックWeb(Webサイトの情報リソースに意味を付与し、コンピュータ同士が自律的に処理できるようにする技術)をいまだにやろうとしているんだなということがわかりました。その執念に感動して、その後、地元の鯖江市長のところへ行って「オープンデータやりましょう」と言ったのが2010年の末。そこですぐ市長が即断即決し、翌年度には市役所内にオープンデータを扱う部署ができ、年度末にはオープンデータを公開しました。

――すごいスピード感ですね。

福野:それまでも、鯖江市長からは「鯖江をITのまちにしたい」という相談を受けていたんです。私や市民の勧めでブログやTwitterを始めたり、「いまはスマホの時代です」と薦めたらすぐガラケーをスマホに変えたり、まずはすぐに行動しちゃうのが鯖江市長のすごいところなんですよ。オープンデータについても「こんなこと、どうでしょう?」くらいで提案にいったら、予想外にその場でOKが出ました。

 オープンデータで、単にデータが公開されるだけでは面白くないので、公開したデータすべてを使ってアプリを作りました。市に対して、「これはあくまで私のアプリなので、お金はいりません」という形でスタートしたので早かったですね。その後、新たにオープンデータが出てきたらすぐアプリを作って、ということを繰り返して、2012年の1年間で50ほどのアプリをリリースしました。

2012年夏に発行された「情報通信白書」には、オープンデータの事例として鯖江市が掲載されました。1月に始めたばかりでその年の白書に載るというのは異例らしいです。

――鯖江市が日本の自治体のオープンデータをリードする存在みたいになったと。なぜそれほど早くデータを出していくことができたのでしょう。

福野:今の鯖江市長は、前市長のリコール後に選出されたのですが、その際、「このまちは市民が市長をやめさせるくらいのまちだから、市民が主役だ」と言って「市民主役条例」というのを制定したんですね。そこで、行政の情報を広く市民と共有していこうという方針が決まりました。私がオープンデータの話を持ち掛けたのはその直後だったので、市の方針とオープンデータに近しいものを感じてくれて、すんなりと進んだのだと思います。

あと、予算を要求しなかったのが大きい。予算をつけなければ、議会の承認がなくても進められるらしいのですが、お金がからむと大変になります。今すでにあるデータを、ちょっと開発しやすい形にしてもらえるだけでOKですという話をして、予算ゼロでスタートしたのがよかったのだと思います。

田中:お金の話は大きいですね。我々は北海道の石狩市にデータセンターを持っており、石狩市からオープンデータを進めたいという相談を受けたんです。そこで、すでに福野さんが鯖江市でやっている河川の水位の計測システムを、石狩市でも導入しようということになりました。これもお金はかかっていない。というのも、とても安価に設置できる計測機を用いたからです(関連記事)。

福野:従来、河川の水位センサーを設置するには一カ所2000万円もかかっていたそうですよ。だけど、我々が鯖江市や石狩市で使った計測システムは一カ所2万円くらいです。

田中:費用が1000分の1ですからね。なぜ今まで2000万円もかかっていたかというと、電源供給のために電柱を立てて電線を引っ張ってきて、カメラ設置のために専用の建屋を作っていたからなんです。要するに土木工事と建築工事を行っていたのですね。今回用いたシステムは、橋に取り付けたセンターが電池で動き、LTEや広域無線通信(LPWA)のLoRaなど汎用の通信インフラを使って近くの公民館に設置した中継局までデータを飛ばしているので、安くできるんです。

福野:行政も、たくさんのセンサーで細かいデータを取って住民に安全を届けたいと思っていても、予算の関係上難しかった。これが可能になります。そして、行政が収集したデータをオープンデータとして提供してくれれば、そこから先は我々民間がやりましょうと。行政側で見せ方まで考えるのではなく、我々が解析して使いやすい形にしてアプリを提供する役割を担えば、行政と民間の切り分けがシンプルになる。そこでは契約が不要なので、取り組みがスピーディになります。

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