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金融正常化「最後のチャンス」はこの1年以内、鍵を握るのは預金者だ

2018年07月11日 06時00分更新

文● 高田 創(ダイヤモンド・オンライン

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日銀が正常化の鍵を握るのは預金者
Photo:PIXTA

 6月13日、米国準備制度理事会(FRB)は7回目の利上げを行い、欧州中央銀行(ECB)も6月14日に量的緩和終了を決め「出口」に向かう姿勢を示した。そして、残るのはいよいよ日本銀行だけになった。

 しかし、2%の物価目標を掲げ続ける日銀は身動きが取れない状況にある。

 筆者はかねて、「日銀版OKルール」とする提言を行ってきた。

 ゴルフで、ゴールのカップに近づいたときにカップインにならなくても、周囲の参加者がOKと宣言すればカップインしたことにするのに倣い、日銀も物価上昇率が厳密に2%に達しなくても長期的にその方向に向かえば、周囲からOKを宣言してもらうこともあるとの問題提起だった。

「日銀版OKルール」は
どうしたら出るか

 問題は誰が日銀に「OK」と宣言できるのか。もしくは誰が現在の状況を「OK」と判断できるかだ。

 これまで黒田日銀総裁の第1期、「黒田1.0」はアベノミクスの「3本の矢」の先兵として、第1の矢で「円安・株高」好循環の大きな成果を残した。

 こうした点に対する論功行賞が、戦後では山際総裁以降となる黒田総裁の再任だった。それだけに、日銀自身は円高不安が生じ得る金融正常化には慎重にならざるを得ない。

 ゴルフでもプレーヤー自身は「OK」と宣言することができないのと同様に、物価目標でも周囲の市場参加者等から「OK」とする雰囲気の醸成が必要になる。

 もちろん、政府から「OK」を言われれば簡単だが、財政を担う政府は事実上、今回のマイナス金利政策も含めた超低金利策の最大の受益者だ。巨額の債務残高を抱え利払い負担など、財政運営と金利が緊密に結びつくなかで、OKは出しにくい事情がある。

預金金利「マイナス」に?
預金者の意識が影響力

 そうすると、政治過程のなかで影響力を持ち得るのは、国民の大層を占める預金者からの問題意識だろう。

 次の図表1は実質預金金利の推移である。

◆図表1:実質預金金利推移

図表1:実質預金金利推移(注)定期預金金利(預入金額300万円以上1000万円未満・1年以上2年未満)と消費者物価上昇率(除消費増税分)の差
(資料)日銀、総務省より、みずほ総合研究所作成 拡大画像表示

 今後、2018年後半に向けて物価環境もしばらくは、コアCPI(生鮮食品を除く消費者物価総合指数)の1%台の伸びが視野に入る。

 となると、預金者にはいまのゼロ金利のままでは預金の実質金利がマイナスになることに対する問題意識が生じやすい。

 これまでも超低利政策が長く続くことへの批判は年金生活者から、年金収入が減る不満として議論されたこともあった。

 それが預金者に広がり国民レベルの声が日銀に対する「OK」のサポーターとなることが考えられる。

短期戦から持久戦に
正常化に向け発想転換

 2013年以降、黒田総裁第1期「黒田1.0」の5年間は、バブル崩壊後に日本が陥った「雪の世界」である「超円高・資産デフレ」を解決するショック療法として、「異次元の金融緩和」が行われた。

 すでに5年が経過し、資産デフレと超円高は過去のものになった。実体経済でも供給過剰のデフレギャップ状況は、需給がひっ迫するインフレギャップの状況に転じた。

 そこで、今後の「黒田2.0」の5年間は、これまで5年の何でもありの短期決戦・有事戦から、平時の状況に向けたモードに向かうことだが基本的課題だろう。

 以下の図表2は、これまでの短期戦から、持久戦にシフトする金融政策の概念図を示したものだ。

◆図表2:今後の金融政策転換の概念図

図表2:今後の金融政策転換の概念図
(資料)みずほ総合研究所作成 拡大画像表示

 現在の日銀の置かれた立場として、金融政策を引き締めに向かうことはしにくいだろう。むしろ、一層、持続的な金融緩和を実現するための対応と位置付けて金融政策を進めることが重要になる。

 すなわち、有事から平時になったなかで、短期戦としての異次元緩和策(マイナス金利や長期金利ゼロ、EFTの購入)から、持続的に緩和を一層浸透させるという考え方への転換だ。

 具体的な策としてはおのずと副作用を弱めるべく、マイナス金利脱却やYCC(長短金利操作)の弾力化、EFT購入減額がメニューになる。

 従って、4月の展望レポートで物価目標達成時期が削除されたのは、持久戦に向けた布石が既に置かれたと解釈することもできる。

制約になる円高
米国の利上げ局面が前提

 ただし、こうした持久戦への転換を行うにあたっては、為替相場が円高に向かうリスクが最大の制約になるだろう。

 すなわち、これまでの「黒田1.0」の狙いや成果が異次元緩和による円安・株高の好循環実現であったとしたら、その逆になるのは自殺行為になりかねないからだ。従って、以上の政策転換に向けては、円安基調であることが必要だ。

 変動相場制に移行した1970年代以降、半世紀にわたる経験則では、米国の利上げが続くなかでしか日銀は利上げも含めた自由度を発揮できていない。

 つまり、米国が一度、利下げに転ずる状況になれば、日銀は直ちに利上げなどをする機会を失ってしまう。

 このことを考えると、米国が利上げを続けると予想される2018年・19年は自由度があるが、米国が利下げに転じかねない2020年・21年は動けない可能性が高い。

 従って、2023年3月までの「黒田1.0」の自由度はかなり限られ、日銀に残された時間は限られている。しかも、2019年後半は消費税率引き上げが予定されているので、その時期に正常化は難しい。

日銀に残された期間は1年以内
時期を逃すと「永遠のゼロ」

 そうした観点からは、これからの1年が極めて限られた自由度を確保できる窓が開いた時期と考えられる。なかでも今年11月の米中間選挙前後の限られた時期ではないか。

 米国政府や国内の関心が通商問題から国内政治に移る可能性があり、円高圧力が緩む期待があるからだ。

 つまり日銀が金融正常化に向けて自由度が確保されるのは、これから来年年初に向けた1年という極めて限られた機会かもしれない。

 今後、年後半にかけて日銀は、2016年9月以来の「総括的検証」の第2弾を行って自由度を確保すべく理論的な整理を行う可能性があるのではないか。

 またこの時期は、「OK」と言ってもらうべく、情報発信をして世論に働きかける重要な時期になる。

 それを逃すと、金融正常化ができないまま、「永遠の(金利)ゼロ」が続く不安やリスクが強まり、その副作用への備えも必要になるだろう。

(みずほ総合研究所 専務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト 高田 創)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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