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本田圭佑のビッグマウスに隠された、チームメイトだけが知る真の姿

2018年05月30日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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本田圭佑のビッグマウスの裏にある本当の姿とは
写真:JFA/アフロ

6月14日に開幕するワールドカップ・ロシア大会に臨む、西野朗新監督(63)に率いられる日本代表が30日のガーナ代表との壮行試合(日産スタジアム)でいよいよベールを脱ぐ。一夜明けた31日にはロシア大会に臨む正式メンバー23人が発表される中で、いろいろな意味で注目を集めているのが本田圭佑(パチューカ)である。ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督(65)の電撃解任が発表された、4月9日以降の約1ヵ月半で未曾有の逆風にさらされている31歳のベテランは、幾度となく放ってきた「ビッグマウス」を介して退路を断ち、プレッシャーに身をさらすことで、自身をして「成り上がり」と言わしめる波瀾万丈に富んだサッカー人生を突っ走ってきた。(ノンフィクションライター 藤江直人)

ハリル氏解任に暗躍した“ヒール”のレッテルも
サッカー人生で最大級の逆風の真っただ中

 一挙手一投足が批判の対象になる。何か言葉を発した時には、すでに炎上状態と化していたインターネットのコメント欄に、文字通り油が注がれる形になる。西野朗新監督に率いられる日本代表に選出されている本田圭佑は今、サッカー人生で最大級と言っていい逆風の真っただ中にいる。

 日本代表監督を電撃的に解任されたヴァイッド・ハリルホジッチ氏が、4月下旬に都内で開いた反論会見。約1時間半にわたって思いの丈を訴えた前指揮官は、日本代表が6大会連続6度目のワールドカップ出場を決めた、昨年8月31日のオーストラリア代表戦後のある状況を唐突に取り上げた。

「2人の選手が少しがっかりしていた。最終予選を突破したが、2人が試合に出なかったからだ。それまでは何年も試合に出ていた彼らが、がっかりしていることを私は悲しく思った」

 ハリルホジッチ氏は最後まで、具体的な選手名には言及しなかった。それでも、オーストラリア戦に招集されていた選手たちと、実際にピッチに立った選手たちとを照らし合わせれば、落胆していた2人が香川真司(ボルシア・ドルトムント)と本田だったことが分かる。

 そして、タイミングが悪いと言うべきか。日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長が説明した、選手たちとのコミュニケーションや信頼関係がやや薄らいできている、という不可解な解任理由に対して批判が殺到していた5月14日に、NHK総合テレビが本田の特集番組をオンエアした。

 今年2月からメキシコなどで密着取材を続けてきた『プロフェッショナル 仕事の流儀』は、オンエア前に「ヴァイッド・ハリルホジッチ氏の日本代表監督解任の舞台裏を告白する」という、事実とは反する告知が流布されていたことで図らずも大きな注目を集めた。

 NHK側は件の告知を撤回した上で謝罪したが、実際に番組内で流れた本田の言葉はある意味で衝撃的だった。約半年ぶりに日本代表へ招集された今年3月のベルギー遠征で、ゴールやアシストという目に見える結果を残せなかった事実を認めながらも本田はこう紡いでいる。

「悔いはないです。ハリルのやるサッカーに、すべてを服従して選ばれていく。そのことの方がオレは恥ずかしいと思っているので。自分を貫いた自分に誇りは持っています」

 収録そのものは、ハリルホジッチ氏が解任される前だった。本田の矜持が込められた言葉だったはずが、それまでの流れもあって疑問の残る指揮官交代の舞台裏で暗躍したヒールのレッテルをはられ、かつてないほど激しい逆風を招く引き金と化してしまった。

あの中村俊輔にも食い下がる
本田の「ビッグマウス」は中学時代から

 しかし、本田が発する言葉が思わぬ余波を生じさせる事態は、何も今に始まったことではない。実力や実績もないのに大口を叩く人間を揶揄する際に用いられることが多い、いわゆる「ビッグマウス」は日本代表の一員として放った場合に限定しても、それこそ枚挙にいとまがない。

 例えば、岡田(武史)ジャパン時代の2009年9月に行われたオランダ代表戦。後半から投入された本田は、日本が絶好の位置で直接フリーキックを獲得した後半17分のチャンスに、不動のキッカーを務めていた司令塔・中村俊輔のもとへ歩み寄って「蹴らせてください」と志願している。

 当時の本田は代表歴も浅く、レギュラーの座をうかがう立ち位置だった。当然中村が応じるはずもなく、一方の本田も「絶対に決めるので」と食い下がる。最終的には中村が蹴ったが、本田としては代表チーム内で成り上がるための一世一代のチャンスととらえていたのだろう。

