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日米欧の中央銀行の「落差」が今週、浮き彫りになる

2018年06月13日 06時00分更新

文● 森田京平(ダイヤモンド・オンライン

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今週は主要中央銀行の“Big Week”に

 今週は、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が12~13日に連邦公開市場委員会(FOMC)を、欧州中央銀行、(ECB)が14日に政策理事会(GC)を、そして日本銀行が14~15日に金融政策決定会合(MPM)を開く。

 3つの主要中央銀行が同じ週に金融政策会合を開くのは、2018年は今週が最初で最後である。その意味では今週は主要中央銀行の“Big Week”といえる。さて何が見えてくるだろうか。

2018年は今週が最初で最後
日銀だけは「据え置き

 筆者はそれぞれの中央銀行の今週の政策決定を次のように予想する。

(1)FRB……FF金利の誘導目標の25ベーシス・ポイント(bp)引き上げ(3月に続く今年2回目の利上げ、今年は合計4回の利上げを予想)

(2)ECB……量的緩和(QE)に関わるフォワードガイダンスの変更(QEの段階的終了に向けたコミュニケーションの開始)

(3)日銀……現行の長短金利操作(YCC)の据え置き

 日銀が政策を据え置くという見方は、市場で完全に共有されている。つまり日本は政策変更のリスクは限りなく小さい。米欧の中央銀行と日銀の金融正常化に向けた姿勢の「落差」が改めて浮き彫りになるだろう。

 そこで以下では、FRBとECBに焦点を絞って、今週の政策展開を展望してみよう。

米国の雇用に見る
量的改善と質的改善

 筆者は、FRBが2018年は4回(3月の利上げを含む)、2019年は3回の利上げに打って出ると見ている。このような見方の背景にあるのが雇用の改善だ。

 ただし米国における雇用の改善は、雇用者数の多寡という「量的」な側面に止まらない。「質的」な改善も見て取れる。すなわち“More”employmentに加えて、“Better”employmentも生まれている。

 このことを把握する上で、米国の失業関連指標であるU3とU6が注目される。

 U3は「失業者÷労働力人口」で定義され、米国の公式の失業率に当たる。

 一方、U6は「(失業者+縁辺労働力+経済的理由によるパートタイム労働者)÷(労働力人口+縁辺労働力)」と定義される。

 U6に含まれる縁辺労働力(persons marginally attached to the labor force)というのは「過去12ヵ月のどこかで求職活動をし、かつ就労可能であり就労意欲もあったが、現時点では就労も求職もしていない者」を指す。

 また、経済的理由によるパートタイム労働者(persons employed part time for economic reasons)は「労働時間の削減や不利なビジネス環境、フルタイム就労機会の不足、季節的な需要の減退などの経済環境によって、フルタイムではなくパートタイムでの就労を余儀なくされている者」を指す。

 これらのうち「経済的理由によるパートタイム労働者」を、雇用の質を表す代理変数と位置付けることができる。これは近似的には、U6からU3を差し引くことで求められる。

 つまり、U3が失業(unemployment)という量的な側面を捉えるのに対して、U6-U3は不完全雇用(underemployment)という質的な側面を主に捉える(注:U3とU6では分母の概念が異なるため、本来、両者の引き算は成り立たない。しかし、分母の違いは数値的には小さいことから、ここでは近似的に不完全雇用を捉える便法としてU6-U3を用いる)。

 直近5月分の雇用統計によると、公式の失業率であるU3は3.8%と、2000年4月以来、18年ぶりの低水準を記録した。加えて、U6も7.6%と、2001年5月以来の低さに達した。その結果、雇用の質を捉えるU6-U3も3.8%となった(図表2参照)。U3だけでなく、U6-U3も4%を下回ったことになる。

 これは、米国の雇用が量(more employment)、質(better employment)の両面で改善している可能性を示唆する。

賃金は雇用の質との
相関を高めている

 雇用の量的側面を表すU3だけでなく、質的側面を表すU6-U3にも注目する理由は、米国では賃金(時間当たり名目賃金)が後者との連動性を増してきているからだ(図表3参照)。

 高齢者の退職の増加と、退職後の消費者の支出対象がサービスに向かいやすいことを背景に、米国経済は非製造業への依存度を高めている。

 一般に、非製造業は製造業以上に就業形態が多様であり、単純に雇用の多寡(量的側面)を見ても、賃金は見通しにくい。経済が非製造業への依存度を高める中、賃金を展望する際には、雇用の質にこれまで以上に注目することが重要だ。

