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マラソン大会乱立の中で参加者5倍、東北風土マラソンの成功法則

2018年11月09日 06時00分更新

文● ダイヤモンド・オンライン編集部(ダイヤモンド・オンライン

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東北風土マラソン
東北風土マラソンの“給水所”で振る舞われる一口サイズの東北の食

 マラソン大会が激増している。2007年に始まった東京マラソンをきっかけにマラソン大会は増加し続けており、日本最大級のランニングポータルサイト「RUNNET」に登録されている2018年に行われる大会の数は大小あわせて約2676(開催予定も含む)。この10年で10倍以上の数になっている。

 一方で、ランナーの数は頭打ちだ。笹川スポーツ財団が行う「スポーツライフに関する調査」によると、ランナーの数は2012年の1009万人をピークに、14年には986万人、16年には893万人へと減少。ランナー頭打ちの一方で、マラソン大会は乱立していることから、参加者が定員に達しないマラソン大会が全国各地で増えているという。

 こうした状況下でも、2014年の開始以来、ランナーの数を5倍以上に増やしているのが宮城県登米市で開催されている「東北風土マラソン」だ。

給水所にステーキ、ふかひれスープが!
参加者激増の「日本版メドックマラソン」

 東北風土マラソンは宮城県登米市にある長沼という湖を周遊するマラソン大会で、2014年の第1回ではランナーが1300人という中規模の大会だった。しかしその後は、15年3000人、16年4300人、17年6000人、18年6800人と当初の5.2倍にまでランナー数が増加。さらに顕著な伸びを見せているのが大会への来場者総数で、14年の1万5000人から18年には5万3000人にまで増加している。

 開始からたった5年の新興マラソン大会が、なぜこれほど人を集められるのか。その背景にあるのが、フランスの「メドックマラソン」だ。

 メドックマラソンとはフランスのワインの名産地メドックで毎年行われているマラソン大会で、コース内にある給水所で有名シャトーのワインを飲んだり、ステーキや生牡蠣などをコース料理のように楽しんだりできる。

 東北風土マラソンは、2014年に「日本版メドックマラソン」としてスタート。マラソンコースの2キロメートル間隔に設置された“給水所”で、東北各地のおいしい食べ物を一口サイズで提供する。ハーフマラソンが長沼を1周、フルマラソンが2周するコースだが、1周目と2周目では別の食を用意。人気の「登米牛のサイコロステーキ」や「ふかひれ濃縮スープ」は2週目でなければ食べられないので、まさにフルマラソンを走り切る人だけのご褒美といったところだろう。

 メドックマラソンとの最大の違いは、給水所でアルコールが用意されてないこと。ただし、東北風土マラソンでは完走したランナーに「完走賞きき酒券」がプレゼントされ、東北の日本酒をゴール後に楽しむことができるという。

竹川隆司さん
東北風土マラソン&フェスティバル代表理事の竹川隆司さん

 このユニークなマラソン大会を企画・運営しているのが、東北風土マラソン&フェスティバル代表理事の竹川隆司さん。現在、高度IT人材育成を主にオンラインで推進するzero to oneの代表取締役CEOも務める。

 竹川さんは日本とアメリカを行き来する生活を送っていたなかで、たまたま日本帰国時に東日本大震災を経験。しかしその直後にアメリカへ帰国することになるが、もともと社会貢献活動へ強い関心のあった竹川さんは、東北のリアルな復興に直接結びつく「しくみ」を作りたいとずっと考えていた。そんな中、もともとマラソン好きだったことが高じて、「メドックマラソン日本版」の創設へと考えが至った。

「2012年9月のメドックマラソンに参加できることになったので、現地のスタッフの方に突然メールを送り『メドックマラソンの日本版を作りたいから相談にのってほしい』と伝えました。すると、快く現地のスタッフの方が会ってくれて、ノウハウを教えてくれたんです。翌年には、(メドックマラソンに関連する店舗やブースなどが並ぶ)メドックマラソンEXPOで、東北風土マラソンのブースも出展し、東北の日本酒をふるまって、多くの外国人ランナーや日本人ランナーにアピールできました」(竹川さん)

