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箱根湯本の老舗「ホテル おかだ」に聞く 旅館業×IoTのカギは現場にあり

IoTデバイスが旅館業で役立つ可能性

提供: ビッグローブ

ビッグローブ(BIGLOBE)がさまざまな企業の事業改善に役立てるべく販売している、AndroidベースのIoTデバイス「BL-02」。クロスボーダーな産業とのコラボ対談をお届けする第2弾では、旅館業にスポットを当てる。ホテルや旅館など、IT化は進んでいるが、まだまだアナログな部分が多い業態での実態はどうなっているのか。箱根の老舗ホテル「ホテル おかだ」取締役営業部長の原洋平氏、ビッグローブでIoTデバイスを担当する法人事業本部の羽石斉氏と森崎泰弘氏による対談の模様をお届けする。

左からホテル おかだの原洋平取締役営業部長、ビッグローブ法人事業本部の森崎泰弘氏、同じく羽石斉氏

――本日はよろしくお願いいたします。IoTハードウェアは旅館業ではどのような活躍の可能性があるのかについてお話をお聞かせください。原さんはSEとしてのキャリアを持ち、この10年ほど「ホテル おかだ」のIT化を推進してこられました。まずはご経歴から、旅館業とIoTの課題と実例、そして可能性に付いてお話をうかがえますでしょうか。

原氏(以下、敬称略):「ホテル おかだ」は親族が経営しているホテルなんですが、私はNECでSEとしてインフラの仕組みを作るような仕事をしていました。Windows系のOSからミドルウェア、ネットワーク、データベースの設計構築をしていて、その上に乗るアプリの最適化が中心でした。ずっとIT業界でやっていこうと思っていたんですが、30歳の頃に両親から「そろそろどうだ」と言われ、経営に関われるなら面白いと思ってホテルに入りました。

直面している旅館業の課題とは

ホテル おかだ

――原さんが戻られる前から、ホテル おかださんのシステムはIT化されていたのでしょうか。

原:ITを勉強してきてホテルに戻って来たときの印象は「意外と頑張っている」だったんです。(宿泊管理を行なう)ホテルシステムも入っていて、データベースもしっかり作られている。ただ、オペレーションに落とし込めていなくて、まったくITが浸透してない部分がたくさんありました。

 たとえばワードやエクセルの操作そのものが、すごく非効率で、部屋割り表をつくるときも、入力を間違えたら文字を消して全部直して……みたいなことを何度も繰り返していました。それだけですごい時間を取られていたり、お客様へのプランチケットをお渡しするのにもいちいち手間がかかっていました。まずはそういうすごく細かいところからITで最適化していきました。

羽石氏(以下、敬称略):そのあたりの仕組み作りはNECで使える技術を習得されていたということなんですね。

原:NECのときにインフラ周りをやっていたので、1人で完結して全部つくれました。外注すると高くついてしまうので。

森崎氏(以下、敬称略):旅館業の従事者でそこまでITに精通されている方は、ほかになかなかいらっしゃらないですよね。いろいろな方にお会いする中で課題としてあがってきているのが、ITの部分を理解された上で、その業種の仕事も、両方理解されている人は、どこの業界でもすごく少ないことです。実際ITシステムはいつごろから改良されたんでしょうか。

原:2009年の約10年前からゆっくりとひとつずつ改善してきました。現場にITを使ってもらうのはすごく難しいんです。現場の作業ってホテルシステムで出てきた帳票を、たとえばレストランの受け付けで使いやすいようにエクセルで作った紙のフォーマットに書き写していたんです。システムで簡単にできる部分なんですが、今までと同じモノがボタンを1つ押すだけでパソコンの画面上に全部表示されるとか、そのぐらいわかりやすくしないと現場の人は使ってくれませんでした。

羽石:約10年間いろいろやられて、旅館業自体の効率化はいかがでしょうか、IT化によって何が変わりましたか?

