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クラウドネイティブ時代を告げる「AWS Summit 2018」 第1回

「Amazon EFS」東京リージョン提供やスタートアップ拠点「AWS Loft Tokyo」などの新発表も

KDDI、ソニー銀行、SOMPO HDなどが語った「AWS Summit」基調講演

2018年05月31日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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KDDI:3年でAWSアカウントは10倍、「iPhone 8予約サイト」などあらゆる場面で活用

 基調講演の中ではAWSユーザー企業5社も登壇し、既存業務システムのクラウド移行からクラウドネイティブアプリ開発、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた多数のPOC実施など、各社各様のAWS活用事例を紹介した。

 KDDI 理事 技術統括本部 プラットフォーム開発本部長の中島昭浩氏は、過去3年間で同社のAWSアカウント数は10倍以上に、また利用料金は28倍以上と大きく伸びたことを明かした。

KDDI 理事 技術統括本部 プラットフォーム開発本部長の中島昭浩氏

 KDDIではプライベートクラウドとパブリッククラウドを用途別に使い分け、必要に応じて組み合わせるハイブリッド型での利用が進んでおり、実際に「ビデオパス」「ブックパス」「auでんき」「au HOME」など50以上のサービスにおいて、その一部機能にAWSを組み込んで採用しているという。中島氏は2つの具体的な事例を紹介した。

 1つめは2017年9月に構築した「iPhone 8/8 Plus」の予約受付サイトだ。言うまでもなく、人気商品であるiPhoneの予約開始時には膨大なユーザーアクセスが短時間に押し寄せることになる。

 前年の「iPhone 7/7 Plus」発売に際してはオンプレミスで予約サイトを構築した同社だが、iPhone 8/8 PlusではAWSを利用して、莫大なピークトラフィックのキャパシティプランニングに挑んだ。単にEC2を利用するだけでなく、CDNサービスの「Amazon CloudFront」なども組み合わせることにより、およそ10日間の工期で、前年(オンプレミス)比で4.8倍の処理性能を持つ予約サイトが構築できた。

約10日間の工期で、オンプレミス比4.8倍の処理性能を持つ予約サイトを構築

 もうひとつの事例は、たとえば「デジラアプリの通信データ容量通知」「ブックパスの新刊通知」など、auが提供するさまざまなモバイルサービス/アプリ用の「プッシュ通知基盤」である。

 これも、従来はオンプレミスで提供していた共通基盤をAWSに移行するものだった。ただし中島氏は、AWSへの移行においては「大きな設計変更を行った」と説明した。さまざまなサービスが共用するため通知量の変動が激しく、オンプレミス時代には通知性能が向上しないという問題があったためだ。

 AWSへの移行においては、キューサービスの「Amazon SQS」と「AWS Elastic Beanstalk」を組み合わせ、キューの量に応じてプッシュ通知処理がオートスケールするように設計した。さらに「これだけだと非常にコストがかかる」(中島氏)ため、サーバーレスのマネージドサービスとして運用することで、かかるコストを大幅に削減した。こうした設計変更を伴うAWSへの移行により、限界性能が4倍に向上した一方で、構築費用は4分の1に抑えることができたという。

AWS上で再設計/構築されたプッシュ通知基盤。サーバーレスかつ自動スケールするアーキテクチャにより性能向上とコスト削減を両立させた

ソニー銀行:大阪ローカルリージョン登場で、勘定系システムの一部をAWS移行へ

 ソニー銀行 執行役員の福嶋達也氏は、同社におけるAWS大阪ローカルリージョンの活用について紹介した。今年2月に開設された大阪ローカルリージョンは、金融、通信、公共など、国内での地理冗長/遠隔DRサイトを必要とする顧客向けのリージョンだ。位置付けは他の正規リージョンと異なり、東京リージョンとの併用が前提条件となっている。

ソニー銀行 執行役員の福嶋達也氏

 ソニー銀行では2013年12月からAWSの利用を開始し、ファイルサーバーやワークフローなどの社内システム、および管理会計や電子文書管理といった“銀行周辺系”と呼ばれる(中核的ではない)システムのAWS移行を進めてきた。この移行作業は今年12月に完了する予定だという。

 その一方で、勘定系システムなど銀行の中核業務、重要業務を支えるシステムのAWS移行は進んでいなかった。その実現するためには国内リージョンの可用性や業務継続性が向上することが不可欠であり、具体的には「地震や停電などのリスク要因を共有しない国内第2リージョンが必要であると認識していた」と福嶋氏は説明する。そこで同社では2014年夏ごろからAWSに対し、国内第2リージョンの開設を強く要望してきたという。

ソニー銀行ではかねてから国内第2リージョンの開設を強く要望してきた

 “国内第2リージョン”となる大阪ローカルリージョン開設が実現したことで、同社ではAWSの適用範囲を拡大する方針を決定した。昨年冬に、勘定系システムの一部分である財務会計システム(総勘定元帳)のAWS移行を決定しており、2019年秋以降にはAWS上で新システムの本番稼働を予定している。

 新しい財務会計システムでは、複数のAZを備える東京リージョンをメインサイトとすることで、データの多重化/バックアップを図る。さらにそのうえで、大阪ローカルリージョンにもバックアップサイト(DRサイト)を配置し、高い堅牢性を実現するという。

新「財務会計システム」の概要

 最後に福嶋氏は、ソニー銀行としてイメージしているクラウド活用の方向性について説明した。これまでは「クラウドファースト」方針の下で「どこまでをクラウドにするか」という議論が行われてきたが、これからは基本的にすべてクラウドで構築する「クラウドオンリー」の時代に移行し、マルチクラウドの選択肢の中で「どのクラウドにするのか」を議論することになるのではないか、と考えていると語った。

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