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コネクテッドカー、カーシェア、自動運転は働き方にどんな変化をもたらすのか?

クルマで仕事する3人の放談から見る「モビリティ×働き方」の可能性

2018年07月27日 10時00分更新

文● 重森大 写真●曽根田元

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創造生産性を高めるために、ワークライフシナジーでより大きな価値を生み出そう

大谷:創造性を高めるという観点からすると、いかに場所を変えるか。違うところに行って違う人と話す、もしくは場所だけ変える。それがクルマだと障壁なく割と簡単にできるということなのかな。

貝瀬:そういう側面はあると思いますね。より多くの出会いや会話が生まれます。沢渡さんと知り合ったきっかけは、共通の知人に誘われたキャンプでした。そこで話しているうちにダムや廃道の話で盛り上がって、何度か一緒に出かけているうちに仕事の話もなんとなくするようになって、そして今日に至る。そういうことを意図したわけではなかったけれど、出歩いた先で、人と対話して、人とつながる。出歩くようになることで人と接点が増えて仲間が増える、仕事とかの話も盛り上がっていく。そういうことまで含めて広義の働き方改革だと思う。

ローランド・ベルガー コンサルタント 貝瀬 斉氏

大谷:人とコミュニケーションする場所としてオフィスを再定義し始めている会社も増えている気がしますね。

貝瀬:究極的には、働きたい人が働きたいだけ働きたい領域で働けるっていうのが、働き方改革の大きな目的だと思うんです。

そこで創造生産性というのが重要になると思います。これは生み出した価値とそれにかけた時間で決まります。これまでの日本の業務効率化では、分母を小さくすることに着目していましたが、これからは分子を大きくすることにより目を向けないといけません。ここはこれまで、日本人が必ずしも得意ではなかった部分。そもそもひとりの人間が出せるアウトプットは限られるのです。オープンイノベーションの流れの中で、人々がどう対話しながら新しい価値を生み出していくかというのが、上の式の分子をどう大きくするかに直結しているんじゃないかと思ってます。

今は、時間を圧縮したいと言う人に向けて、時間を圧縮するための方策、効率化というところに偏っているけど、逆に言えば創造性を高める方向にはまだ伸びしろがあるということ。そう考えると、直接・間接含めてわいわいがやがやの機会を増やしていくってことが重要なんだと思う。

沢渡:そういえば貝瀬さんと仕事っぽい話をしたのって、たいてい関越自動車道の練馬から沼田までの間とかですよね。ゆっくり話せるんですよ。「今の時代の人材育成の課題ってさー」みたいに。

大谷:私もre:Inventでラスベガスに行ってて、日本の方と業界動向しゃべったのって、会場間を移動するシャトルバスの中だったりするんですよね。

重森:そういうところも、沢渡さんの言う「わざわざ」を減らすところに通じるのかもしれませんね。仕事の話をしようと思って関越自動車道を走っている訳じゃないし、ラスベガスでシャトルバスに乗るのだって本来の目的じゃない。クルマという空間で移動しながら会話することで生まれるものがある。

沢渡:ワークライフバランスって言葉がありますが、私は好きじゃないんですよ。そもそもワークとライフって切り離して考えるべきものなんでしょうか。私はワークとライフが一体となって相乗効果をもたらすワークライフシナジーという考え方を提唱しています。

キャリアの世界でも、Planned Happenstance(=計画された偶発性)という考え方がある。その場があることは計画されているけれど、そこで起きることはわからない。会議でもドライブでもダムに行くでもいい。その間に自由度を持たせることでそこに偶然が生まれて、きっかけが生まれて、そこにイノベーションが起こるってことがあると思うんですよね。

その自由度を与えてくれるのが、モビリティ。目的地が決まっていても、そこに行くまでの自由度がある。アジリティがあるものが出せる価値があると思う。ダムを見に関越自動車道を走っている間に、仕事の話も出てくる。

クルマで得た自由な移動時間を有効活用してバリューを出すようなソリューション、イノベーションも、働き方の多様化に貢献するでしょうね。私が最近やっているのは、移動中にオーディオブックを聞くこと。ビジネス書は大体3時間から4時間くらい。それだけのために聞くのはしんどいけど、クルマを運転しながら聞けるので、移動時間が学びの時間に変わった。

重森:僕みたいにアニソンをかけっぱなしではダメってことですね。

沢渡:アニソン好きなら、好きなことをしながら仕事場まで行けるんだからそれはそれでいいことだと思いますよ。移動しながら学ぶだけじゃなく、移動しながら好きなことを楽しむ、どちらも移動の価値を高めることですから。

大谷:わざわざの対極かもしれませんね。「ながら」というのは。

自動運転の出現により「クルマって何なんだろう」と再定義するタイミングに

大谷:元々営業車とか社用車とかで移動している人はいた訳だよね。そうした移動手段としてだけではなく、クルマを仕事場とか、イノベーションの場として考えるようになった背景には、テクノロジーとか環境とか文化とかが変わってきたってことがあるんだろうか。

