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キラキラネーム急増の背後にある「漢字文化の崩壊」

2018年07月06日 06時00分更新

文● 福田晃広【清談社】(ダイヤモンド・オンライン

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もはや一般化しつつあるといえるほど、世の中を席巻しているキラキラネーム。名付けた親に対する批判もあるなか、それでもなぜ増え続けているのか、著書『キラキラネームの大研究』がある文筆家の伊東ひとみ氏に聞いた。(清談社 福田晃広)

1990年代半ばから増えてきた
キラキラネームの子ども

90年代半ばから、キラキラネームが増えました。
90年代頃から増え始めたというキラキラネーム。『徒然草』の時代から、見慣れない漢字を子どもの名前に使う人はいたようだが、今やキラキラネームが主流派という時代になってしまった

 一般にキラキラネームとは「これまでの常識とは異なる漢字の読み方をしていて音と漢字に大きなズレがあり、字を見ただけではパッと読めない名前。さらに、ふりがながあっても、読み方に違和感が残る名前」のことを指す。

 筆者の知人の子どもで「蒼愛(そら)」「咲花(はな)」「幸瞳(ゆきと)」など、知らないとなかなか読めない名前の子がたくさんいるが、これらはキラキラネームといって間違いないだろう。

 ほかにも、例えば平仮名で「さらだ」「こすも」という子が実際いるが、簡単に読めるとはいえ、年代が上の世代ほど違和感を覚える人も多いだろう。こうしたアニメキャラのような名前もキラキラネームではないとも言い切れず、その線引きは世代によって、あるいは人によって、あいまいなのが実態だ。

 伊東氏によれば、1990年代の半ばくらいから、教育現場や小児科の医師の間で読めない名前が増え始めた話を聞くようになったという。

「マタニティー雑誌の『たまごクラブ』が創刊されたのが1993年。少子化の影響もあって、この頃から親が我が子に他人とは違う個性的な名前を付けようという風潮が高まっていったといわれています。ほかにも漫画、アニメ、テレビドラマ、有名人の名前の影響、さらにインターネットの普及によって、音から決めた名前に使える漢字や姓名判断的な画数を、専門家に頼らずに親が自分で簡単に調べられるようになったことも大きな理由でしょう」(伊東氏、以下同)

キラキラネームは
大昔から存在した?

 とはいえ、昔にもキラキラネームと呼びたくなるような、個性的で変わった名前が存在していなかったわけではない。たとえば、よく引き合いに出されるのは文豪である森鷗外の我が子に対する命名だ。

 長男「於菟(おと)」に始まり、長女「茉莉(まり)」、二女「杏奴(あんぬ)」、二男「不律(ふりつ)」、三男「類(るい)」と名付け、漢字の読みとして読めなくはないが、片仮名書きが合いそうな外国人風の名前を付けている。

 さらにさかのぼれば、兼好法師が『徒然草』のなかで、「近頃は見慣れない漢字を名前に付ける風潮があり、そういうことをするのは頭の悪い連中だ」と苦言を呈している一節もある。つまり鎌倉時代にも、今でいうキラキラネームが存在していたと言える。

 しかし、それはあくまでレアケースであって、近年のキラキラネームとは数のボリュームがまったく違う。伊東氏によれば、戦後、漢字の難しさが学習上の負担になっていて民主化をも阻害するとして、当用漢字が制定されたことで、特にキラキラネームが生まれやすい土壌ができたのだという。

「戦前の庶民だって読み書きはできましたが、漢字だらけのいわゆる難しい本を苦もなく読めたのは一部の知識階級だけでした。ところが、当用漢字によって漢字使用が1850字に制限され、画数が多い漢字なども簡略化されたことで、漢字は“高尚な文字”から“カジュアルな文字”に改造されました。つまり、古代からの歴史的な漢字の体系とのつながりが断ち切られたわけです」

 当用漢字によって漢字は格段に付き合いやすい文字となり、漢字観が様変わりした。さらに戦後から3世代以上がたち、すっかり平易化した漢字観で育った世代が親となって、旧来の漢字の“常識”から逸脱した名付けをするようになったというわけだ。

「最近では、外国人のように漢字の字義もわからず、名前の音の響きや字面、デザインを重視する傾向がますます強まって、漢字が“感字”になりつつあるように感じます。実際の命名には使えませんが、『月と星』『月と光』がすてきだからと、生臭いという意味がある『腥』や膀胱の『胱』などを人名用漢字に入れてほしいという要望も多いそうです」

キラキラネーム急増は
日本語の変化が原因?

 昭和のころは、世間全体を見渡しても難読名は少数派だった。しかし最近ではキラキラネームと思えるような名前が新生児名の人気ランキング上位に登場しており、もはやキラキラネームは主流派といっても過言ではない。

 たとえば、明治安田生命が2017年生まれの子どもの名前ランキングベスト10を発表しているが、男の子の1位が「陽翔(はると、ひなとなど)」、女の子の1位「咲良(さくら、さらなど)」、3位「陽葵(ひまり、ひなた、ひななど)」、9位「結愛(ゆあ、ゆい、ゆいななど)」などの名前がランクインしている。

 キラキラネームに対しては、「キラキラネームが増えることで、日本語が乱れる」という批判もあるが、伊東氏は以下のように反論する。

「むしろ日本語の漢字の体系が壊れかけているからこそ、初見では読めないような名前が増えているという側面があるのではないでしょうか。つまり、今の日本の言語社会を反映している結果ともいえるわけです」

 そのほかにも、「子どもをペット扱いしている」「子どもに対する一種の虐待だ」と言われても仕方がない名前を付けている親も一部にはいるが、そういう事例と、近年急増している感字的なキラキラネームとは質が異なる、と伊東氏は語る。

 批判的に言われることの多いキラキラネームだが、若い親世代を非常識だと決めつけて済む話ではなく、どうやら日本語全体の問題のようである。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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