食、日本酒などのイベントを同時開催
県外から半数を集客、経済効果は約3億円

 東北風土マラソンは、前述のとおりランナーだけでなく来場者総数も増加し続けているが、この理由もメドックマラソンと同じ仕組みにある。

 メドックマラソンではランナーの家族も楽しめるようにマラソン大会と同時にさまざまなイベントやツアーも開催されている。例えば、メドックにあるシャトーを訪問してワインを試飲するツアー、夜の花火大会やダンスパーティなどで、東北風土マラソンはそれに倣ってさまざまなフェスティバルを開催している。

 例えば、「登米フードフェスティバル」は登米の食材やマラソンの給水所で提供された食を楽しめるイベントで、東北各地から数十銘柄が集結する「東北日本酒フェスティバル」も人気が高い。「東北風土ツーリズム」は東北の食と風土を知るツアーで、被災地の復興状況の見学など東北各地を訪れる。

「東北Food Night(フードナイト)」は、メドックマラソンの前夜祭に倣ったもので、マラソン大会の前夜に東北の美味しい食を楽しめて、宮城の伝統演芸も披露されるなど、地元の人たちとの交流を深められるのも魅力になっている。

 そのほか子どもが楽しみながら体力測定などができるアクティビティが用意された「キッズドリームパーク」や、老若男女・健常者と障がい者問わず楽しめる新スポーツ「ゆるスポーツパーク」なども開催している。

 東北風土マラソン自体はフルマラソンやハーフマラソンがメインではあるものの、そんなには走れないという子どもも少なくないだろう。そんな子どもには、小学生~高校生が1~3キロを走る「トゥモローラン」や、小学生以下の子どもと親がペアで参加する「親子ラン」、障がいを持つ小学生以上と伴走者がペアで走る「KIDSスマイルラン」といったマラソンイベントも用意されている。

 これらの複合的なイベントが功を奏し、今年3月に行われた2018年大会では、ランナーの47%を宮城県外から、さらに全体の4%は海外から集客するなど幅広い集客に成功。大会関連のみならず周辺の宿泊や移動、会場外の消費を含めると、経済効果は約3億円に上ったという。

「断られる理由のない大会にしたかった」
老若男女が行きたくなるイベントの秘訣は?

東北風土マラソンのコース
東北風土マラソンでは、宮城県登米市にある長沼を周遊する

 現在、マラソンや東北の食などをつなげて高い経済効果を生み出すモデルを学ぶため、全国からマラソン大会実施者が視察に訪れるなど、今や東北風土マラソンの魅力づくりや広報、お金を落とす仕組みは注目の的だ。では、マラソン大会が乱立する中で、人を集め、持続できる大会にするためには、どのような点が重要なのか。

「『子どもがいるから参加できない』と言われない、どんな友達を誘っても断られる理由のない大会を作りたかった」と竹川さんが語るように、東北風土マラソン&フェスティバルはあらゆる層が楽しめる仕掛けがたくさんある。先ほど紹介したような日本酒やツーリズム、子ども向けのアクティビティを用意した「キッズドリームパーク」などはまさにその例だ。

 そして、「子ども向けの大会は最初から実施していた」(竹川さん)など、“今の子どもが大人になっても参加する大会”を意識していたというのも大きなポイントだ。

「登米市出身でトゥモローランの高校生の部に参加してくれていた男の子が、東京の大学に進学したんです。でも、『大会の時だけは必ず登米に戻って来てマラソン大会に参加するんだ』と言って、今年は大学の友達も連れて参加してくれました」(竹川さん)

 大会当初、コースの清掃は1週間前に大会関係者全員で行っていたが、今ではマラソンコースである長沼周辺の地元の人たちが自主的に行ってくれるようになった。地元でもこのマラソン大会やフェスティバルが自分事化され、恒例のお祭りになりつつあるという。2019年は、3月23日と24日に開催される予定だ。

「マラソンで東北と世界をつなぐ」というミッションを当初から掲げているため、ブースなどで提供される食や酒は「東北」のものに絞っているが、ターゲット層は決して絞らない。特色を生かしつつ、誰にでも何か1つは刺さるようにイベントを複数用意するなど、わざわざ来たくなる魅力があること。そして、大会にずっと参加したいと思える仕組みと地元住民からの協力を得られることが、東北風土マラソンが継続して多くの参加者を集める秘訣といえる。

 マラソン大会戦国時代を生き残るには、この「独自の魅力」と「持続性」を今一度見直す必要がありそうだ。

(ダイヤモンド・オンライン編集部 林 恭子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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