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パワハラ匿名告発が会社に対応を迫る!窮余の人事部が打った一手

2018年05月17日 06時00分更新

文● 松岡 翠(ダイヤモンド・オンライン

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パワハラ問題で匿名告発されたら、会社はどんな対応をすればいいか?
パワハラ問題で被害者が相談したということは、加害者には知られずにハラスメントがなくなってほしい、あるいは加害者に対して、謝罪と厳しい処分を求める、など望むものも百人百様。これらを確認しないまま、事を進めてしまうと大変なことに!(写真はイメージです)

ある日、上司の管理が異常に厳しいという匿名のパワハラ告発文が、郵便で社長以下数名の幹部に届きました。被害者が特定できないまま、人事部はどのような手を打ったのでしょうか。(産業カウンセラー 松岡 翠)

人事部長の突然の訪問で
見せてくれた匿名の告発文

「明日、そちらのオフィスにお邪魔したいのですが、1時間くらい、お時間をいただけますか?」

 ある日突然、ハラスメントの相談業務を行っているメーカーの人事部長からそんな一本の電話を受けました。

 その会社の規模は、従業員数600名ほど。ある地方都市に本社があります。東京に事務所のある私のところに、その会社から時間とコストをかけてわざわざやって来る、しかも「明日に」というのですから、何か緊急を要するトラブルが発生したのではないかと、想像されます。

 翌日、人事の部長と課長が2人揃ってやって来ました。そして部長がカバンの中から、A4の用紙を取り出し、私の方へと差し出したのです。

松岡:「何ですか?これ…」
人事部長:「お読みいただいた通りです。この文書が、昨日、社長以下の役員全員と、人事部の私のところに郵便で届きました」

 いわゆる告発文です。それは技術系の部署において、課長Aさん(男性)が部下にパワハラをしている、というもので、以下のようなことが書かれておりました。

・些細なミスをした部下でも呼び出し、会議室で2時間くらいかけて反省文を書かせ、その後、全員の前でそれを読ませる
・仕事の進捗状況について、5分単位で何をしているかを報告書に記入させる
・毎年恒例の花見に、「妻の体調が悪いので、帰宅して子どもの面倒を見なければならない」と部下が申し出たところ、「これは絶対に全員参加だ」と参加を強要された
――等々。

 A課長のこうしたパワハラが原因で、体調を崩し、会社を辞めた人もいる、とあります。最後に「会社として今後3ヵ月の間に、きちんと対応しなければ、『しかるべき措置』をとらせていただきます」と書かれていました。

 厄介なことに、その告発文は匿名で、かつ、文面に氏名が記されているのは、加害者とされるA課長のみ。

「これって、信ぴょう性ありそうですか?」と人事部長に尋ねたところ、「よくわかりません。ちょっと離職率の高い部署ではありますが…。しかし、課長のAはそんなパワハラをするタイプとは思えません」とのことでした。

パワハラの疑いがある
職場を訪問すると…

 1週間後、私は人事課長とともに、A課長の職場を訪問しました。名目は、「社員がイキイキと働くことができるように、人事部とハラスメント相談員が全職場を回って、全社員に面談をします。その1回目が、ここです。順次、全職場を回ります」としました。ハラスメントの告発があったといったことは、公にはできないため、誰も傷つかない嘘をついたのです。

 告発のあった問題の部署に入ると、私が訪問する本当の意味に何の疑いも持たないA課長が、実にさわやかに迎えてくれました。確かに第一印象は、人事部長が言ったまさに「そんなパワハラをするタイプとは思えません」なのです。そして、パートや派遣社員も含めて課員全員、面談をしました。

 実際のところ面談中に、A課長のパワハラを訴えるような話は出てきませんでした。ただ、ベテランの社員の中には、「A課長はマネージャーとしてどうですか?きちんと部下をマネジメントしていますか?」という問いかけに、奥歯に物が挟まったような曖昧な返事をする人が複数いました。つまり、A課長が加害者と断定できる事実は、ここでは確認できなかったのです。そして被害を訴える人も出てこなかったため、これ以上、パワハラを追及するのは、難しくなりました。

 しかし、A課長との面談で気になったことと、その職場にいて「おやっ!?」と感じたことがありました。まず、A課長は面談でこちらの質問に対して、常にイエスかノー、白か黒、といった感じで回答し、その中間や曖昧さなどがないのです。

