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自殺未遂まで!仕事で追い込まれた仲間を救う2つの配慮

2018年08月08日 06時00分更新

文● 中島 輝(ダイヤモンド・オンライン

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仕事仲間を気遣える環境になっているか?
会社、部、課、チームといった組織の中で、仕事仲間を気遣える環境になっているか?(写真はイメージです)Photo:PIXTA

小学生の時から双極性障害(躁うつ病)・パニック障害・過呼吸などに苦しみ、その後克服した『大丈夫。そのつらい日々も光になる。』の著者・中島輝氏。自身の経験を活かし、心の病を抱える人に対して、解決へと導く手助けの一翼を担いたいという思いから「心理カウンセラー」となり、これまで1万人以上のカウンセリングを行ってきた。今回は、納期の遅れを取り戻そうと奮闘、努力しても成果が出ず自信を失った40代の中間管理職の驚きの行動を紹介したい。

いつもと違うメール内容に違和感
本人の自宅へ向かうと…

「ごめん、先生、もう無理」

 生暖かい空気がまとわりつく不快な夏の夜のこと。佐伯隆史(42歳)さんとのカウンセリングが始まって以来、毎日届くメールには「死にます」と書かれていたが、この日はいつもと違う内容が届いたのである。

 嫌な予感がした私は、急いで車に飛び乗った。彼のアパートに着くと、ドアの下からうっすらと明かりが漏れているのを確認、部屋のチャイムを鳴らした。しかし、応答がない。

 彼の両親の家に電話をかけ、アパートの大家に連絡してもらった。彼が仕事で悩んでいたことは両親も知っていたため、すぐに状況を察し、大家にドアを開けてもらうように手配をしてくれた。

 大家がドアを開け、「佐伯さん」と叫びながら部屋に入ると、テーブルの上にコンビニ弁当の容器などが散乱し、最初に会った時のカビ臭さとタバコの匂い、生ごみの臭いが重く漂っている。

 風呂場へ向かうと、ドアは内側からガムテープで目張りしてあり、すりガラスの向こうに人影が見えた。力一杯ドアを何度も押し、ガムテープを引き剥がした。

 佐伯さんは両腕に練炭を抱えてぐったりしていた。すぐに練炭から引き離すと、目を閉じたまま小さく「うう」と彼の唸り声が聞こえた。

「まだ生きている。大丈夫だ」と思い、私は彼をリビングまで引っ張っていく。

 それからしばらくして、彼は意識を取り戻し、力のない声で「ごめんなさい」とつぶやいた。私は「大丈夫」とだけ言い、背中をさすり続け、朝がくるのを待った。

主力商品のリニューアル要求が高い!
成果が出ないため、自信を失う…

 佐伯さんとのカウンセリング開始は遡ること、3ヵ月ほど前。仕事のプレッシャーで悩んでいるという相談を受けたため、私は週2回のペースで彼と会い、話を聞いた。

 彼は製造業に勤め、商品開発の部門で主力商品のリニューアルを担当していた。会社の看板商品だけに要求は高い。進捗が2ヵ月近く遅れ、納期の遅れを取り戻そうと、生真面目だった彼は毎日、朝から深夜まで働き、時には終電に乗れないこともあったという。そのせいもあり、最初に会った時、彼の顔を見るとすでに生気が感じられず、疲れ切っていた姿が印象に強く残ったのである。

 彼は努力しても成果が出ないためにイライラし、自信を失っていた。

 
 次第に上司が自分を見下し、部下にも馬鹿にされているように感じ、職場が嫌いになっていた。

 気づけば「首吊りよりも練炭の方がいいか。リストカットは痛そうだ」といったように、死ぬことばかり考えるようになっていたという。

 実際、ネットショップで練炭を買っていた。それでも当時はまだ、もがくだけの気力があった。なぜなら「自分を変えなければいけない」と思って私のところにやって来たからだ。

 カウンセリングで悩みや不安を打ち明けるうちに、彼の厳しい表情が徐々に優しくなってきた。「もうダメだ」と頻繁に言っていた彼が「今日はいい天気ですね」「昨日はぐっすり寝られました」というように前向きな言葉が出て来るようになる。

 彼の表情や話す言葉から、心に落ち着きを取り戻したと判断、私はカウンセリングのペースを週1回に減らした。そんな矢先、失望に満ちた冒頭のメールが届いたのである。

40~50代の
自殺者が多い

 厚労省の「警視庁自殺統計原票データ(平成29年度)」によると、日本では年間2万人以上(1日58人)が自殺しているという。
https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H29/H29_jisatsunojoukyou_01.pdf

 年代別では、最も多いのが佐伯さんと同じ40代で、次に50代と続く。ここ数年の自殺者数は減少傾向にあるが、このデータは、警察によって自殺と断定された人のみの数字であること、また、自殺未遂者を含んでいないことにも留意しておく必要があるだろう。

 中間管理職や管理職にとって、自殺は決して遠い存在ではないのだ。特に注意すべきは、自殺願望は何事においても真面目で責任感が強く、完璧主義のタイプに見られ、恋人や家族と過ごしたり、旅行に出かけたりして気持ちを切り替えるのが苦手だという人が意外と多い点である。

