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外国人住民からの生活/行政情報問い合わせに自動回答、「Oracle Service Cloud」ベースで構築

港区の外国人向け「多言語AIチャットボット」にオラクルが技術協力

2018年07月30日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 日本オラクルは2018年7月27日、東京都港区が提供開始する「AIチャットによる外国人向け生活情報案内サービス」の仕組みを、AIチャットボット機能を備える「Oracle Service Cloud」などオラクルのクラウドサービスを用いて構築する技術協力を行ったと発表した。防災、ごみ収集、教育(区立小学校)、国際/文化の4分野に関する問い合わせに、英語と「やさしい日本語」の2カ国語で回答することからスタートする。

 同日の発表会には港区 区長の武井雅昭氏、日本オラクル 専務執行役員 公共営業統括の白石昌樹氏が出席し、外国人住民が多く住む港区の現状と多言語AIチャットによる情報提供開始の背景、サービス内容の具体的な説明、さらには今後の展開などについて語った。

港区の外国人住民向けFacebookページ「Minato Information Board」からチャットで質問を送ると、AIボットが回答する仕組み

(左から)記者発表会に出席した港区 区長の武井雅昭氏、日本オラクル 専務執行役員 公共営業統括の白石昌樹氏

住民の8%が外国人、「国際都市・港区」の行政サービスをさらに進化させる

 東京都港区の住民人口は現在およそ25万6000人だが、その約8%を占める2万人が外国人住民だ。国内にある駐日大使館も半分以上が港区に集中しており、外国人住民の国籍は140カ国に及ぶ。そのため港区では、外国人住民も地域社会の一員として安全/安心に暮らせるよう、行政情報発信の改善に努めている。すでに、広報紙や各種ちらし、Facebookページやメールマガジン、区広報番組などにおける多言語化(日本語/英語/中国語/ハングル)を実施している。

 今回のAIチャットサービスは、そうした取り組みをさらに進化させるものとなる。具体的には、港区に住む外国人がFacebookメッセンジャー(アプリまたは港区Facebookページ上から)を利用して、生活や行政情報に関する問い合わせができるというもの。話しかけると港区のオリジナルキャラクター「グル~にゃ」が登場し、グル~にゃに質問するかたちで簡単に使える。

 スタート時点では、外国人住民のニーズが高い「防災」「ごみ収集」「教育(区立小学校)」「国際/文化」の4分野について情報提供を行う。また質問と回答は、現時点では英語および「やさしい日本語」(難しい語彙を使わず、漢字に読みがなをふった日本語)で行える。提供する情報分野や対応する言語は、今後の利用動向も見ながら段階的に拡充を検討していく。

港区多言語AIチャットサービスの概要。外国人住民のニーズが高い生活/行政情報をチャットボットが自動回答する。質問が不明瞭な場合は、内容を確認する選択肢も表示される

外交人相談業務や事前アンケートでニーズの高かった4分野の情報提供からスタートする

 AIチャットサービスのバックエンドシステムには、オラクルのカスタマーサービス向けSaaS「Oracle Service Cloud」、および「Oracle Cloud」のIaaS/PaaSが採用されている。Oracle Service Cloudでは、多言語に対応した問い合わせ対応のAIチャットボット/FAQエンジンを備えている。

 今回のサービスでは、港区職員が質問例と回答をOracle Service Cloudの管理画面から登録/更新できる仕組みになっている。質問回答を追加すれば即座に反映されるほか、どんな質問(問い合わせ)が多いのかという統計データから情報ニーズを把握し、質問回答を追加してサービス品質を向上することも簡単にできる。

 また、AIが質問の意図を読み取れない場合は質問意図を確認する選択肢が表示されるが、そこでの質問文とユーザーの選択をAIが自動学習することで、ボットがより「賢く」なっていく(より多様な質問文を理解できるようになる)仕組みも備えている。

多言語AIチャットサービスは、チャットボット/FAQ機能を備える「Oracle Service Cloud」SaaSを中心に構成されている。区職員自身で質問回答を登録できる利便性、会話内容に対するセキュリティなども評価されたという

より詳細なバックエンドシステムの構成(港区の実証実験 実施報告書より)

「Oracle Service Cloud」ベースで構築、多言語対応や職員の利便性など評価

 港区長の武井氏は、港区では多様な文化と人が共生する国際都市の実現を目指しており、多言語による情報発信などの取り組みを進めてきたが、まだ課題も残されていると語る。具体的には、これまでの情報提供は一方向のメディア(広報紙、Webサイト)が中心であること、双方向のやり取りができる対面での「外国人相談」は時間と場所が限られてしまうこと、膨大な生活/行政情報があるため目的の情報にたどり着くのが難しいこと、などだ。また区側としても、外国人住民のニーズをより正確に把握したいという思いがあった。

 そこで港区では昨年(2017年)9月からAIチャットサービスの検討を開始、11~12月には日本オラクルの技術協力を受けて実証実験を実施し、実験参加者(外国人/日本人)にサービスを試用してもらったうえでアンケート調査を行った。その結果、このサービスが実用レベルにあると判断し、今年度からの導入を決定している(発表によると、同サービスはFacebookからの承認がおり次第、運用が開始される)。

 港区が公開している実証実験の実施報告書を見ると、外国人参加者は全員(100%)がこのサービスを「利用したい」と回答している(日本人参加者を含む全体では89.4%)。サービスの魅力については「24時間使える」(外国人の71.8%)、「電話/窓口より気楽」(同56.4%)、「インターネット検索より速い」(同56.4%)、「どこでも使える」(同51.3%)といった回答が上位に並んでいる。

AIチャットサービスの魅力としては「24時間使える」利便性を挙げたユーザーが最も多かった(港区の実証実験 実施報告書より)

 なお、上述のアンケート調査で「利用しているSNS」を尋ねたところ、外国人ではFacebookの割合が最も高かった(76.9%が利用)ため、今回のサービスではインタフェースとしてFacebookメッセンジャーを採用している。

 武井氏は、開発パートナーとして日本オラクルを選んだ理由について、Oracle Service Cloudのチャットボット機能が「自動学習するAI」を備えていることや「多言語対応」していること、質問回答を区職員自身で「即時の登録更新」できること、会話ログの暗号化やデータベースへのアクセス制限など「高いセキュリティ」を持つことなどを挙げた。

 また、多言語AIチャットサービス導入を通じて、外国人住民に対する行政サービス向上を図ることで、外国人の地域参画促進にもつなげていきたいを説明した。なお、同サービスは外国人の住民だけではなく、外国人住民の生活をサポートする日本人住民、さらに外国から港区を訪れる旅行者にも有益なものになるのではないかとしている。

 「多様な文化と人が共生する、活力と魅力にあふれた『国際都市・港区』を実現していくうえで、このサービスが大きな力を発揮するのではないかと期待している」(武井氏)

武井氏は、多言語AIチャットサービス導入を通じて外国人サービスを向上させ、将来的な地域参画の促進にもつなげていきたいと説明した

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