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2年前に掲げた“自律運用型ネットワーク”ビジョンのアプローチ、製品化の現状をCTOが語る

ジュニパー「Self-Driving Network」はどの程度進化したか

2018年12月17日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 ジュニパーネットワークスは2018年12月12日、ネットワークの自律的な制御と運用を実現する「Self-Driving Network」ビジョンに関する説明会を開催した。2年前の来日時にそのビジョンを紹介した同社エンジニアリング担当CTOのキリーティ・コンペラ氏が、そのビジョンが目指すところや進展状況、具体的な製品化の現状などを紹介した。

エンジニアリング担当CTOのキリーティ・コンペラ(Kireeti Kompella)氏

信頼性/スピード/効率化の3つを「同時に」実現するために

 ジュニパーが2016年に発表したSelf-Driving Networkビジョンは、ネットワークを構成する機器の検出から設定、テレメトリ(稼働状態データ)の収集と監視、障害時の修復、ユーザー検出、プロビジョニング、利用状況の解析、最適化、レポーティングまで、ネットワークの構築/運用/保守にかかわるあらゆる処理を完全な自己駆動型(Self-Driving)で行う、自律的なネットワークの実現を目指すものだ。

 コンペラ氏は、通信事業者から一般企業、データセンターなど、あらゆるタイプのユーザーが運用する、あらゆるタイプのネットワークをターゲットとしており、現在のネットワーク運用に求められる「スピード」「信頼性」「効率性」の3要素すべてを同時に実現する狙いがあると説明する。

 ただし、現在の自動車が部分的なサポート技術から自律運転を実用化しているのと同じように、最終目標である「100%自律型」のネットワークがいきなり実現するわけではない。これまでの100%手作業の世界から完全自律型に至るまでの道のりを、ジュニパーでは「5つのステップ(レベル)」で考えている。

 まずはAPIやスクリプトによる「制御(操作)の自動化」に始まり、従来よりも格段に多いテレメトリデータをリアルタイムに収集/分析して得る「インサイト」、運用者の意思決定をマシンインテリジェンスがサポートする「AI/機械学習(ML)分析」、運用の個別機能が自律化する「自律型プロセス」の各レベルを経て、最終的な完全自律型のネットワークが実現される。

Self-Driving Networkの長期的ビジョンは「5つのステップ」を経て達成されるとコンペラ氏は語る

 コンペラ氏は、ほとんどのネットワークはまだ「レベル1」の段階にあり、これを少なくとも「レベル3、4」にまで推し進めるべきだと訴える。部分的な自律化であっても、レベルが上がるごとにユーザーの企業、ネットワーク運用者が得られるメリットは大きくなるからだ。

 「走行中、常に瞬時の判断が求められる自動運転車の場合は『10%の判断だけ人間に任せる』というわけにはいかない。そのため、レベル5(完全自律運転)の実現が強く求められる。一方で、ネットワーク運用の場合はレベル4でも十分にメリットがある。運用業務の90%が自律化できれば、たとえ残り10%で人手を借りる必要があったとしても、ネットワーク運用者に大きな時間的余裕を生むことができるだろう」

小さなプロセス単位で完全自律化を目指すアプローチ

 レベル4、5のSelf-Driving Network実現に向けたアプローチについても、コンペラ氏は自動運転車を例に挙げて説明した。

 「自動運転車の技術を細かく見ていくと、アクセル、ブレーキ、ステアリング、変速機、パーキングなど、個々の機能単位で自律的に動作する仕組みになっている。Self-Driving Networkにおけるジュニパーのアプローチもこれと同じで、ネットワーク運用を小さな機能単位に分解し、それぞれの自律化を進めていくというものだ」

 具体的には個々の制御機能(プロセス)ごとに、テレメトリのリアルタイムな取得と分析、意思決定(どんな制御を行うか)、実際のアクション(制御)を行い、アクションによって生じた変化を再びテレメトリで計測、次のアクションを決定する――といった“クローズドループ(閉じたループ)”を構成する。

 この機能単位の自律型制御機能を、ジュニパーでは「ネットワークボット」と呼んでいる。個々のネットワーク機器が持つ機能や特性に合わせ、特化した自動制御ソフトウェアであり、必要とするテレメトリの種類も異なる。

与えられた「インテント」に従って意思決定、アクション(制御)、その結果(テレメトリ)収集と分析、再度の意思決定……という“クローズドループ”を自律的に機能させる

 このネットワークボットは、運用者が「インテント(意図)」を与えるだけで、どのようにネットワークの設定や構成を変更すべきかを自律的に判断し、制御を実行する。ここで言うインテントとは、各ネットワーク機器に対する具体的な設定コマンドや設定内容ではなく、たとえば「このリンクのレイテンシを○ミリ秒以下に抑えたい」「拠点AとBをVPN接続したい」といった、ネットワーク運用者が「何をしたいか」という抽象的なリクエストだ。

 「自動運転車にたとえると、搭乗者が『時速100キロで走りたい』というインテントを与えたら、アクセルのシステム(ボット)がこのインテントに従って速度を調節する。テレメトリから『車が上り坂にさしかかった』ことを検知したら、自動的にアクセルを踏み込んで時速100キロを維持する。そういった仕組みだ」

ネットワーク運用をさまざまな課題に分解し、機能ごとの自律化を進める

 もうひとつ、自律運転のためには「どんなコンテキストのネットワークなのか」も理解する必要があると、コンペラ氏は説明した。たとえばキャリアのコアネットワーク、データセンターネットワーク、企業内のキャンパスネットワーク、マルチクラウド間のネットワークといった違いだ。それぞれに求められる要件は大きく異なる。これも、自動運転車が高速道路からオフロードまで「どんな道を走るのか」も理解して制御しなければならないのと似ていると語る。