 佐伯さんは気持ちの切り替えが得意ではなかった。なぜなら、彼には趣味がなく、生活は仕事中心であり、彼が職場で居場所を失いかけていたからである。

 それはとてつもなく大きな恐怖であり、彼を追い詰めた要因でもあった。

 では、どうすればその恐怖を取り除くことができるのか、ポイントは2つあると思う。

自然と気遣い合う
職場づくりが大事

 1つ目のポイントは、会社、部、課、チームといった組織の中で、お互いを自然と気遣う雰囲気を作り出すことである。

 2016年2月、米アルファベット(旧グーグル)社が取り組む働き方改革に関し「プロジェクト・アリストテレス」と名付けられた同社独自の調査に関する記事がニューヨークタイムズに載った。

 プロジェクトの目的はチーム(組織)の生産性向上につながる要因を見つけることだ。

 結論からいうと、チームメイト同士の仲良し度合いやリーダーシップの発揮具合などは生産性向上との関係性がほとんどない。重要なのは、チームメイトへの配慮、同情、共感といったメンタル面のつながりがあるかどうかだ。その結びつきが強いチームほど、生産性が高くなる。この結びつきから生み出される居心地の良さや安心感のことを、心理学では心理的安全性という。

 例えば、忙しそうにしている同僚に対して「大丈夫?」「手伝えることある?」と声をかける。「大変そうだな」「この仕事は手がかかるよな」といった同情の一言でもいい。

 そんな小さなコミュニケーションがあるだけで、自分はチームの一員であると感じられ、チームとしての生産性が高まる。同時に心理面では、相手が居心地の良さを感じ、周りが自分を気にかけてくれていると実感できる雰囲気作りが重要。そのためには日々の声かけが必要なのである。ここでは成果は求めてはいけない。

 もし、佐伯さんの職場でも心理的安全性の交流ができていたら、佐伯さんは「周りに迷惑をかけている」という責任感や完璧主義の思い込みは少なかったに違いない。

素の自分でいられる
時間を作り出せ

 自殺を防ぐ2つ目のポイントは、素の自分でいられる時間を作ることだ。特に同僚や部下に対しては、そういう時間が作れるように配慮しなくてはならない。同時に、自分自身のメンタルを守るためでもある。

 そもそも自殺を考える人には、完璧主義で責任感が強いという共通点が見られる。佐伯さんもそのタイプで、成果を出すことに過度な責任を感じていた。

 また、人はその時々の状況に合わせて与えられた役割を演じようとする。例えば、仕事では頼れる上司、家庭では優しい夫や父親といった役割である。1つひとつの役割を果たせているかどうかの評価を気にしすぎるあまり、自分なりに満足できなかった時には自信を失い、その果てに自殺を考えてしまうのだ。

 自殺する人の最期の言葉や遺書の文面に「ごめんなさい」が多いのも、「役割を果たせずに申し訳ない」という気持ちが表れていると言えるだろう。つまり、自分に与えられている役割を過剰に意識し、完璧にこなそうと考えるのだ。

 もし、素の自分でいられる時間が多少でもあれば、役割を演じ切ろうという意識を緩和することができる。

 そこで勧めたいのが、1日30分でもいいから1人でリラックスする時間を作ることである。たとえ仕事や家庭で完璧な役割を果たせなかったとしても、完璧にやろうと努力した自分を評価できるかもしれない。頼れる上司、優しい夫といった仮面を取った自分と向き合うことで、本来の自分に戻ることができる。自分自身でも意識してそのような時間を持つことが大切である。

 上司の立場からすると、疲れている部下を飲みに誘ってねぎらおうと考えることがあるだろう。

 そこで気をつけることは、普段、素になれる時間が足りていない人には逆効果になってしまう点だ。なぜなら上司と飲んでいる間、部下は自分の仮面を外せないからである。その場合は、早く帰れるように配慮をしたほうがいい。

 佐伯さんの場合、成果を出さなければならない自分という仮面を常に被り続けていた。1人でいる時間があったものの、仕事を離れた時の趣味はこれといったものがなく、仕事中心で責任感が強いタイプ。さらに職場では主力商品のリニューアルを任せられていた。会社からの期待は大きく、「売れなかったらどうしよう」といった不安や納期の遅れに伴うプレッシャーを受けたことによって精神的に追い詰められたのである。

 唯一、本来の自分に戻れたのは、遠慮なく悩みや不安を打ち明けられるカウンセリングの時間だった。彼のように生真面目な人ほど、素の自分でいられる時間を作り出すことが必要なのである。

 さて、佐伯さんであるが、自殺を図った翌日の昼前に両親がアパートに来て、実家に連れ帰った。以来、私は会っていない。会うと当時の苦しかった状況を思い出してしまうと考え、こちらから連絡は取らないようにした。

 その後、たまたま知人の忘年会に参加した時、佐伯さんを知っている同僚がいた。彼は「佐伯さんは私と同じ会社にいますよ。休んでいた時期がありましたが、すっかり立ち直り、素敵なパートナーを見つけ、数年前に結婚をしました。2人のお子さんにも恵まれて、いつも楽しそうに仕事をしています。最近はまた出世をしたみたいですね」と教えてくれた。

 楽しく、笑顔で暮らしている様子を想像しつつ、あの時彼のアパートにかけつけ、何とか一命を取り留めてよかったと思う。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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