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技術者のこだわりが詰まった超ハイエンド機

約100万円の重量級プレーヤー、ソニー「DMP-Z1」は中身も駆動力も本物

2018年10月17日 13時00分更新

文● 小林 久 編集●ASCII

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 驚くほど巨大で、とんでもなく高額なデジタルプレーヤーが登場。香港やベルリンなど海外の展示会で先に披露されていた「DMP-Z1」がついに日本で正式発表となった。

DMP-Z1

 DMP-Z1は、ソニーのオーディオ技術を結集し、アーティストの意図する音楽表現を再現することを目的とした「Signature」シリーズの第2弾であり、希望小売価格はおよそ100万円(税込で102万6000円)。発売は12月8日だ。

 操作感に関しては「NW-WM1Z」を筆頭とした、従来のウォークマンそのものでありつつも、高出力/高S/N比のアナログアンプを搭載し、「TA-ZH1ES」のような据え置き機に匹敵するドライブ能力を兼ね備えている。ひとことで言えば、これまでにない挑戦的なコンセプトの製品になっている。

ウォークマンを最強に強化したらこうなった?

 さてこのDMP-Z1、見た感じはデスクサイドに置く「ヘッドホンアンプ」だが、USB DACに加えて、256GBの内蔵メモリーとmicroSDカードスロットも2基装備する。つまり、ウォークマンなどと同様に、単体でも音楽再生ができる「デジタルミュージックプレーヤー」(DMP)なのである。

本体の左側にmicroSDカードスロットを装備。4.4mmのバランス駆動用端子と一般的な3.5mmのミニジャックを備える。

 後述するように、バッテリーも内蔵する。目的は高音質化のためであり、重量も2.49kgある。しかし持ち運んでの利用も可能だ。常時携帯するのは難しいが、両手で持ち上げるぶんには特に問題のない重さとも言える。使い終わったら片づけたり、ACアダプターを外して、書斎やバルコニーなどに持ち運んで使うことも十分想定できる。96kHz/24bitのハイレゾ音源をバランス駆動で再生した場合、約9時間の再生ができるので長さも十分だろう。

 本体サイズはおよそ幅138×奥行き278.7×高さ68.1mm。フットプリントは、A4サイズ(210×297mm)の紙を縦に折って、少しスリムにした感じをイメージするといいだろう。

モダンな建築物を思わせる、シンプルな外観

 高額な機種ではあるが、それに見合った質感も備える。

 写真では伝えきれないが、実機を目の当たりすると、細部まで仕上げが美しいデザインにひかれる。鏡面仕上げのアルミ天面部、存在感のある金色のボリュームノブ、そしてその付け根が、透明な窓から一部だけのぞいて見える様子などは、オーディオ機器というよりも、モダンな建築物を見ているかのようだ。

シンプルですっきりとしているが、透けて見えるボリュームの存在感は、まさに工業製品という感じである。

 上部にはウォークマンをそのまま埋め込んだのではないかと思うような、タッチ対応の3.1型液晶ディスプレーがある。最も操作する機会が多いであろう選曲用のボタンは手前に置いている。

風格ある外観を見て、制震設計のビルの地下に置かれたダンパーを連想してしまった

高音質化のためのバッテリーは
アナログ部とデジタル部を完全に分離

 特徴的なのは電源部だ。電源は合計5セルのバッテリーパックを使って供給するが、ここもデジタル回路用に角型の1セル、アナログ回路のプラス/マイナス用に円筒型の2セルをそれぞれ使ったこだわりの設計だ。デジタル回路用とアナログ回路用で完全に電源を分け、かつ左右で電源も完全に独立させることで、相互の干渉を防いでいる。

奥にある白い円筒形のバッテリーがアナログ回路用。

デジタル基板用にも別途バッテリーを用意している。

 ハイエンドのオーディオ機器では、AC電源で直接駆動するのではなく、敢えてバッテリー駆動を採用している機種が存在する。その理由はノイズが少ないクリーンな電源供給が可能になるためだ。コンセントの電源は意外と汚れている。通常であれば、AC(交流)のコンセントから電源を取り、巨大なトランスやコンデンサーを使った機器の電源部で整流して使うが、DC(直流)のバッテリー駆動にすれば、この回路が不要となる。結果、小型化もできるし、他の機器などから飛び込んでくるノイズの影響を避けられるのだ。

AC電源駆動からバッテリー駆動への切り替えイメージ。

 DMP-Z1では「バッテリー駆動優先起動」を選ぶと、スリープ時にAC電源からバッテリー充電を行っておき、音楽再生をする際には自動的にバッテリーのみで駆動することができる。バッテリー駆動時間は再生フォーマットにもよるが8~10時間ほど。充電時間は約4時間だ。

AKMのハイエンドデュアルDACを搭載

 内部はデュアルDAC+フルバランスの構成で、旭化成エレクトロニクスの「AK4497EQ」を左右独立で2基使用している。11.2MHzのDSD音源や384kHz/32bitのPCM音源のネイティブ再生に加えて、MQAなどの再生も可能だ。

AKMのAK4497EQを2基備えている。

 ボリューム部には、重厚な真鍮ケースに、接触抵抗の少ない銅メッキと金メッキを施した、ソニー専用カスタムのロータリーボリュームを使用。これはアルプス電気の4連ボリューム「RK501」をカスタムしたものだ。先端部のノブはアルミ削り出しとなっている。

重厚感あふれるキーパーツのロータリーボリューム

 アナログアンプ部にはTIの「TPA6120A2」を使用。4.4mm5極のバランス駆動時で実用最大出力1500mW+1500mW(16Ω)、3.5mm3極のアンバランス駆動では570mW+570mW(16Ω)という高出力を誇る。