原:1番変わったのは手作業でずっと2時間ぐらい書いていた書類が、ボタン1つ、5分で終わるようになったみたいなことでしょうか。そして次に変わったのが、コミュニケーションの取り方です。今までは電話でやっていた部分がデータでやりとりできるようにしました。

 現場のスタッフはお客様が目の前にいるので、出られないことがどうしてもあります。ただ、電話に出られないとストレスがすごく溜まるんですよ。そこでレストランとフロント、客室担当さんが集まる場所をネットワークでつないで、おのおのがパソコン上のデータでコミュニケーションが取れるようにしたんです。

羽石:何か連絡があってもいちいち電話しなくていいということですね。それは経営的にもコストの節約になったとうことですか?

原:経営的にはコスト面でどれだけ効果が出たかというのは見ていません。というのも、効率化を図ろうとすると、どうしても現場視点からすると効率化した分、新しい仕事をやらされるように思われて浸透しないんです。だから、みなさんが楽になりますよという程度にとどめています。その辺は意識をしてやってきた部分ですね。

IoTデバイスが旅館業で役立つ可能性

BL-02

――現場の改善があって、クラウドによるいろんな影響があってとなったときに、次に出てくるのが多分デバイスやIoT機器を使った、これまでとは違う展開っていうことになってくると思いますが、実際このようなIoTデバイスに興味はありますか?

原:めちゃくちゃありますね。ぜひいろいろ教えていただきたいなと思っています。

森崎:今、旅館業においてIoTデバイスが注目されているのが、ベテランのノウハウを新人に伝えるために使えるのでは、という点です。たとえばベテランの仲居さんにデバイスをつけてその行動を記録することで、1日どういう風に動いて接客をしているのかを見ることができます。面白いのはベテランの仲居さんは客室の入り口までしか入らないのに対して、新人は奥まで入っていて、それだけ無駄な動きが多いというのがわかったことがありました。そういった今まで見えなかった部分が見える化することで、新人でもベテランの動きを真似しやすくなるわけです。

 そのほか、機器連携では駐車場に設置したカメラでお客様の車のナンバーを読み取ってデータベースに登録しておけば、車が来る5分前、10分前に通知を受けることができて、玄関でのごあいさつがスムーズにできるといった使い方もできます。

 去年ぐらいから、音声のテキスト化であったり、クラウド通訳、物理機器との連携によって、今までベテランの仲居さんしかできなかったおもてなしを、より多くのスタッフができるようになるという部分で、大きく注目されています。

羽石:今IoTデバイスは製造業にどんどん入っています。生産設備の稼働状況だとか、生産ラインの進捗状況が全部オンライン化されているんですけど、大きな会社で投資ができる大手メーカーさんは機械の自動化やセンシング、データ分析などはもう進んでいて、あとは人やモノがどこにあるか、どこからどこに移動したかを、分析することによって、もっと効率が上がるんじゃないかと検証しているところですね。

 実際、旅館業にも「BL-02」を使っていただいているんですが、敷地が広いところで仲居さんの呼び出しにポケベルを使っていたんです。その代替として、スマホだと接客業上お客様からの見栄えがよくないということで、BL-02を採用いただきました。

 ただ、仲居さんやベッドメイキングの方がコミュニケーションツールとして使うだけなのはもったいないので、今、森崎がお話したような位置情報を取って、もっと効率化するというようなアプローチができないか、期待しているところです。

原:今、うちでは館内PHSを使っているんですが、「どこどこの宴会場を担当している仲居さんにビールを何本追加」という話になると、フロントから仲居さんに電話で伝えているんです。だから接客していたら通じないし、フロントもお客様が目の前に来ちゃったら電話できないという課題があります。

 そういった問題を解決できる仕組みがないかはずっと考えていました。ビーコンやカメラで位置情報を把握して、混む時間に合わせて事前に人の配置も変えておけるような。ただ、一番の問題は、現場に導入できるかなんです。実際にテストシステムを作ってみましたが、今までのやり方をガラッと変えてしまうことになるので導入はできていません。

