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図書館が「老人の館」に!トラブル続発で逆ギレ、怒号も

2018年11月08日 06時00分更新

文● まつい きみこ(ダイヤモンド・オンライン

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超高齢社会の日本では、2065年には約3.9人に1人が75歳以上になるという。そんな日本の姿を反映するように、公共図書館には高齢者の姿が目立つようになり、今までなら考えられないようなトラブルが起こっている。

公共図書館は
終日無料の高齢者施設?

高齢者が集う公共図書館は、さまざまな悩みを抱えています。
キレる老人、徘徊、失禁…シニア利用者を巡って頭を悩ませる図書館は少なくない。しかし、高齢者の生きがいを育む場として、図書館は有効なインフラでもあるはずだ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 今年6月に内閣府が発表した「平成30年版高齢社会白書」によると、2016年の平均寿命は男性80.98年、女性87.14年で、総人口に占める65歳以上の人口の割合(高齢化率)は27.7%だった。全人口のうち、65歳以上の割合が21%を超えると超高齢社会と呼ぶが、日本は2010年に、すでにその段階に突入。現在は、世界で一番高齢化率の高い国である。

 そんな現実をリアルに感じる場所はある。高齢者の利用者が増加している公共図書館だ。10月30日から11月1日にかけてパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された、第20回図書館総合展のフォーラムの1つ、「人生100年時代 図書館でどう学び続けるか?」(主催:図書館振興財団)では、増える高齢者と図書館の関係を掘り下げた講演会が行われ、会場にはたくさんの関係者が訪れた。

 公共図書館は新聞や雑誌が読み放題である。また、最近は建物も著名な建築家の設計でおしゃれになり、カフェスペースも充実するなど、居心地がよくなっている。そして、いつでも何時間でも滞在することができるし、何よりも無料と、年金暮らしの高齢者にはありがたい。

 神奈川県に住むAさん(70歳)は、特に予定のない日は、図書館に行くそうだ。図書館では新聞や本を読み、時には図書館のイベントにも参加する。以前はパチンコに通っていたが、お金は使うし、家族からは「他に何かすることはないの?」とウケも悪い。図書館であれば、逆に「お父さん、今日は行かないの?」と家族の方から送り出されるという。

 公共図書館はAさんのような「高齢者のための施設」となりつつあるのだが、そこにはさまざまな問題も出始めている。

館内で迷ったり失禁も…
高齢者増加で悩ましいことも

 図書館では、本のような印刷物を読むことが困難な人々でも利用できる本を、一般的に「バリアフリー図書」と呼んでいる。例えば、文字が大きい「大活字本」や、朗読を収録した「オーディオブック」などが、バリアフリー図書にあたる。

 このバリアフリー図書を集めたコーナーは、ほとんどの公共図書館に設置されている。視覚障害、肢体不自由など身体的な障害がある人、ディスレクシア(読字障害)やADHD(注意欠陥・多動性障害)といった障害がある人が対象となるが、実はそこに高齢者も含まれている。

「大活字本もオーディオブックも高齢者への貸し出しが増えていますよ」――。東京郊外にある公共図書館の司書は、老眼で目が疲れるという高齢者にバリフリー図書は人気があると教えてくれた。ここまでは、ナルホドとうなずけるのだが、「たまに図書館内で迷子になる方が……」、「大量の本を持ち出そうとする……」そして「椅子の上で失禁……」と、今までは例外的だったアクシデントが日常化している現場の様子は切実だと語る。

 意外かもしれないが、公共図書館には高齢者という利用者区分の視点がない。足が悪い、目が悪い、耳が遠いといった不具合を抱える高齢者のニーズは、障害者ニーズと重なっているという考え方なのだ。

 国立国会図書館は2017年、「超高齢社会と図書館~生きがいづくりから認知症支援まで~」という調査を行った。

 高齢者の図書館利用について行われたその調査では、自動ドアや階段のスロープ、エレベーターなど施設の整備といったハード面は充実しているが、元気な高齢者へのサービスや、認知症への応対といったソフト面に対する大きな課題が残されているとまとめられている。これまで公共図書館では、高齢者への目配りがほとんどなされてこなかった結果といえるだろう。

 また、この調査の研究主幹である呑海沙織教授(筑波大学図書館情報メディア系)は「高齢者へのインタビューでは、自身のこれまで培ってきたものが披露できる、クリエーティブに創造する場として図書館を捉え、主体的な社会参加への意欲を持つ高齢者像が浮かび上がった。主体的な社会参加は生きがいにもつながる。超高齢社会においては、豊富な知識や経験を持った高齢者は、図書館サービスの受け手としてだけではなく担い手となりうる。これからはマインドセットの転換が図書館側に求められるのではないか」と、ネガティブなイメージで高齢者の図書館利用を捉えるのではなく、社会へもたらすメリットに注力することが必要と調査を振り返る。

毎朝新聞を奪い合う
キレる老人たちの逃避場所

 別の図書館に勤務する司書は「高齢者同士の新聞の奪い合いで大騒ぎもよくあります」という。そして、「逆ギレ」や「怒鳴る」高齢者には男性が多く、何か社会へのストレスを発散させているように感じるそうだ。

「仕事が人生だった」というような人は、定年退職後に自己アイデンティティーを見失いがち。そんな高齢者にとっては、図書館は居場所というより現実逃避場所にしかならないのだろう。

 繰り返しになるが、人生100年時代といわれる現代で、高齢者が前向きに生き生きと生活をするための居場所づくりは永続的な課題である。地域社会とつながり、自発的に新しい目標を立て、豊かな生活ができる、そんな高齢者の生活を支えるには一体何が必要なのだろうか?

 認知症への対応はもちろん、健康や相続など、高齢者を取り巻く環境から、新しい高齢者向けサービスのヒントを図書館で見つけることができるかもしれない。図書館は理想を語ることのできる場所。周囲もポジティブに高齢者が社会参加できる仕組みづくりを応援することで、「キレる老人の館」という誰の役にも立たない、世にも恐ろしい図書館の出現を防ぐことができるのである。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾®)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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