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北海道を最先端Techで開拓する「No Maps 2018」レポート第4回

VRや魚の養殖、No Maps 2018におけるFuture Labの取り組み

xTechの社会実験場へ No Mapsが北海道を変える

2018年08月14日 09時00分更新

文● 重森大 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

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最先端テクノロジーやビジネストレンド、さらには映画や音楽といったクリエイティブも巻き込んだコンベンション「No Maps」が今年も10月の札幌・北海道で開催される。主要事業が発表された記者発表の模様と合わせて、No Mapsのコアとも言える実証実験・Future Labの取り組みについてお届けする。

 昨年10月に札幌で第1回が開催された、No Mapsが今年もやってくる。カンファレンスに映画祭、音楽イベントと多彩なジャンルが交わる本イベントの中でも、キーワードである「まちに、未来を、インストール」に最も関わりが深いのは、Future Labの取り組みだろう。札幌を、北海道を壮大な社会実装実験場にしていこうと、今年も新しい技術に挑戦する企業とタッグを組んでいる。まずは、すでに発表されている代表的な3つの事業を紹介したい。

産廃を飼料化する実験に続いて行なわれる給餌試験にIoTをプラス

 道総研とカタクラフーズが稚内で進めているのは、サクラマスの陸上養殖だ。北海道といえば水産資源に恵まれているというイメージがあるし、実際にそうだった。が、昨今事情が変わりつつあるらしい。

 「天然資源の水揚げが減少し続けています。これまで天然資源に頼ってきた北海道では養殖技術が根付いておらず、このままでは水産業は衰退してしまいます」(道総研 三坂尚行氏)

北海道立 北海道総合研究機構 三坂尚行氏

 そうした中、カタクラフーズと道総研がここ数年研究を続けてきたのが、「ウロ」と呼ばれるホタテの内臓部分を魚の養殖飼料として加工する試験だった。

 重金属がたまりやすいウロは、これまでは産業廃棄物として費用をかけて処分していた。水産資源をできる限り活用するという観点からも、コストの観点からも、もったいない話だ。そのウロから有害な重金属を取り除いて飼料にしようという実験で一定の成果を得たため、実際に養殖の餌として使ってみる給餌試験へとステップを進めたわけだ。

 「実験の場所として選んだのは、北海道最北端の地、稚内です。飼料化試験のために作った施設や倉庫を流用できるという理由もありますが、もうひとつ大きな理由があります。それは稚内の海水温の低さです」(カタクラフーズ 猪股和範氏)

カタクラフーズ 猪股和範氏

 身近な魚種ということからサケ目サケ科のサクラマスを選んだが、実はサクラマスの養殖は簡単ではないとのこと。水温が高すぎると育てられないため、本州では海水を20度程度まで冷却し、濾過、循環させて養殖する手法が一般的だ。それに対して稚内では夏でも海水温は22度程度。組み上げた海水をそのまま養殖に使えるのではないかと期待されている。成功すれば施設の簡素化により、養殖コストを削減できる可能性が見えてくる。

 「稚内で事業化できるのか? という不安と、稚内だからできるのではないかという期待を今は抱えています。成功すれば稚内の水産加工業に新しい材料を提供することができるので、稚内市も応援してくれています」(猪股氏)

 この試験において日本オラクルはIoT、AIの技術を供与することで協力している。養殖用の水槽をカメラで監視し、施設が正常に稼動している状態や、サクラマスが健康に生育している状態の画像を機械学習させることで、養殖の省力化を図るのが目的だ。

 「海水をくみ上げて使う陸上養殖という取り組み自体が珍しく、(AIで利用するための)教師データもありません。サクラマスがどのように泳いでいる状態が正常なのか、天候によって組み上げる海水が濁っても観測できるのかなど、課題はこれから出てくるでしょう」(日本オラクル 七尾健太郎氏)

日本オラクル 七尾健太郎氏

 3人は口を揃えて、「研究部門にいると、研究のための研究に走りがち」と言い、研究成果を社会に実装することの重要性を語った。水産業をかっこいい職業だと感じてもらいたい、そのためにテクノロジーを投入して新しい養殖手法を確立したいと言う言葉が印象的だった。

渋谷の一部が札幌に、札幌の一部が渋谷に? 
渋谷×札幌で起こす共創

 渋谷未来デザインは、文化の発信地である渋谷を活性化することを目的に2018年4月にできたばかりの社団法人だ。都市体験デザイン、空間価値デザイン、市民共創事業デザイン、シティブランド創造事業、そして都市・大学連携事業の5つの事業を柱として活動している。その渋谷未来デザインがNo Mapsとともにトライするのは、「街に街をインストール」すること。

 「渋谷未来デザインが大切にしているのは、THINKからACTIONを起こしていくこと。社会実験というチャレンジを支援し、そこから育てていこうという考えが、札幌No Mapsに通じていると感じています」(渋谷未来デザイン 長田新子氏)

 5つの柱のひとつとして挙げられている都市・大学連携事業だが、都市と大学にこだわることなく、都市と企業、企業と企業の連携も意識されている。今回はNo Maps 2018を通じて渋谷と札幌をつなげていきたいと考えている。

 「2018年9月に開催されるSOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYAにNo Mapsにも参加していただき、翌10月にはNo Maps 2018に渋谷未来デザインが参加します。渋谷だからできること、渋谷ではできないことがあります。街と街の共創で、できなかったこともできるようにしていくのが目標です」(長田氏)