 ちなみにジュニパーでは5年ほど前に「リアルタイムテレメトリフレームワーク」を開発し、各種ネットワーク機器に実装している。これは、従来のように運用者/管理ツール側から要求してテレメトリを収集するプルモデルではなく、あらかじめ指定された頻度/内容でネットワーク機器側からテレメトリを送信するプッシュモデルになっている。

「ソフトウェアインテントボット」レイヤーの追加

 ジュニパーでは「標準化されたアーキテクチャ」をベースに、Self-Driving Networkの構築に取り組んでいる。個々のプロセス(小さな単位)にフォーカスして自律化を進めること、顧客のネットワーク環境やニーズに適合するためのプログラマビリティやカスタマイズ性を持たせること、パートナーとの協調に基づく高度化、といったインプリメンテーションの基本原則を打ち立てている。

 アーキテクチャをより具体的に見てみると、ネットワーク管理者が使用するOSS(Operation Support System)やBSS(Business Support System)、オーケストレーター、コントローラーといった従来型の管理ソフトウェアの下に「ソフトウェアインテントボット」のレイヤーが増えている。このレイヤーには機能ごとのボットが用意されており、上位レイヤーからAPI経由で受け取ったインテントに基づいて、下位レイヤーへの自動制御を行う(その指示を出す)、いわば“仲介者”のイメージだ。

 管理ソフトウェアやインフラのレイヤーとの分離と疎結合によって、既存ネットワーク環境への段階的な導入をやりやすくする。また、異なる要件を持つ多様なタイプのネットワークへの柔軟な対応も可能になるだろう。

ボットの役割。既存の管理ソフトウェアやインフラの間に、インテントを理解する新たなレイヤーを設ける

 このボット群を拡大/強化していくことで、前述した5つのステップを段階的に実現し、最終的には完全自律型のSelf-Driving Networkを実現するというのがジュニパーのビジョンだ。当初は運用者を「サポートする」機能の提供が中心であり、運用者の介在を必要とするが、その必要を徐々になくしていく。

 ジュニパーでは、すでにさまざまなツールでSelf-Driving Networkに向けた機能の実装を始めている。コンペラ氏は「現実的な目標」として、ネットワーク運用全体にかかるプロセス全体の自律化ではなく、まずは「小さくても重要なユースケースの完全な自律化」の実現を目指すと述べる。異なる領域/ターゲットの製品群で、機械学習技術を用いた学習/予測の能力を機能に適用し始めている。

Self-Driving Networkの実現に向けて、ジュニパーではML(機械学習)を用いた学習/予測機能を徐々に製品実装し始めている

 実装済み製品の中から、コンペラ氏は「Contrail Healthbot」におけるデバイスの健康状態監視機能を取り上げ説明した。「どんな情報を収集したいか」を運用者がプレイブックに定義するだけで、自動的に稼働中のネットワーク機器群からテレメトリを収集、データベースに保存するとともに分析を行い、ダッシュボードで可視化すると同時に、MLの異常値検出/予測に基づき運用者へアラートを上げる。

 さらに、このアラートを外部システムと連携させることで、プロビジョニングや修復といったアクションの自動実行も可能になる。たとえばSDNコントローラーの「NorthStar Controller」が新しいパスを構成しようとしたときに、Healthbotから「このノードは健全な状態ではない」という通知があれば、そのノードを回避したパスを構成することができる。将来的にはこうした製品間連携も実現、強化していく方針だと語った。

「Contrail Healthbot」のアーキテクチャ(右グレー枠内がHealthbot)。ネットワークデバイスの健康状態を可視化、機械学習による異常/予測診断が可能。外部システムとの連携で“自動アクション”も可能になるとした

ネットワークエンジニアはこれから何を学ぶべきなのか

 コンペラ氏はまとめとして、ジュニパーが目指すのは、ネットワークの自律型運用に関する“現実解”の実現と提供であると強調した。

 「複雑なネットワーク運用に実在する、具体的な課題を解決すること。ビジネス面から見て理にかなった解決策であること。もちろん技術的に実現可能である必要もある。そして、大きな経済的メリットがあることを遡及していきたい」

 通信キャリア、エンタープライズなど多くの顧客がSDN(Software-Defined Network)の実現に向けて取り組みを進めているが、究極的には“もうひとつのSDN(Self-Driving Network)”に行き着くことになるだろうと述べる。

 それではこれからのネットワークエンジニアの役割、学ぶべきことはどう変化するのだろうか。コンペラ氏は、運用自律化がレベル4に到達しても人間が理解、判断すべき部分は残るのであり、Self-Driving Networkをうまく機能させるためには引き続きネットワーク技術の知識は必要だと説明する。さらに、AI技術がうまく機能しないときにはAIそのものを手直しする必要があるため、AI技術への理解も求められると付け加えた。

 「先月、ある社会学者(Yuval Noah Harari氏)が著した『21 Lessons for the 21th Century』という本が出版された。その内容を一言でまとめると『これからの人間は“学び方を学ぶ(Learn to Learn)”必要がある』。不確実な未来に備えるためには、何を学ぶべきかではなく、どう学ぶべきかを知るほうがよいはずだ。これからの未来が脅威に満ちたものになるか、それとも可能性に満ちたものになるかを決めるのは、ひとえに自分自身の学ぶ力にかかっている」

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