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特別企画@プログラミング+ 第40回

AIビジネスの企画立案、実装に役立つ『AI白書2019』ついに発売!

尾原和啓氏(ITジャーナリスト)×松尾豊氏(東京大学大学院准教授)「日本がAIで勝負すべき、AIプラットフォームビジネスの次の次」

2018年12月14日 18時00分更新

文● 坂川慎二/ASCII

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 株式会社角川アスキー総合研究所(本社:東京都文京区、代表取締役社長:芳原世幸)が12月11日(火)に発行した『AI白書2019』(編:独立行政法人情報処理推進機構 AI白書編集委員会)は、人工知能(AI)がもたらす技術革新と社会の変貌をまとめた本格的な白書として、爆発的に売れたベストセラー『AI白書2017』の最新版です。

 本書では冒頭のカラーページで、東京大学大学院特任准教授の松尾豊氏と、マッキンゼー、リクルート、Google、楽天などで事業企画、投資、新規事業を歴任後、ITジャーナリストとして活躍中の尾原和啓氏による対談を掲載しています。

 今回は松尾氏と尾原氏による対談の一部を抜粋。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)らITメガプラットフォーマーのデータ収集に対抗し、日本が勝負すべき分野について議論しています。

 * * *

松尾 2018年現在、人工知能分野の技術は、おおよそ予測通りに進展しています。ディープラーニングによる画像認識はかなり進み、アプリケーションが多数出てきています。次の段階としては機械・ロボット系への応用となりますが、なかなか実用に結びつきにくい状況が続いていました。しかし、この半年~1年くらいで「World Models」(世界モデル)を構築する研究が出てきています。今年6月にはDeepMind(英国)から「GQN」(Generative Query Network)が発表されました(注:二次元画像から三次元画像を生成する新技術。これによりAIは平面的な写真を見て、見えていない部分を想像するかのように、三次元空間を作り出すことができる)。

 世界モデルについて簡単に説明すると、これはAIのエージェントが部屋の周りを回ると、机の形や誰がどんな配置で座っているかなど、構造や状況の空間認識ができるものです。人間にとって、視覚情報は単なる映像です。また、人間は筋肉への時系列の信号で身体を動かしています。基本的にこの2つの情報しかないのに、人間はこの世界が三次元であることがわかっています。つまり、この2つの情報の時系列から潜在的な構造を見つけ出しているのです。従来のSLAM技術などでは、世界の構造が三次元であると最初に仮定し、タスクをナビゲーションに絞る必要がありました。

 例えば、ものをつかむ、投げる、たたく、ちぎる、打つ、それぞれに異なる潜在構造があります。それが仮定なしに学習できる世界モデルができてきて、AIで機械・ロボット系をうまく動かせる状況が整いつつあります。大規模なシミュレーションと実ロボットによる試行を組み合わせた、四角いキューブを自由にひっくり返せるロボット(Dactyl)が出てくるなど、機械・ロボット系でAIの技術活用が始まる段階となっています。

尾原 これまでは「こんなケースではこうしよう」とケースを仮定して、個別に1対1対応を作らなければいけなかったのですが、これからは状況とゴールを与えれば自動的に最適化が行われる、そういう世界が見えてきたことになりますね。シリコンバレーでは以前、「Software eats everything」(すべてのビジネスがソフトウェア化していく)と言われていました。例えば、銀行がオンラインバンク化したり、タクシーがUber(アメリカ)に代わっていくといった事例がわかりやすいと思います。最近は「AI eats software」という言い方をしていますが、これを両方重ねると「AI eats everything」(AIがすべてを飲み込む)となります。これまで論理で言われてきたことが現実味を帯びてきたと言えますね。

松尾 機械・ロボット系でのAIによるモデル化が進んだ先の段階では、「言葉」や「意識」の解明も進んでいくはずです。

 動物としての知能に関して言うと、実は犬も猫も世界モデルを持っています。人間はその上に言語という機能を載せていて、言語の一番の特性は、任意の瞬間に情景を思い浮かべられる、すなわちイマジネーションがあることなんですよね。前述のDeepMindのDemis Hassabisも、10年以上前からずっと「イマジネーションが大事だ」と言っているのですが、人間は言葉によって任意のタイミングで任意のことを思い浮かべられ、言葉を使う操作とそれによるシミュレーターが連動しています。

 人間がなぜ言語を持っているのか、それが数理的にどういう意味を持つかについては、もしかするとこの2 ~ 3年のうちに解明されるかもしれません。そうなると、言葉の意味・理解を伴うような自然言語処理ができるようになります。これは人類史上にとって巨大なインパクトになります。GoogleやFacebookがやりそうですね。

 今、ディープラーニングは20年前のインターネットと同じような時期にあると思っています。つまり、今が1998年にインターネットが出てきた状況と同じであると。そう考えると、これからはプラットフォームなんです。10年後、20年後には、世界の時価総額10位以内に入ってくる巨大企業が、新しく何社もできてくるはずだと思います。