羽石:ソフトランディングしながら導入するっていうのも、簡単じゃない気がするんですけど、以前のITシステムの導入も時間は掛かったんですか。

原:時間がすごく掛かるものもあれば、導入してみたものの、まったく使われないものもたくさんありましたので、そこはやりながらですね。いきなり大きな変化を導入すると、業務が大きく変わるので拒否反応が出ます。現場のみなさんは、そもそもが非効率だなんて思わずに自分たちで改善しながら行っているので、今が1番いいかたちだと考えているはずなんです。

 だから、いきなり最終形態にするんじゃなくて、1歩先のツールを入れて動かして見せます。すると、「こんな風に見えるんだ、じゃあこんなこともできませんか」みたいな声がちょっとずつ出てきています。実際にそのデータを見せると「こういうデータもう1個入れられますか?」と返ってきたり、「こういうものってつくれますか?」っていう声が現場からちょっとずつ出てきているので、改善されてきたなというふうには思っています。

森崎:興味ある人から段階的に入れていったり、時期をちょっとずつ切って、ボタンを1つ増やすだけとか、データを1つ増やすだけっていうのを細かく段階をあけて、2年、3年スパンでみると大きく変わっているっていうやり方が、現場の人にも負担をかけずに改善ができますね。

羽石:10年くらい前に料理屋の予約伝票がどんどんデジタル化する時期がありました。旅館業も今、多分それが進んでいる過渡期にあるんじゃないかなと思って見ているんですけど、IoT機器を入れていく方法を考えられている感じなんですね。

原:社内のお客様というよりは中をどれだけIoTを使って可視化をして、よりお客様との接客する時間や、接客のやり方をもっとお客様に寄り添うかたちにできるかに特化していきたなと思っています。その仕組みの裏側をつくっていくためにIoTがこれからすごく使い勝手のあるものになるなとは思っています。

 たとえばうちはエレベーターが12階まであって、往復だけですごく時間がかかるんです。12階に人がいなくて1階から上がっていって作業するよりは、11階の人がすぐ行ったほうがいいわけで、そういうことって多分IoTで解決できることなのかなと思っていますね。

 あとお客様とお話をするときの情報としても、どういう観光情報をお伝えするとより喜んでもらえるかとか、そういう情報もちゃんと蓄積していきたいなと考えています。

羽石:お話を聞いていて、今考えているのは、旅館でサービス受けたお客様が日中どういうところ歩いてきたか、せめて宿泊されているうちは行動を見ていて、地域の旅館さんがちゃんとマーケティングをしっかりできる仕組み。そのためのセンシングデバイスは将来的には目指すべきかなと思っています。

原:「BL-02」の位置情報はGPSとビーコンと両方いけるんですか?

羽石:いけますが、GPSはやっぱり屋外用ですね。屋内は導入コスト的に考えてもビーコンが多いです。

原:やっぱりビーコンで屋内位置測位ができるといいなって思います。たとえば「何号室になにかを持っていく」というときに、何号室に1番近い仲居さんから通知して、「その仕事やります」みたいな感じで進められると、効率が上がると思うんです。当然現場からの反応も考えなくてはならないですが。

羽石:最後に製品だけじゃなくて、未来の可能性の部分でこういうデバイスがほしいといった、希望があればぜひ教えてください。それがヒントになってもしかしたら新しい何かが生まれるかもしれません。

原:今すぐ考えられるのは、スタッフの動きや、コミュニケーションが円滑になれるような仕組みですね。あとは、やはり位置情報を見て全体的にコントロールできるようなものっていうのがほしいです。ただ、予約の段階でのAI導入なども実際にしていますが、やりたいけどちょっとやりすぎかなっていうのもありますので、今は技術と実際との境にあるものがたくさんあるなと思っています。

羽石:ハードもソフトも進化を続けています。それらがつなぎ合わさったときに革命が起きるといいます。IoTデバイスによって、開拓しがいのある世界が広がっているんじゃないでしょうか。

※BL-02の製造元は株式会社オプティムとなります。
(提供:ビッグローブ)

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