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金融庁“史上最強の長官”異例の任期3年目に吹く「3大逆風」

2018年05月29日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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「史上最強の長官」とうたわれた森信親・金融庁長官
森信親・金融庁長官の行く末をめぐっては、任期4年目に加えて、日本銀行総裁や財務省次官への就任、首相官邸入りなどの諸説が飛び交ってきたが、どれも異例だ Photo:kyodonews

財務省に代わる「新たな最強官庁」と評する声も上がった金融庁において、「史上最強の長官」とうたわれた森信親長官。昨年7月に異例の任期3年目に突入し、その権勢は絶頂を迎えたかに思われたが、ここにきてこれまで改革に取り組んできた政策に対して、続けざまに逆風が吹き荒れだした。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

「4年目のうわさを聞いた。まさかとは思うが、ないとは言い切れない」

 年の初めごろ、金融関係者が口を開くたびにこの「4年目」話が飛び出した。昨年7月の官庁人事で任期3年目に突入し、その1年の折り返し地点に近づいた金融庁の森信親長官が続投するかもしれないという臆測だ。

 2年が通例である金融庁長官の任期だが、森長官は金融行政において数々の改革を手掛け、実績を残してきた実力者。また、「霞が関」の人事権を握る首相官邸のキーパーソンである菅義偉官房長官や、金融庁の“ボス”も兼任する麻生太郎副総理兼財務大臣の信任も厚い。そうした背景があり、森長官は任期3年目に入った。

 とはいえ、「3年目」は異例ではあるが前例はあった。しかし、「4年目」となると前代未聞だ。それでも、金融庁内も含めて多くの金融関係者が否定できずにいた。

「これほどみんながみんな4年目の話をするということは、任期の終わりでレームダック(死に体)に陥らないために流した、森さんのブラフ(はったり)じゃないか」。そんな見立てを披露する森長官に近い金融関係者もいたが、それほどまでに「4年目説」は真実味を帯びていた。

仮想通貨の産業育成
ゆうちょ・地銀改革
注力政策に後退懸念

 ところが、それから間もなく風向きが変わる。森金融庁が注力してきた政策に対して、続けざまに三つの逆風が吹き荒れたのだ。

 一つ目は、「コインチェック事件」だ。1月末、仮想通貨交換業者のコインチェックがセキュリティーの弱さを突かれ、約580億円相当に上る仮想通貨の不正流出事件を起こしてしまう。

 新たな産業の育成を目指し、既存の金融機関とは比べものにならないほど柔軟な対応で仮想通貨交換業者の監督に臨んでいた金融庁だったが、それがあだとなった。その後、金融庁の監督責任を問う声まで上がり、一気に厳格な姿勢に転じる事態に陥った。

 二つ目は、「ゆうちょ問題」だ。

 森長官はゆうちょ銀行が運用し切れないほどの貯金を抱えていることをかねて問題視。貯金残高を縮小しながら運用力の強化によって収益力を高めるビジネスモデルに転換し、地方銀行との競合関係を弱めることによって地方創生などで協調する路線を敷いてきた。

 ところが、3月半ば、ゆうちょ銀の通常貯金について、現在1300万円に制限されている預入限度額を撤廃すべきという議論が噴き出した。「集票マシン」と呼ばれる全国郵便局長会と族議員が過去に何度も仕掛けてきた議論ではあったが、「終わった話」にしたはずの金融庁には寝耳に水だった。

 しかも、ゆうちょ銀の親会社である日本郵政のトップとして限度額撤廃を要望する長門正貢社長は、かつて森長官がゆうちょ銀の社長に登用した人物だからたまらない。森長官の怒りはすさまじく、地銀の頭取たちとの会合で「企業価値の向上に努めるべき上場企業のトップの発言として、全く理解できない」と切り捨てるほどだった。

 最後の三つ目は、地銀改革に吹く二つの逆風だ。

 一つは、地銀再編案件。2016年2月、長崎県の親和銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループと、長崎県最大手の十八銀行が経営統合の合意を発表したが、独占禁止法の観点から公正取引委員会が待ったを掛ける。

 人口減少と超低金利環境で構造不況業種と化した地銀業界において、再編機運がしぼむのは見過ごせない。今年4月には金融庁の有識者会議が、地銀の経営統合の審査では、公取委と金融庁が連携することや総合的な競争政策を政府全体で議論する必要があるとする報告書を公表。政府を巻き込んだ官庁間闘争を繰り広げている。

 そんな泥沼の状況に追い打ちを掛けたのが、もう一つの逆風である「スルガ問題」だ。

 地銀の生き残り策は再編ありきではなく、経営規模が小さくとも、独自の持続可能なビジネスモデルを探す道もある、というのが森長官の持論だ。その好例が静岡県の中堅地銀であるスルガ銀行であり、他行がためらうミドルリスク・ミドルリターンのビジネスモデルを開拓し、厳しい経営環境の下でも突出した収益力を実現してきた。

 ところが、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の投資トラブルをめぐって、スルガ銀行が不正融資に手を染めていたことが発覚。その収益力は“メッキ”にすぎなかったとなった場合、地銀が独自の経営戦略を模索する機運もつぶれてしまう恐れがある。

 財務省に代わる「新たな最強官庁」の「史上最強の長官」との呼び声が高かった森長官。しかし、異例の任期3年目において、自らの実績すらも後戻りしかねない、思わぬ逆風にさらされている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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