渋谷未来デザイン 長田新子氏

旅に行った気になる? 旅に行きたくなる? VRの可能性を追うBeyond Tokyo

 ANAデジタル・デザイン・ラボがNo Maps 2018に持ち込むのは、旅を題材としたVRコンテンツ。航空会社にとって脅威になりかねないVR技術を、逆に積極的に活用していきたいと語るのはBeyond Tokyoを担当する大隅雄策氏だ。

 「VR技術が普及したら、VR空間で好きな場所に行った気分を味わえるようになり、実際に旅行に行く人が減るのではないか。そんな懸念がVRに興味を抱いたきっかけでした。しかし色々と調査を進めると、旅行番組やガイドブックを360度で体験できるようにした程度のコンテンツが多く、現実に旅行に行くのと同じほどの没入感は得られませんでした」(大隅氏)

Beyond Tokyo エグゼクティブプロデューサー 大隅雄策氏

 だったら、逆にVRの技術を使ってユーザーを刺激し、旅行を活性化できるのではないか。そう考えて作られたのが、Beyond Tokyoというコンテンツだ。一方的に視聴するだけのコンテンツではなく、かといってゲームでもない。体験するにつれて、東京という街や日本という国についてわかっていくようなコンテンツにしたかったと大隅氏は言う。

 たとえば渋谷を舞台にして、ハチ公物語を体験するプログラムがある。ハチ公物語を追体験する中で、なぜこの物語が日本人の心を捉えるのか、渋谷とはどのような街なのかを感じることができる。結果的に渋谷や日本に興味を持ってもらい、実際に行ってみたいと感じてくれるようなものを目指して作られている。

 「HTC VIVEを設置しているカリフォルニア州やネバダ州の一部図書館では、Beyond Tokyoが提供コンテンツに選ばれています。街を知ることができるコンテンツであることが評価されています」(大隅氏)

 No Maps 2018では体験ブースを用意し、ANAデジタル・デザイン・ラボが開発したコンテンツ類を実際に楽しめるようにする予定。VRコンテンツがもたらす新しい世界を感じることができるのか、楽しみにしたい。

No Maps事務局がハブとなり札幌を壮大な社会実装実験場にする取り組みは続く

 一般的なコンベンションでは、交流やセッション、展示、さらにはインタラクティブなイベント開催が世界的にも一般的だ。だが、No Mapsでは昨年も、自動運転車が札幌の市街地を実走し、ブロックチェーンを活用したアイドルライブでのファンとの交流が実施されていた。


 今回の取り組みにしても、ただ一定期間のコンベンションを行なうだけでなく、養殖実験や渋谷との交流など、札幌だけでもなく北海道だけでもない広がりを見せたものになっている。なぜそのような挑戦が可能なのか、No Maps実行委員会は「北海道を社会実装の聖地にしたい」がためだと語る。

 開拓の地である北海道は、2018年で150周年を迎える。とはいえ、ほかの地域に比べればまだまだ歴史は浅い。そのような土地を実行委員長の伊藤博之氏は「しがらみのない土地」だと語っている。歴史が浅いからこそ余計なわだかまりもないため、横連携がしやすい。

 また広大な土地と自然、農業・漁業・林業といった第一次産業の一大拠点であるからこそ、AIやIoTといったこれからのテクノロジーの活用、その恩恵を受ける可能性が非常に大きい。開拓の地である北の大地での実証実験の成功は、ビジネスチャンスであり、北海道を起点として世界へのアピールでもあるという。そのためいわゆるxTech(エックステック)、既存の産業にデジタルテクノロジーを活用した新時代の取り組みを全面的にバックアップしている。

 No Maps実行委員会 事務局長の廣瀬岳史氏は、「もちろんそれぞれの取り組みの主体は、それぞれの団体や企業です。No Maps事務局は行政との折衝を行なったり、必要な技術を持つ連携先企業を探したり、ハブの役割を担っています。社会実装実験では、規制が壁になることが少なくありません。行政や警察など関係先と協議を重ね、どのような規制が壁になるのか、どうのようにやり方を変えれば許可を得られるのか、その突破口を作るのもNo Maps事務局の役割です」と語る。

No Maps実行委員会 事務局長 廣瀬岳史氏

 サクラマスの養殖が取り上げられていることからもわかるように、北海道であるため第一次産業が重視されているのは確かだ。しかし、そこに必ずテクノロジーを掛け合わせて新しい取り組みを続けていきたいと廣瀬氏は言う。

 「実証段階にきているIoTやAIのほか、宇宙産業にも目を向けています。宇宙で得られる情報を活用したり、衛星ビジネスを北海道に根付かせたり。とにかく新しいことに取り組んでいく機運を札幌に作っていきたいんです。No Mapsのスタイル、プラットフォームは変わらなくても、そこに年々新しいコンテンツが乗ってくるようになれば、市民の方々も、札幌は最新テクノロジーを取り入れる街と感じ始めるのではないかと期待しています」(廣瀬氏)

 そのためには10月のイベント期間も大切だが、それ以外の期間に行なわれる開発や試験が欠かせない。理想は、10月のイベントで種まきをして、出会いが生まれ、翌年のNo Mapsカンファレンスで報告できるようになることだという。そのサイクルが本当に回り始めたら、札幌は本当に壮大な社会実験場になることだろう。

 この先、本特集内では、昨年の実証実験に参加したプレーヤーにも、その声を聞く予定だ。北海道発のこの独自の取り組みがどのような波及を広げているのか、イベントも含めて追いかけたい。

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