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2020年後も発展する仕組みを ビジネスとしてみた卓球Tリーグの可能性

2018年11月05日 06時00分更新

文● 末岡洋子 編集● ガチ鈴木 /ASCII編集部

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 2018年10月24日に開幕した、卓球の新リーグ「Tリーグ」。前回はTリーグの概要について話を聞いていったが、今回はTリーグのビジネスモデル、スタジアムを活用したビジネスと踏み込んで聞いていきたい。一般社団法人Tリーグのチェアマンを務める松下浩二氏に訊いた。

――ビジネス、マーケティングではどのような可能性を考えていますか?

 Tリーグでは積極的にブランディングをしていきます。どうやってマネタイズするのかを考えていかないと市場は大きくなりません。単に試合を観にきていただくだけではなく、どうやってお金を使ってもらうか、その仕組みを作ることができるかが重要です。チケット代だけでは不十分です。チケット以外となると、グッズ、飲食などが考えられますが、課題として(卓球会場は)体育館なので興行がやりにくいという点があります。興行の設備がないし、周辺は公園なのでお金を落とすところがありません。

 これは深刻な課題です。というのは、アメリカではここ15年で5万人以上を収容できるスタジアムが5ヵ所でき、1万人以上入るアリーナは150ヵ所あります。対して、日本にはその規模(1万人以上入るアリーナ)は20ヵ所ぐらいです。

 アメリカのスタジアムやアリーナは、一歩外に出るとショッピングや飲食の施設があります。試合の前や後にお金を落としていく仕組みがあります。テーマパークの考え方で、単に乗り物に乗るだけではなく、飲食をしたり、グッズを買ったり、近くにホテルがあって、女性は待っている間にエステに行くなど、そういったものがセットになっているんです。

――日本ではスポーツ観戦が一番の目的になっており、それ以外のところでビジネスができる環境構築が必要ということですね。

 そうです。スポーツを「観る」、それを「支える」という地域密着型、貢献型に加えて、卓球は「自分もする」が入ります。卓球をやれば健康増進につながります。年齢層が高い人は卓球が健康に良い影響を与えるかもしれません。

 しかし、ここでも問題があります。施設の数です。

 ドイツと比べると、人口は日本の方が多いのに、施設はドイツの3分の1しかありません。ドイツならどこで何ができるのか決まっているので、卓球をやりたい、テニスをやりたいと思った時にそこに行けば良い。日本の場合はネットで調べるところから始まり、そこに行くまでの時間とお金など、乗り越えるハードルがたくさんあります。

――観るためのアリーナも、するための施設も少ない。そのような現状の中で、多くの人に触れてもらうためにはどのような施作を考えているのですか?

 1つに配信があります。全試合配信したいと思っていますが、その中でどのように見せるかを考えています。施設のキャパシティのは何千人ですが、映像では万単位の人にリーチ出来ます。会場に足を運ばない人に映像を通じて感動や感激をどうやって伝えることができるのか、ここは重要です。

 現在考えているのが、スタッツやトラッキングのようなデータの提供です。ライブでやるのは予算の面で難しいが、球の軌跡、速度などのデータを映像を通じて見せることは可能です。どのポジションで、どのぐらいの割合で球が落ちているのか、それにより得点しているのか・失点しているのかなどがわかると、試合をさらに楽しめるでしょう。

Tリーグ チェアマン 松下浩二氏

――サッカー中継でも数値が出てきており、数年前にはなかった”スプリント”などの専門用語を普通の人も使うようになりました。プレーが可視化されて数値化されると、それを基準に話題作りになりますね。

 そうです。

 それだけでなく、選手にセンサーをつけて動きを追跡するというデータを取るなどのことも考えられますね。技術が進化しており、カメラが2台あればデータ解析できるところまできています。それを利用して、どのポジションを攻められた時に弱い、といったことを映像を通して視聴者に伝えることができれば、面白みや理解度が高まるでしょう。卓球の球の動きは速いので、映像を通して伝えることができれば、卓球を知らない人に楽しんでいただけるかもしれません。

――新しく始めるリーグなので新しいことにチャレンジできますが、スタジアムではどのような施作を考えているのですか?

 一般的なところから着手していくことになりますが、例えば音と光で演出をして楽しんでもらうことを考えています。また、モニタを通じて選手のプロフィールを表示したり、リプレイを見せるなどBリーグと同じようなことや、ハーフタイムで演出をしたり、子供達に出てきてもらってスマッシュが速い子にプレゼントをあげるなども考えられます。

 本当にやりたいことはスマートアリーナ化です。スマートフォンを持っていれば、その選手のプロフィール、今のプレイを自分の手元で好きな時に見ることができるし、スマートフォンでグッズを買ったり、ビール購入ボタンを押すと席まで持ってきてくれるなどの飲食のサービスもあるようなスマートアリーナ化をやっていきたい。

 体育館という会場でどこまでできるのかという問題はあります。演出は持ち込みになるので、相当なコストになります。

――そういったことができる象徴的なアリーナを作る計画などはありますか?