 だからこそ、絶対的な大黒柱だった中村に対して物怖じすることなく進言した。果たして、翌2010年6月に南アフリカで開催されたワールドカップで、中村をベンチへ追いやる形で本田はエースを拝命。不慣れな1トップで2ゴールをあげて、日本を決勝トーナメント進出へ導く原動力になった。

 南アフリカの地で放ったまばゆい輝きとともに、本田は日本代表チームにおいて揺るぎない居場所を築き上げた。世代交代という形で、南アフリカ大会を最後に代表から引退した中村は8歳年上。物議を醸したオランダ戦でのやり取りを含めて、本田は後にこう語ったことがある。

「オレは基本的に、最初はベテラン勢に煙たがられて入っていくタイプ。それを変えるとオレじゃなくなる。オレはこのスタイルでチームに馴染むのを楽しんでいる。皆さんも知っての通り、オレは日本代表でも馴染むのに時間がかかった。そういうのを蹴散らしていって、結果を残していかないことには、この世界では生き残っていけない。大バクチを打っているつもりです」

 周囲が思わず眉をひそめるような言葉は、ガンバ大阪ジュニアユースからの卒団が迫っていた、中学3年生のある日にも放たれている。本田はユースへの昇格がかなわず、石川県の強豪・星稜高校への進学を決意。捲土重来の思いを胸中に募らせていた。

 そして、ジュニアユースの同期生たちと食事をしていた席で、今から自分が言うことを録音してくれと切り出す。その場には本田と同じ1986年6月13日生まれで、同じレフティーでもあり、怪童という異名とともにユースへの昇格が決まっていた家長昭博(現川崎フロンターレ)がいた。

 高校2年次にいわゆる「飛び級」の形でガンバのトップチームに昇格し、イビチャ・オシム監督時代の2007年3月には日本代表デビューを果たした家長へのライバル心からか、本田は「オレは高校で家長を抜く。そして、日本代表に入る」と大声で宣言している。

「弱い人間」だと知っているから退路を断つだけ
チームメイトには本当の姿も見せる

 日本代表デビューこそ家長に先を越されたが、居場所を築き続けるという意味では、現時点で本田は勝利を収めている。前述した中村とのやり取りも然り。言葉を介して先に意思を示すのはなぜなのか。その真意を、ACミラン時代に訪問したミラノ市内の日本人学校でこう明かしたことがある。

「オレは自分が弱い人間だということを知っていて、逃げ道を遮断しようとしたんですね」

 日本代表の大黒柱を担ってからは、特にイタリア人のアルベルト・ザッケローニ監督から託されたトップ下のポジションに対して「オレはトップ下のDNAを持っている。トップ下は自分の家みたいな感じで、居心地はいいですね」と公言してはばからなかった。

 そして、ザックジャパンの一員として臨んだ、前回のワールドカップ・ブラジル大会へ向けては、機会があるごとに「優勝」の二文字を目標として掲げてきた。日本代表の最高位は、2002年日韓共催大会と前出した南アフリカ大会のベスト16。あまりに荒唐無稽だ、という批判もどこ吹く風だった。

「(本田)圭佑があえて悪役を引き受けているんですよ。言った分だけ、自分にプレッシャーがかかりますからね。オレもそっち系だから、すごくよくわかるんですよ」

 進んで逆風に身をさらしてきた本田の生き様を、南アフリカ、ブラジル両大会で日本代表としてともに戦ったFW大久保嘉人(川崎フロンターレ)はこう慮ったことがある。大久保の言う「そっち系」とは、いうまでもなく「ビッグマウス」を指す。

 あえて退路を断ち、言い訳をすることすら許されない状況を作り出す。その上でプレッシャーを糧としながら、成長への階段を貪欲に、止まることなく駆け上っていく。ファンやサポーターの前では虚勢にも映る姿を演じてきた本田は、チームメイトの前では本当の自分を見せている。

 例えば、ハリルホジッチ氏をして「悲しく思った」と言わしめたオーストラリア戦から一夜明けた昨年9月1日に、本田はこんな言葉を残している。

「一番の収穫は、僕や(香川)真司が出なくても勝てたということ。当然ながら僕や真司はそこに危機感を覚えるわけですよ。今までだと、統計的に見ても僕や真司が出なければ、よくない試合が多かったですし、勝てない試合が多かった。でも、実際勝ってしまった。僕らはもう必要ないんじゃないかと当然ながら言われるわけですけど、それがいいことやと思っています。それが次につながりますし、逆に僕らとしてはまたコンディションを上げていかなければいけないわけですから」

 オーストラリア戦は本田の位置に浅野拓磨(シュツットガルト)が、香川の位置には井手口陽介(当時ガンバ大阪、現クルトゥラル・レオネサ)が抜擢され、ともにゴールを決めている。最後までウオーミングアップをしなかった本田だが、勝負を決める2点目を井手口が決めた後半38分には真っ先にベンチを飛び出し、21歳のヒーローへ笑顔で手荒い祝福を浴びせている。