 例えば、「最近、仕事も忙しいようですが、どうですか?」「イラッとしたりすることはありますか?」などの質問には、いずれも「いいえ、全くありません」といったような回答です。他にはこんな問答がありました。

松岡:「部下指導とか、マネジメントについて、どのように勉強されたのですか?」
A課長:「本を読んだり、セミナーに行って、勉強しました」
松岡:「実際に部下指導するにあたって、それらは役に立っていますか?」
A課長:「はい」
松岡:「『勉強したことと、現実は違うな』と思うようなことは、ありませんか?」
A課長:「いいえ、ありません」

ランチタイムはまるで学校給食!
メンバーから不満の声が…

 また、ランチタイムが異様でした。課のメンバー全員が会議室に集まり、A課長を正面にして会議をするような席順で座り、みんなで一斉に「いただきます」と唱え、食事をするのです。まるで学校の給食のような光景でした。

 食事後、若手に「ランチタイムはいつもみんな揃って食べるの?」と尋ねると、「そうなんです。お昼休みはもっと自由に過ごしたいんですが……」と思わず不満を漏らしていました。

 A課長が読んだ部下指導の本には、恐らく「食事の時間も大切なコミュニケーションの場です」といったことが書いてあったのでしょう。そしてそれを文面通り受け取って、毎日実行しているというわけです。たまには、そんなコミュニケーションもあるかもしれませんが、それを毎日強要された部下は息苦しくてたまりません。そんな相手の気持ちを考えて行動するのは、A課長にとっては不可能に近いことなのでしょう。

 告発文にあった「仕事の進捗状況を5分単位で報告書に記入させる」ことに関しては、恐らく「部下の仕事の進捗状況を管理しましょう」って書かれていた本を読んだか、あるいは人から聞くかしたのでしょう。最初は1日単位で行っていたものの、自分の思い通りに部下の仕事が進まないので、半日単位、1時間単位、そしてとうとう5分単位になってしまったと考えられます。

 また恒例の花見も、「職場のコミュニケーションで大切」となったら、そこに参加する部下の事情に配慮する余地などが全く働かないのです。

 面談ではパワハラの事実は確認できなかったため、A課長にお咎めはありませんでした。しかし、A課長の資質を改めて見直し、「マネージャーとして部下を持つのは難しい」と判断した人事は、技術者としての能力は大いに買っていたため、部下なしの専門職の立場でA課長を別の部署に異動させたのです。

 その後、告発文にあった「しかるべき措置」はありませんでした。部下をマネジメントする立場から解放されたA課長は、その後の人事の情報によると、今まで以上に技術者としての能力を発揮しているとのことです。そして、A課長の前部署にいた部下の中で、その後辞めた人も出ていないとのことでした。

 本ケースの解決の困難さは、告発者も、被害者が告発文には記されておらず、特定できないことです。

ハラスメント問題に介入する時
どんな方法をとるか?

 私がハラスメント問題に介入する時、加害者にいきなりアクセスはしません。最初に告発者、次に被害者にアクセスします。そして、被害者本人に、被害の事実を聴き取り、被害者がそれをどのように受け止め、どのような解決を望むのかを確認しなくてはなりません。

 被害者が相談したということは、加害者には知られずにハラスメントがなくなってほしい、あるいは加害者に対して、謝罪と厳しい処分を求める、など望むものも人それぞれです。

 これらを確認しないまま、事を進めてしまうと、加害者とされる人が、「チクっただろう」とばかりに、さらにハラスメント行為を加速させたり、被害者のプライバシーが守られず二次被害が発生してしまったりと、解決どころか事態のさらなる悪化を招きかねません。もちろん、ガセネタの類に振り回されないようにするという観点からも重要です。

 そして、本ケースから見えてきたのは、相談窓口はあるものの、それが被害者の安心・安全を担保するものであることを、きちんと社内で働く人全員に周知できていたのかということです。

 その後、会社側は今回のケースの反省を踏まえ、社内全員に職場のハラスメントについての冊子を配布し、被害に遭った場合は、安心して相談窓口を利用するように周知を徹底したそうです。

 ハラスメントの場合、二次被害への不安から「相談したくても相談できない」という苦しみを抱えている被害者が少なからずいます。みなさんの会社ではハラスメント対策をきちんと行っていますか?

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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