 足元の米国経済では、まさにその質的指標(U6-U3)が好転している。今後も、U6-U3が4%を下回って推移するとすれば、時間当たり賃金は前年比2%台後半から3%近くのペースで伸びることが可能だろう。その延長線上にあるのが、物価の上昇である。

 こう考えると、上述したように、FRBについては2018年4回(3月の利上げを含む)、2019年3回の利上げが見込まれる。

ECBはフォワードガイダンス変更へ
量的緩和の「段階的終了」を伝達

 今後のECBの政策運営については、下記のカレンダーが想定される(図表4参照)。

 中でも、今週の政策理事会が、2018年のECBの政策運営で最も重要な転機となるだろう。なぜなら、ECBは今週14日に、量的緩和(QE)の先行きの見通し(フォワードガイダンス)を変更する可能性が高いからだ。

 変更内容としては、(1)現在9月での終了と制度設計されているQEを12月まで再延長する方針を明確化する。ただし12月以降の再々延長はない(つまりオープンエンドではない)ことも意思表示、(2)QEの再延長期間(今年10~12月)については、月間の資産買入額を現行の300億ユーロから150億ユーロに半減、などが考えられる。

 これはQEの「段階的終了」を意味する。

 無論、こうした見方にリスクがあるのも事実だ。第1に景気・物価の下振れ懸念、第2にイタリアやスペインに見られる政治・財政の不安定化がある。

 2点目の政治・財政リスクについては、とりわけイタリアの政局混乱が意識される。

 イタリアのEU離脱(懸念)については、かつての“Grexit”(ギリシャのEU離脱懸念)、“Brexit”(英国のEU離脱)、“Frexit”(フランスのEU離脱懸念)に続いて、“Quitaly”(Quit=立ち退く+Italy)という新たなmoniker(呼び名)が市民権を得つつある。

 つまり“Grexit”⇒“Brexit”⇒“Frexit”⇒“Quitaly”という予想だ。

 ただし、Quitalyが近い将来、高い現実性を持つとは考えにくい。むしろ、ポピュリスト政党が主導権を持つことによる放漫財政が、今そこにある具体的なリスクである。

 それを反映してか、イタリア10年国債とドイツ10年国債の利回り格差は足元で260bp程度と、約5年ぶりの水準にまで広がっている(図表5参照)。イタリアとポルトガルの逆転も見られ、市場はイタリアの財政膨張に対する懸念を示している。

 イタリアにおけるこうした金利上昇を、ECBが金融政策のレベルで懸念するのであれば、QEの段階的終了に向けたコミュニケーションの開始を、今週の政策理事会で決定することは、確かに難しいかもしれない。

 ただし、仮にこれら個別国のリスクが今週のECB政策理事会での政策判断に影響するとしても、その対象はQEのフォワードガイダンス変更(QEの段階的終了に向けたコミュニケーション開始)の内容ではなく、決定のタイミングだろう。

 つまり、イタリアなど個別国の政治・財政リスクは、ECBによる政策決定を今週ではなく、7月の次回会合(7月26日)に先送りする理由にはなり得るが、QEの段階的終了という方針をECBが変える(あきらめる)理由にはならないと考えられる。

政局混乱でイタリア国債は下落したが
ECBに財政リスクの救済者になる意図なし

 そう考える理由は、5月のECBの資産買い入れ行動にある。

 5月の資産買い入れで、ECBはドイツ国債を基準額(各国によるECBへの出資比率などから算出される国別国債の買い入れ基準額)から11億ユーロも上回る形で買った(図表6参照)。一方、イタリア国債については、基準額を下回る額しか買わなかった。

 5月にECBがドイツ国債の買い入れを急増させた主因は、ECBが保有するドイツ国債が同月に大量満期を迎えたことにある。

 財政悪化リスクを背景とするイタリア国債の金利上昇(価格下落)は5月半ばには始まっていたから、それをECBがリスクとみなすのなら、イタリア国債の買い入れを増やして、ドイツ国債の買い入れを減らすこともできたはずだ。しかし、現実にはECBは逆の行動をとった。

 このような国債買い入れ行動に垣間見えるECBの政策姿勢とは何だろうか。

 それは、各国の政治・財政リスクに端を発する金利上昇を、ECBが量的緩和(QE)という枠組みでの国債買い入れを通じて、抑えるつもりはない、ということだろう。

 つまり、ECBには個別国の政治・財政リスクの救済者になる意図はないと見受けられる。

 このように見ると、筆者には、ECBが今週、QEの段階的終了に向けたコミュニケーションを始めるように思える。

(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 森田京平)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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