尾原 AIの世界において、次に何が起こるか、ですね。これまではインターネットの中の、閉じた空間でのビジネスの覇権争いが起きていました。インターネットの進展により、デジタルがすべてをオーバーラップするようになり、どんな情報がネットのどこにあるかを探すことに価値が生まれて、Googleの価値は高くなりました。人間関係もネット上でつながった方が効率が良いということで、人間関係を凝縮したFacebookの価値が高くなりました。今度は「AIによってリアル社会の何を再構造化できると一番価値が高くなるか?」という戦いが始まろうとしているのです。

 一番わかりやすいのが「信用」情報ですよね。中国では「アリペイ」(支付宝)、「WeChatペイ」など、いろいろな企業が決済システムの市場を取りにいっています。一見するとみんな決済を取りにいっているように見えるのですが、実はそうではないんです。人間の信用を可視化することが、おそらく次のGoogleなので、信用を取りにいっているのです。

 松尾先生がおっしゃる通り、AIがリアル空間に染み出るようになったときには、現実の社会をもっと多角的に見る視点が必要ですね。そこに大きな可能性があるはずです。

松尾 私は以前から、AI技術を応用していく産業分野として有望な領域を、農業、建設業、食関連と言ってきています。これらは、今までデータの取得や自動化技術の導入が行いにくかった分野で、その理由としては個々のアイテムを「認識」できなかったためなのですが、ディープラーニングによって大きく変化するでしょう。

 例えば、食における個人の嗜好。このデータはどこにもありません。食に対する人々の情熱は非常に旺盛で、特に日本では独特の“食文化”があり、多大なエネルギーが費やされています。それなのに、個別データはほとんど存在しない。産業規模からいっても、現在のようにデータ化や自動化が遅れている状況がこの先も続くことはあり得ないと思っています。これをどうやってお金にするかは、実はオープンクエスチョンなのです。

尾原 これからはリアルが関わるのは間違いないですが、松尾先生がおっしゃっているのは、 AIプラットフォームビジネスの次の次くらいの段階を想定している。つまり、AIプラットフォームビジネスの第1段階は、AIとロボットによる画期的な効率化、自動化です。それによりシステム構築や運営のコストが安くなり、より多くの人が使うことで、よりデータが集まるようになります。するとさらに自動化が進み、コストが下がる。その結果、他社が追いかけても、先に進んだ企業に追いつけなくなる。そして、コスト効率の先にあるのは、付加価値を上げることです。Mobileye(イスラエル)がIntelに153億ドル(約1.7兆円)で買収された理由は、センサー技術ではありません。彼らは、センサーデータに基づいて画像認識し、世界の道路の地図を1cm単位でリアルタイムにバーチャル空間へアップロードし続けています。その技術と、データを収穫し続けて付加価値に変えるネットワークが重要なのです。

 今はどこに行くにしても、多くの人が目の前の道路よりもGoogle Mapsなどのバーチャル空間の地図を見て移動しています。車ならカーナビです。例えば、何時間か前に中央分離帯の線が削れてしまった道路があるとしましょう。事故が発生する危険がありますが、アメリカではすでにMobileyeのカメラを積んだ車が何万台と走っていますから、AIの画像認識技術によってバーチャルマップ上に危険箇所をマーキングしたり、近くに来たドライバーに警告したりするような応用化が進んでいます。そういうことが、共通の付加価値になります。

 

 その先にあるのが、松尾先生のお話にあるような個人の趣味嗜好に合わせて多様化させたデータの応用になっていくと思います。本来、 AIは共通化するよりも多様化や過剰化に向いています。マネタイズについても、効率化や自動化よりも多様化や過剰化の方により可能性があります。なぜなら、人は効率よく調理されたチェーン店の牛丼には300円しか払いませんが、1本ずつストーリーのあるワインには5万円を払うわけですから。

対談では松尾氏(右)がペンをとり、AIによる変化が大きい産業分野を表すチャートをホワイトボードに書き込む場面も。尾原氏はこれを“豊(ゆたか)チャート”と命名した。

※対談の全文や AI導入企業・実用化事例など、AIの導入・ビジネス化に必要な情報を網羅した『AI白書2019』は好評発売中です!

●尾原和啓(おばら・かずひろ) 京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーでキャリアをスタートさせ、リクルート、Google、楽天(執行役員)などで事業企画、投資、新規事業を歴任。著書に『ザ・プラットフォーム IT企業はなぜ世界を変えるのか?』(NHK出版新書)など。

●松尾 豊(まつお・ゆたか) 東京大学工学部卒業後、東京大学大学院工学系研究科電子情報工学博士課程修了。博士(工学)。スタンフォード大学CSLI 客員研究員などを経て、2014年より東京大学大学院特任准教授。NHK Eテレが10月から毎週木曜の午後10時から放送している「人間ってナンだ?超AI入門」(全12回)ではホストを務める。

【書籍概要】

タイトル:『AI白書2019』
発売日:2018 年12月11 日
編:独立行政法人情報処理推進機構 AI白書編集委員会
発行:株式会社角川アスキー総合研究所
発売:株式会社KADOKAWA
ISBN:978-4-04-911014-2
定価:本体 3,600円+税
版型:A4判 496ページ 2色刷(冒頭のみ4色)
販売はこちらまで

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