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クラウドネイティブ時代を告げる「AWS Summit 2018」 第2回

Redshift、Auroraに続くキラーサービスはMLの実験場だった

コンタクトセンターの置き換えにとどまらないAmazon Connectの破壊力

2018年05月31日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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2018年5月30日~6月1日まで開催される「AWS Summit 2018」では、コンタクトセンターサービスである「Amazon Connect」のセッションが行なわれた。AWSの各種MLサービス(Machine Learning)と連携した自動化デモは、既存のコンタクトセンターの枠を大きく超えた可能性を感じさせた。

Amazon.comを支えるコンタクトセンターを実現すべく自社開発

 コンタクトセンターサービスであるAmazon Connectは、Amazon.comにおけるサポートセンターのニーズからスタートした。「地球上でもっともお客様を大切にする企業であること」をビジョンとして掲げるAmazon.comでは、全世界で約7万人のカスタマーサービススタッフが顧客をサポートしている。しかし、既存のコンタクトセンター製品には「複雑で使いづらい」「インテグレーションが困難」「構築のための高いコスト」「電話というハードウェアの所有」のほか、「セキュリティ」「信頼性」「スケーラビリティ」などさまざまな課題があった。そのため、自社に最適なソリューションを実現すべく、AWSクラウドをベースに開発したのがAmazon Connectの原型となる。

米AWS Amazon Connect担当シニアソリューションアーキテクト ヤッサー・エルハガン(Yasser El-Haggan)氏

 こうして生まれたクラウドネイティブなAmazon Connectは、コンフィギュレーションがセルフサービスで行なえるほか、個人に最適化されたコンタクトフローを提供する。また、API経由でAWSのエコシステムと連携しやすいオープンなプラットフォームであることも特徴だ。接続時間に応じた従量課金で、電話回線を手配する必要もない。

 Amazon ConnectではコンタクトフローからLambdaを呼び出し、AWSの各種データベースや既存のCRMと連携させ、顧客ごとのコンタクトフローを実行したり、QuickSightなどのBIツールで分析することもできる。また、Redshiftのようなデータウェアハウス(DWH)に各種メトリクスを溜めたり、通話録音をAmazon S3で保存することも可能だ。「通話音声をS3に保存することで、KMSなどの暗号化を用いることができ、われわれからもアクセスできない秘匿性を確保できる」という。

オープンプラットフォームなAmazon Connect

米大手銀行は5ヶ月でAmazon Connectへの移行を完了

 実際のAmazon Connectの事例も披露された。約4500万の口座を持つ米国の大手金融機関であるCaptial One Bankは、従来ダイレクトバンキングとリテールバンキングで異なるコンタクトセンターを抱えていたという。利用しているデータセンターや通信事業者も異なり、IVR(自動音声応答)やACD(自動着信分配)、ルーティング、通話録音、ワークフォース管理などの製品も、シスコやアバイア、アスペクトなどばらばらだった。

 こうした課題からCaptal One Bankが主要製品を検討したところ、もともとAWSと戦略的に提携していたことに加え、市場投入の速さ、従量課金モデルでの運用性、ユーザー体験の向上などのメリットが見込めたAmazon Connectのパイロット導入が決定したという。

 具体的には、2017年3月のサービス提供以前からAWSとの共同プロジェクトを立ち上げ、開発も100%内製で実現。機能ごとに段階的なリリースを進め、最終的には約5ヶ月で本番導入にまでこぎつけた。「実現できそうになかったことに対して、メンバーの声が『できます』に変わった」(エルハガン氏)という。導入後のフィードバックも好意的なものが多く、移行作業が容易だったという感想のほか、古いシステムに比べて音質もはるかに向上したという。

段階的なリリースを経て、5ヶ月での移行を実現

次世代コンタクトセンターをMLとの連携で実現

 ここまでであれば、既存のコンタクトセンター製品のクラウド版という位置づけで終わるのだが、Amazon Connectの真価はこれから。セッションの後半、エルハガン氏はMLサービスを駆使することで、大幅な自動化や省力化を実現するデモをたたみかけた。

 まずは初回コールと2回目のコールで異なる自動音声再生を行なうデモンストレーション。エルハガン氏が2回目にかけると「再度電話してくれてありがとう」という反応が返ってくる。初回コールでは、Amazon Connectからの呼び出しで、Text-to-Speechを実現するAmazon Pollyがスクリプトの読み上げを行ない、対話内容をLambda経由でDynamoDBに保存。2回目のコールでは、DynamoDBに保存された内容を元に、異なる対応を行なえるわけだ。たとえば、初回に日本語で対応したら、2回目は自動的に言語設定が日本語にするといった対応が可能になる。

パーソナライズされたダイナミックな処理を実現

 続いては停電した顧客から情報を収集するセルフサービスのシナリオ。電力会社は顧客から停電情報を収集したいのだが、停電の原因である嵐の影響でスタッフの数が限られており、通話保留時間が伸び、顧客満足度が悪化している。こうした厳しい状況でもAmazon Connectでセルフサービスを構築すれば、電話の音声から内容を理解し、周辺情報を取得を顧客に伝えることができる。ここでもAmazon Pollyが活躍しており、音声で停電報告を受けたむねや解決までのおおよその時間を通知してくれる。

セルフサービスのデモ

 Amazon Connectで取得された通話録音は、Lambdaでエージェントと顧客の会話に分離され、音声認識技術のAmazon Transcribeで文字興ししたテキストデータをAmazon S3に保存できる。いったんテキストにしてしまえば、自然言語処理が可能なAmazon Comprehendで分析し、トピックを分類したり、顧客の感情を分析することも可能だ。ネガティブ・ポジティブなどの感情分析をグラフでチェックできるほか、通話記録からコメントしたエージェントを調べるといったことまで可能で、マネージャーにも大きなメリットがある。

 最後、Alexaを使ったデモはネットワークの不調だったが、その代わりにAmazon Lexを用いたチャットボットのデモを披露。電話を切ったあとのチャットアンケートで、好意的な反応には感謝を、クレームや不満に対しては反省を示すというインタラクティブな対応が実現されていた。さまざまな手段が選べるという点では、デモの不調がむしろアピールポイントになったようだ。

 CTI系の取材を手がけたこともある筆者はAmazon Connectに関して、既存のコンタクトセンターのクラウド化を実現する程度のサービスと考えていたが、予想は大きく覆された。単なるコスト削減や電話のリプレースを実現するだけでなく、MLサービスをさまざまな形で組み合わせることで、今までと異なる価値をカスタマーサービスや顧客管理にもたらすことできるはずだ。DWHの常識を破壊したRedshift、クラウド型DBの未来像を描いたAuroraに続く、次のAWSのキラーサービスとしてAmazon Connectが注目されるのは確実と言える。

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