 試合に出られない状況の中で決して腐っていたわけでも、ましてやハリルホジッチ前監督に反旗を翻していたわけでもなかった。NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で物議を醸した言葉も、求められる仕事を完遂した上で、自分の色を出していく決意の表れだと見ていい。

 実際、5月21日から28日まで千葉県内で行われた、西野体制下では初めての活動となる日本代表合宿で、ホテル内などピッチを離れたところで盛り上げ役を担っていたのは本田だった。陽気なキャラクターで知られる槙野智章(浦和レッズ)が、こう明かしてくれたことがある。

「食事会場における笑い声や話し声、あるいは話し方で自然と中心にいるのは間違いなく本田選手だと思いますので。僕は本田選手に引っついて、わちゃわちゃしていますけど」

 しかし、メディアの前では本田は沈黙を貫いた。ミックスゾーンと呼ばれる練習後の取材エリアに、5月25日までは全員が姿を現して取材に応じていた。しかし、本田は「また始まってから」とだけ言い残し、全員がそろって本格的な練習が開始される26日以降に対応する意向を見せていた。

「一発目のシュートが決まる気もする」
W杯を直前にビッグマウスぶりは健在

 2010年の南アフリカ大会の前後から、本田は日本代表においてあるルーティーンを実践してきた。いまも貫いているそれは、試合前日には無言でミックスゾーンを通過すること。その意図を「自分自身のパッションを、オレは大事にしているので」と説明したことがある。

 ハリルホジッチ体制下ではミックスゾーンにおける取材方法も変更され、その日の練習後に全員が対応していたところを、数人ずつのグループ制に分けられる形となった。西野ジャパンでも5月26日からは同じ形式が取られ、本田を含めたグループは同28日に割り当てられた。

 合宿がスタートして8日目にして初めてペンメディアの取材に応じた本田は、ロシア大会の初戦を間近に控えた段階で体制が一新されるという、代表チームの歴史上でも初めてとなる事態をネガティブにはとらえていないと強調した。

「いまの時点でネガティブなことを言ったところで、大事な試合はやって来るし、そこでは勝利を求められる。その意味では、いまはネガティブな部分はあえて封印すべきだと思っている。実際、選手たちはみんな前を向いていますし、これだけ前向きな議論が出るのも、ハリルホジッチ監督のときにはなかったこと。その意味ではやりやすくなってきたし、すごくポジティブな部分も感じています」

 本格的な戦術トレーニングがスタートした26日からは、ハリルジャパンでは一度も採用されたことのない3バックが試されている。システムも『4‐3‐3』から『3‐4‐2‐1』に変わった中で、本田は1トップの背後、シャドーと呼ばれるポジションを担うケースが多い。

 ザックジャパンで慣れ親しんだトップ下でも、ハリルジャパンで苦戦を強いられた右ウイングとも視界に飛び込んでくる景色は異なる。初めて見るという意味では、最前線の1トップを開幕直前に任された南アフリカ大会に近い感覚を覚えずにはいられない。

「前々回のほうが、精神的には少し近いですかね。ジタバタしても仕方がないという状況でしたし、覚悟を決めて、とにかく冷静に大会へ入ることだけに集中していた。今回もジタバタしている状況であるのは間違いなく、だからといって焦っても、プレッシャーを感じても仕方がないので」

 南アフリカ大会から8年の歳月が流れ、開幕直前には32歳を迎える体に変化が生じていることは、誰よりも本田自身が感じている。昨年6月末でセリエAの名門ACミランとの契約が満了になった時点で、もっと言えば契約延長の対象にならなかったことで、自身をして「成り上がり」と言わしめてきたサッカー人生がターニングポイントを迎えたことも痛感している。

 それでも、本田が下を向くことはない。ホームスタジアムを標高2400メートルに持つメキシコの強豪、パチューカでプレーしてきた1年間で自然と心肺機能を高めることができた。取材エリアで「戦える体であることは間違いない」と自信を見せた本田は、再び「ビッグマウス」を放つことも忘れなかった。

「今回も同じように一発目のシュートが決まる気もするし、そういうのを決めないと話にならないと思っているので。これまでもぶっつけ本番で結果を出してきたことが何度もあるし、いろいろなシチュエーションを想像する、というところは自分の強みのひとつだと思っているので」

 不敵な笑みを浮かべる姿から伝わってくるのは退路を断つ覚悟と、集大成と位置づけているロシア大会で結果を残すという決意。ガーナ代表と日産スタジアムで対峙する壮行試合を経て、一夜明けた31日には23人の正式メンバーが発表される。現状の26人から絞り込まれる中に名前を連ねることを信じながら、本田は自分自身へプレッシャーをかけ続けることで未曾有の逆風をさらに強めさせていく。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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