 興行できるアリーナが欲しいですね。自分たちが優先的に使える施設を作り、そこで興行だけをやって利益を出し、余計な人件費はかけない――こういうロールモデルのようなものをどこかでやりたいなと思っています。

 例えばBリーグさんなど室内競技が声をあげてアリーナができるといいのですが、国も動いて欲しい。国は政策としてスポーツ産業を伸ばし、2025年までに15兆円にという目標を掲げています。例えばスポーツ特区のようなものを作ってもらい、様々な実験ができるようにするなどのことがあるといいと思います。スポーツの影響力は大きい。スポーツ産業の規模は大企業1社と変わらないレベルですが、スポーツ選手やチームの活躍は皆が喜ぶし元気づけることができる。

 日本全体として、スポーツにあまり投資しない傾向があります。今は2020年東京オリンピックに向けて盛り上がっていますが、あるスポーツイベントやブームが終わったらもう出す必要はない、と急に冷める傾向が強くなっています。(東京オリンピックの2020年まで)あと2年の間に、そういうイベントがなくても自立できる仕組みを卓球では作って行きたい。そうすれば、2020年を契機にさらに発展できます。

 国際的に見ると、アメリカのスポーツ産業が発展する一方で、日本はこの20年停滞しています。経済と同じです。20年前、日本のプロ野球とアメリカのメジャーリーグの市場規模はともに1600億円ぐらいで同じでした。日本のプロ野球は現在も1600億円ですが、メジャーリーグは1兆円規模です。マネタイズが日本よりも上手なのでしょう。日本はスポーツでお金を儲けることが悪という意識が根強く残っています。オリンピックはかつてアマチュアの祭典でしたが、これに日本の質素倹約といった武士道精神がマッチしました。オリンピックは現在、プロ選手も出場できますが、日本はアマチュア精神から抜け出せていません。

 卓球はプロとアマチュアの垣根をとりました。福原愛選手の活躍により、肖像権は選手に、賞金も選手の元に行くようになり、小さい子供でもスポンサーをつけることができます。ですが、小さい子がお金をもらうことをまだ批判視する声があります。支援が得られるのはいいことなんです。私が選手だった頃はお金を理由に国際大会出場を諦めることも多かった。資金があれば、良いコーチをつけ、遠征に行き、さらに強くなれます。

――グローバルでのビジネス展開での計画は?

 世界のトップ選手を集めるので、海外への配信も狙っています。まずは中国、韓国、そして東南アジアでも卓球の人気が出てきたので、アジアでの配信を実現させたい。

 卓球市場をアジアで広げるために、卓球がまだ普及発展していない国の手助けをしながら選手を強くして行きます。市場ができてリーグができれば、アジアチャンピオンズリーグのようなものも可能です。5~6年後にそのような大会を開催したいですね。すでに各国にはお伝えしており、中国、韓国、日本、台湾、香港、シンガポール、タイ、インドネシアなど、先行している国から、その後はベトナムやカンボジアなど国自体が発展途上にあるところで選手を育て、市場を作り、そういった国々のチームをアジアチャンピオンズリーグに入れて行く。有名な選手が出てくれば、映像を見たいというニーズが出てきます。

 スポーツは米国、欧州がメジャーで、アジアで人気のあるスポーツが世界的なスポーツになっていません。サッカーは世界的で、野球は米国。テニスやゴルフもどちらかというと米国です。アジアのGDPが米国や欧州に劣っている訳ではないので、お金はあるんです。それをうまくスポーツに結び付けられないだけ。アジア初のグローバルなスポーツがあってもいいはずです。

■関連サイト

松下 浩二(まつした こうじ)氏

一般社団法人Tリーグ 代表理事/チェアマン
明治大学卒業後、1990年協和発酵、1993年日産自動車、1995年グランプリ、1997年ミキハウスを経て、2005年から再びグランプリ所属。93年日本人初のプロ卓球選手となる。スウェーデン、ドイツ、フランスの欧州3大リーグを経験後、02年中国リーグに初参戦した。ブンデスリーガのボルシア・デュッセルドルフ所属時の1999/2000年シーズンにはヨーロッパチャンピオンズリーグで優勝を経験。オリンピックには、バルセロナ、アトランタ、シドニー、アテネと4大会連続出場。最高成績はアトランタオリンピック男子ダブルスのベスト8・5位入賞。

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