 高剛性だが軽量なアルミシャーシもこだわりのポイント。H型のアルミ押し出し材を切削加工して作っており、側面のフレームと一体化している。このシャーシに対してデジタルのメイン基板を下面、アンプ基板を上面に置くことで、回路を分離するとともにGND部を強化。ノイズの影響を最小限に抑える構造とした。

カバーを外すと、プロペラ式の戦闘機を思わせる。

シャーシはアルミ削り出し

 内部に関しては金メッキを施した無酸素銅プレートをデジタル基板の下に挟んでGNDの安定性を高めたり、瞬間的に大電力を供給できるよう「電気二重層キャパシタ」を合計5個搭載したり、新開発の金入り「高音質はんだ」を使用したりといった形で、パーツレベルの高音質化にも取り組んでいる。

アンプ部分からヘッドホン出力端子をつなぐケーブルはキンバーケーブルと共同開発したもの

 基板を見てみると、従来のウォークマンでも採用している配線を直線的ではなく、曲線的に引いて、信号が自然に流れるようにする回路パターンだったり(そのために部品の一部が斜めに実装されていたりする)、FS(Fine Sound)やFT(Fine Tone)の文字で視認できる、カスタムの高音質抵抗/高音質コンデンサーなどもふんだんに使用。GNDを強くするため、12層基板を採用するなど、ここまでお金を掛けるの?と思える内容になっている。

アナログ基板部。不自然にパーツが斜めになっていたりするが、これもこだわりポイントだ。

金色の文字で「FT」と書かれたコンデンサー。

小さくて分かりにくいかもしれないが、抵抗にも「f」と書かれている。

 ちなみに細かいところでは、普通に見えるゴム脚が内側にソルボセインを使用した3層構造になっていたり、普通は省略されがちな裏側(底部)の仕上げも天板と同様の仕上げにしたりと、聞けば聞くほどこりゃ深いわ~と思える要素に行きあたる。

脚部もこだわり。底面の仕上げまでこだわっている点はウォークマンの開発をしてきたからこそ。

ウォークマンの吟味された機能とUXを踏襲

 ソフト面では新開発の「バイナルプロセッサー」が特徴的だ。すでにNW-WM1Zなどのソフトウェアアップデートで提供されているが、アナログレコードの再生はなぜ心地いいのかに着目して「初動感度特性」や「空間フィードバック」を考慮した、新しいDSP処理を加えている。

タッチ操作のUIはウォークマンそのものだ。

 これは何かと言うと、アナログレコードの再生時には表面を針が滑る際に生じるサーという「サーフェイスノイズ」が常に発生している。これが電気信号として、スピーカーユニットに伝わり、曲間などの無音部でも常に揺れている状態になる。これはいわばウォーミングアップのようなもので、スムーズな音の立ち上がり(初動感度)につながる理由なのだという。

 また、スピーカーから発せられた低域などの振動はプレーヤーやラック自体も揺らすため、その影響が針先にも反映される。ここが豊かな音の響きの原因になっているという。これらの要素をDSPでシミュレートして、デジタル音源の再生時に反映するのがバイナルプロセッサーだ。アナログだから何となく柔らかくて暖かい感じがする、プツプツとしたノイズがレトロで味がある……といったフィーリングではなく、アナログの音がよく感じられる理由を具体的に検証して搭載した機能となる。

バイナルプロセッサーとDSEE HXの設定画面

 ほかにも圧縮や録音時に失われた高域成分を補完する「DSEE HX」の進化版として、AIを利用して曲の種類を自動判別。より適した高域の補完ができたり、PCM信号を一度5.6MHz相当のDSDに変換する「DSDリマスタリングエンジン」などを利用できる。

低能率のヘッドホンも軽々と動くはず

 肝心の実際の音に関しても、駆動力がとても高く、とにかくユニットが軽く動く印象。特に4.4mm5極のバランス駆動では、300ΩとハイインピーダンスなHD 800Sも難なく動く。結果として、低域が前に出てくるし、音の輪郭感がハッキリと出て、ボーカルなどの中域もこもり感がなくハッキリと聞こえる。パワフルで、みなぎるような躍動感のあるサウンドだ。

再生中にはスペアナやアナログメーターを表示することができ、気分が盛り上がる。

 ちなみに、ドライバーサイズが大きな、オーバーイヤータイプとの組み合わせだけでなく、インイヤータイプの「DITA Dream」でも試してみたが、これまた携帯プレーヤーでは感じたことのない余裕感がある。少々動かしにくいドライバーも、低域が自由に動き、重い荷物を肩からおろした時のような、開放感を感じられた。音調については、味付けがなくストレートなソニーらしいものであったが、そのぶんヘッドホンが本来持っている個性を引き出せるようにも思えた。

USB Type-C端子のみと非常にシンプルな端子部

 機能的には、アナログ出力はヘッドホン端子のみ。外部機器への入出力はデジタル(USBまたはBluetooth)のみとなる。単体での再生のほかには、デスクサイドに置いて、USB接続したパソコンの音を高音質に楽しむ使い方が想定される。

 その一方で、ウォークマン A50シリーズを皮切りに、最新のウォークマンのファームウェアが対応したスマホで再生した音楽をBluetoothで受ける機能も利用できる。

 NFCに加え、LDACやaptX HDにも対応。つまりXperiaシリーズなどスマホとの接続も簡単なので、ハイレゾ再生にこだわらず、積極的に利用したい。Spotifyのようなストリーミングサービスを聴けば、いままで気づかなかった曲のニュアンスに触れられるかもしれない。

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