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新幹線で凶行が繰り返されてもセキュリティ対策が充実しない理由

2018年06月11日 06時00分更新

文● 枝久保達也(ダイヤモンド・オンライン

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9日夜、東海道新幹線で起きた殺傷事件は、新幹線のセキュリティ対策の限界を改めて浮き彫りにした。東京オリンピックまであと2年。JR各社はセキュリティ対策の強化を迫られるのは必至だが、そこには大きな難題がある。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

繰り返される新幹線内での凶行
防犯カメラ整備は進んだが…

殺傷事件が起きた新幹線「N700系」
1日365本もの列車を運行している東海道新幹線。駅で空港並みのセキュリティチェックをすべきだとの意見もあるが、現在の運行体制を維持しながらの実現は到底無理だ

 9日夜、東京駅21時23分発「のぞみ265号」新大阪駅行きの後方車両で、ナタのような刃物を持った男が暴れ、乗客3人を切りつけるという事件が発生した。

 神奈川県警によると、新横浜駅を発車した後の21時50分頃に「人が刺された」との110番通報があり、列車は小田原駅に緊急停車。駆け付けた警官によって男は逮捕された。警察と消防は30代の男性1人が死亡、20代の女性2人がけがを負ったと発表した。逃げ場のない新幹線車内で発生した惨劇に衝撃が走った。

 実は新幹線車内で乗客が死亡する事件が発生したのはこれが初めてではない。1993年8月23日20時25分頃、博多発東京行き「のぞみ24号」が静岡県掛川市付近を走行中、40代の男性がナイフを持った男に刺殺される事件が発生している。のぞみ号は新富士駅に緊急停車し、駆けつけた静岡県警の警官が男の身柄を確保した。

 また記憶に新しいのは、2015年6月30日11時40分ごろ、東京発新大阪行き「のぞみ225号」の1号車で、71歳の男がガソリンをかぶってライターで火をつけ、車内で火災が発生した事件だ。列車は小田原市内で緊急停止して、乗務員が消火器で火災を消し止めたものの、火災によって発生した煙で52歳の女性が死亡、乗客26人と乗員2人の計28人が重軽傷を負った。

 東海道新幹線では乗務員への暴行や運行妨害への対策として、2010年に導入を開始したN700系車両からデッキに防犯カメラの設置を開始していたが、放火事件を受けてすべての車両の客室内に防犯カメラを新設すると発表。17年12月にはJR東海が保有する新幹線車両のうち9割で防犯カメラの設置が完了し、20年度初めには全編成への整備が完了する見込みと発表されたばかりだった。

 このカメラは列車内のハードディスクに常時録画し、運転席などから映像を確認することが可能であるが、基本的には事後の捜査に役立つ設備であって、「見せる防犯」の観点から抑止効果を期待する以上の意味を持つものではない。今回の殺傷事件で、いかに防犯カメラを設置しようと、明確な悪意・犯意を持った犯人に対しては何ら効果がないことが露呈してしまった格好だ。

新幹線のセキュリティ対策が
難しいのはなぜか

 航空業界では、過去に発生したハイジャックや自爆テロなどの経験を踏まえ、空港で厳重な保安検査を実施し一定の成果を挙げていることから、高速鉄道でもこれを倣うべきという声は根強い。しかし、定員1323人、16両編成の列車が1日当たり365本運行され、1日45万人以上の乗客を運んでいる東海道新幹線で同様の体制を取ることは、「新幹線の利便性を大きく損なう」としてJR東海は否定的な見解を示している。

 空港のセキュリティ装置は年々進歩している。たとえば2018年2月に成田空港会社が発表した保安検査場刷新計画によると、検査レーンの増設と高度な保安検査機器「スマートセキュリティ」の導入により、機内持込手荷物検査の処理速度を1レーンにつき1時間あたり、これまでの180人から270人に増やすという。

 仮に、これと同等の設備を新幹線に導入したとすると、10レーン用意しても新幹線1本分の定員全員の検査を行うのに30分を要する計算となる。待合室にもホームにも乗客の滞留を許容するスペースはないため、駅はパンクしてしまうだろう。何よりも、発車の30分前に駅に到着しなくては乗車できないのでは、新幹線の価値は半減だ。

 ヨーロッパや中国、インドの高速鉄道で乗客の手荷物検査などを実施している例はあるものの、これらは東海道新幹線と比べて定員で3分の1、運行本数で10分の1程度しかない規模だから実施できるのであって、高速運転と同時に大量輸送も担う新幹線においては、その役割を根本から否定することになりかねないのである。

 新幹線で運輸収入の9割以上を稼ぐ「新幹線一本足打法」のJR東海を筆頭に、JR西日本、JR九州、JR北海道の経営は新幹線がなくては成り立たない。各社は少子化時代の採用難対策と固定費用の削減を目的に、鉄道現業員の省力化によって新幹線の競争力を維持しようとしている。セキュリティ対策強化のために、新幹線の運行本数が減少することはもちろん、保安要員の追加もできるだけ避けたいのが本音だ。

 JR東海は車内改札の省略など車掌業務の省力化を進め、今年の3月から「のぞみ号」と「ひかり号」に乗務する車掌を3人から2人に削減したばかりだった。異常時には車内販売のパーサーと協力して対応するとしていたが、今回の事件を受けて警備要員の添乗を求める声も出てくるだろう。

 2027年に開業予定のリニア中央新幹線では、中間駅は「大胆に効率性と機能性を徹底して追求したコンパクトな駅」と定義し、営業担当の駅員を設けない実質的な無人駅として運営する構想を発表している。駅で手荷物検査を行うようなことになれば、収支計画にも影響を与えかねない。

 しかし、東京オリンピックを2年後に控えた今、テロ対策の観点からも新幹線のセキュリティ強化を求める声が再燃するのは必至である。新幹線の利便性と安全性、そして経営の効率性のバランスをどう取るか、JR各社は大きな選択を迫られる可能性がある。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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