貝瀬:ノマドワーカーなど、仕事をする場所の自由度を高める空気や、会社や組織の許容度が上がってきていることは感じます。実践して効率的な動きやアイデアを生むメリットを実感して、アウトプットにつなげている人もいる。それをさらに次のステージに上げて行くためには、移動や空間の自由度がもう一段上がらなければならない。それによって働き方の自由度も出せるアウトプットのレベルも上がっていく。

逆に、それを実現していく中で、クルマを生み出す側が価値起点での思考回路を持てるかどうかということの方がチャレンジだと思う。クルマを空間として使うことによって便益を享受している人は、確実にいる。クルマって何なんだろうっていうところを、ゼロベースでもう一度再定義しにいく。そこに真摯に向かえるかどうかっていうところが、クルマを生み出す側にとって技術以上に大きなチャレンジになっている。一部にはそういうセンスを持った人はいるし、トヨタが発表した「e-パレット・コンセプト」などもそこに布石を打った物だと思う。

重森:クルマの未来の話といえば、自動運転がもたらすものには2つの軸があるのではないかと思っています。個別技術を組み合わせて高速道路をレーンキープするレベル2や、それを複合化、高度化したレベル3で目指すのは、個人ドライバー向けのモビリティ。

レベル4以上の自動運転、無人運転も研究は進んでいるけれど、個人所有のクルマを無人運転にする必要はないと思う。個人のクルマはレベル3を目指し、e-パレットや無人送迎車など商用のものはレベル4やレベル5を目指すのではないかと思っています。それぞれに目指す物も変わってくると思うし。

フリーライター 重森大氏

貝瀬:自家所有のクルマとシェアードのクルマはこれからクロスしてくると思う。自家所有のクルマはコストがかかったり駐車場を探すのが大変だったり運転しなきゃいけない。一方で自家所有のクルマの絶対的な優位性は、好きなときに乗れること。タクシーでさえ、数分待つ。カーシェアリングも10年近くかけて広まりつつあるけど、まだ主流ではない。確かに便利なんだけど、シェアリングの拠点に行くまでが面倒くさい。雨が降っているからクルマを使いたいのに、雨の中シェアリング拠点まで行かなければいけないのかとか。自分の乗りたいとき乗りたいところにクルマがあるかどうかが、今の自家所有車のアドバンテージであり、シェアリングのひとつのハードルにもなっているのかなと。

ところがそこに自動運転が入ってきて、家まで迎えに来てくれるとなれば、今までの自家所有車のアドバンテージ、既存カーシェアのディスアドバンテージを打ち消せる。そうすると求められる機能も変わってくるでしょう。いかに待ち時間なくうまくマッチングしてくれるか、とか。クルマをたくさん使ってマッチングスピードを高めるのは現実的ではないので、限られたアセットをいかに効率よくマッチングして稼働率を上げるかというところに、テクノロジーが求められる。クルマそのものの自動運転技術も重要だけど、インフラ部分のテクノロジーをどう磨いていくのかというところが、サービスや世の中を変えていくという意味では実は重要なんじゃないかな。

重森:レベル4以上の自動運転が実現されることによって生まれるビジネスってのもあるでしょうか。

貝瀬:そのものでお金を取るのは難しいと思うけど、手段として取り入れてサービスの差別化につなげるのは現実味があると思う。たとえば通院サービス。病院に行って体温を測定して問診票を書くのではなく、自動運転車に組み込まれたバイタルセンサーで体温などのセンシングを自動的に行い、音声対話で問診を行って病院にデータを送っておくことだってできる。病院についたらすぐに受診できるようになる。

移動サービスはどんどん細分化されていって、それに応じて車両も多機能化していくでしょう。モジュール化すれば開発効率は過度に下がらないと思うし。

沢渡:モビリティ×エンターテインメントとか、モビリティ×エデュケーションとか、モビリティ×メディカルとか、さまざまなかけ算によってその空間の価値をどう提供していくかってことがサービスモデルになりますね。

大谷:機能によってモジュール化するとか、そういうこともできるんですか。

貝瀬:トヨタは完全にその方向性ですね。ハードウェア面だけでなく、トヨタがe-パレット・コンセプトで大きく踏み込んだのが、用途ごとに顧客自らがソフトウェアや装備をカスタマイズできるようにしたことです。今までは完成車メーカーがオペレーションの現場に間接的にタッチしながら、こんなものかなと手探りでクルマを作っていた。でも現実的なオペレーションに適したカスタマイズは、現場にいる人にしかわからない。だから、細かい現場特化の機能は自分たちで作ってくださいと線を引いたんです。

ピザ屋のオペレーションまで理解してピザ配達用の自動運転車を自動車メーカーが作ったら、何年もかかるでしょう。それを現場でやってもらうことで前倒しできる可能性が出てきた。アジャイルで、オペレーションを回しながら最適化もできる。今までとはまったく発想が変わっている。

沢渡:まさに、Mobility as a Serviceですよね。このサービスとこのサービスとこのサービスがあるので、あとはユーザーで組み合わせたりカスタマイズして使ってくれと。クラウドで言うと、サイボウズのkintoneとかと発想が似ている。

貝瀬:クルマ自体も、使ってもらいながら育てて行くという感覚だったり、育てるのはカーメーカーのマーケティング部門だけではなく、むしろユーザー自身が育てていく。その変化が大きなステップなんだろうなと思う。

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