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麻倉怜士が、RETISSA Displayを体験

夢の「網膜投影」にギークはもちろんAVマニアも注目すべき理由

2018年05月30日 11時00分更新

文● 麻倉怜士、ASCII

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ピント合わせの必要がない、視力が低下した人でもクッキリと見える

手嶋 マックスウェル視の特徴は、光路として一度瞳孔の真ん中を通り、これが広がって網膜に結像する点です。ピンホールカメラのように焦点深度が深いため、目のピント調節機能(水晶体の厚みの調節)を使わなくてもくっきりとした映像を見られます。

麻倉 必ずピントが合うデバイスというわけですね。

手嶋 はい。より正確に言うなら、人間の目が持つ「ピント合わせ」の機能の影響を受けにくい仕組みです。

麻倉 ピント調節の負担がないということは、疲れにくさにもつながりますか?

手嶋 可能性としてはあります。やや奥歯にものが挟まった表現になっているのは、理由があります。実はわれわれはこのVISIRIUM Technologyを民生用途だけでなく医療用途にも応用したいと考えています。医療機器としての効用をうたうためには相応の手順を踏む必要がありますので、慎重に言葉を選んでアピールする必要があるわけです。

麻倉 医療用途……ということは、眼が見えにくい人でも映像が見られるメガネを開発しているということですか?

手嶋 はい。われわれがターゲットにしているのは「ロービジョン」と呼ばれる方々です。VISIRIUM Technologyを使った、ヘッドマウントディスプレー(HMD)を開発するにあたって、我々は社会的課題の解決を念頭に置いています。VRも一般化してきましたが「かぶって面白いね」で終わってしまっては、世の中は変わりません。

麻倉 ロービジョンとは「視力が著しく低下した人」という意味でしょうか?

手嶋 はい。駅などでよく、白杖をついている方を見かけます。中には白杖をついていても比較的早く、スタスタと歩いていらっしゃる方がいます。視覚障碍者の数はおおむね31万人と言われていますが、そのうち「本当に目が見えない方」は18万人から19万人程度だと言われています。つまり残りの1/3程度、12~3万人の方々はロービジョン、つまり「目が見えにくい方」となる。ぼやけた視界で、メガネをかけても0.3未満の視力にしかならない方です。

麻倉 なるほど、高齢化社会が進めばこういった人は増えますね。

手嶋 広く見積もれば140万人程度の数に上るとも言われています。この数字は2007年ごろの統計であるため、現在はもっと増えているかもしれません。目の病気は不可逆で、誰しもがなりえます。われわれも例外ではありません。

麻倉 RETISSA Displayは、こういったロービジョンの人が自分の目で見る機会を取り戻す助けになる可能性があるということですね。

手嶋 はい。VISIRIUM Technologyは「レンズの機能」をスキップして網膜に届ける技術であるため、網膜や視神経が機能していることが前提となります。ロービジョンの枠に当てはまる方の中にはこれらの機能に支障がない方もいらっしゃいます。まずはこうした「前眼部ロービジョン」の人々に医療機器として届けられる製品を開発したいと考えています。

麻倉 歓迎すべきことです。いわば「補聴器」ならぬ「補視器」といったデバイスが登場することになります。

手嶋 われわれが言いたいのはまさにそれです。誤解を恐れずに言えば、われわれが目指しているのは「補聴器のメガネ版」です。HMDを使った視力支援など、狙いが近い機器はありますが、こういった機器では単に拡大して見えるようにするなど、ごく限られた機能しか提供していません。しかしRETISSA Displayはデジタル化した映像を直接網膜に届けられる。カメラでとらえた映像をより見やすく加工して届けることも可能になります。

次世代の電子機器で期待される量子ドットレーザー

 レーザーというと高出力・高効率の側面に注目が集まりがちだが、これとは異なるプローチで開発されたレーザーが存在する。量子(クアンタム)ドットレーザーと呼ばれるもので、QDレーザの社名にもなっている。

 クアンタム・ドットレーザは半導体のガリウム砒素ウエハーの上に、インジウムひ素(InAs)の小さい粒子を積層して小さなギャップをたくさん作り、このギャップ自体を発光体にするものだ。量子ドットの直径は20nmほどで、ウイルスよりも小さい。

 温度安定性が高く、高温動作が可能である点は、量子ドットゆえの利点。200℃以上でも動作し、自発光型ゆえに発する熱に対しても強く長寿命。暖めすぎると特性が悪くなりがちなレーザーの弱点がないため、通信インフラなどでも積極的に利用されている技術なのだ。

 応用例のうちコアとなるのは、光インターコネクトという、メタル配線を光通信に置き換える技術だ。銅線を伝う電気の速度は光を超えることができない。であれば光を利用して高速なデータ転送をしてはどうかというのが発想の源だ。

 既存のレーザーモジュール(レーザーダイオードを使った光部品)を回路の中に置くと、どうしても装置が大型化してしまう。そこで半導体の製造プロセスの中に盛り込んで、その上に積層できる光源=クアンタム・ドットレーザーが有望視されているのだ。

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