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トロント大と放射線治療計画への応用を共同研究

富士通、デジタル回路で量子計算する「組み合わせ最適化問題」専用クラウド

2018年05月16日 12時00分更新

文● 羽野三千世/TECH.ASCII.jp

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 富士通は2018年5月15日、「組み合わせ最適化問題」を高速に解くことに特化したクラウドサービス「デジタルアニーラ クラウドサービス」の提供を開始した。富士通研究所が量子アニーリング方式の量子コンピュータに着想を得て2016年に開発した組み合わせ最適化問題専用アーキテクチャ「デジタルアニーラ」をサービス化したもの。同サービスで数式モデルを構築・利用するためのアプリケーション開発を支援する「FUJITSU Digital Annealerテクニカルサービス」を併せて提供する。

 組み合わせ最適化問題を高速に解く技術として、量子アニーリング方式の量子コンピュータが注目され、すでにカナダD-Wave System社が商用化している。しかし、現行の量子アニーリングマシンはハードウェア面の制約が大きく、実用規模の問題を解けるようにするためには技術課題が多いとされる。富士通研究所が開発したデジタルアニーラは、ハードウェアの設計自由度が高いデジタル回路に、量子現象に着想を得た仕組みを実装し、組み合わせ最適化問題を高速に解くアーキテクチャだ。

 デジタルアニーラは、コンピュータ内部で素子同士が自由に信号をやりとりできる全結合型の設計を採用する。1024個のビット値が全結合で相互接続されており、ビット間の結合の強さを6万5536階調で細かく設定できるため、現行の量子アニーリングマシンでは扱うことができなかった大規模な問題が解けるという。デジタル回路なので、特別な冷却装置を使わずに室温で安定動作する。

 富士通は、新たにデジタルアニーラ専用プロセッサ「Digital Annealing Unit(DAU)」を開発し、ビット間結合の規模を現在の1024ビットから8192ビットへ、結合精度を16ビットから最大64ビットの1845京階調まで拡張する。DAUを実装したクラウドサービスは2018年度中に提供する予定だ。

デジタルアニーラ専用プロセッサ「Digital Annealing Unit(DAU)」

富士通グループ内では倉庫でのピッキング経路最適化に活用、移動量45%削減

 デジタルアニーラ クラウドサービスの適用領域を拡大するために、富士通はグローバルで量子コンピュータ領域の協業を強化している。同日、量子コンピュータ向けソフトウェアベンダーの米1QB Information Technologiesとの協業を発表した。2018年度中に1QBのクラウドサービスからもデジタルアニーラを利用できるようにする。

 また、トロント大学とは、交通、ネットワーク、金融、医療の4分野でデジタルアニーラの応用に関する共同研究を進めている。例えば、医療分野では放射線治療の治療計画に関する研究を行っている。デジタルアニーラの高速な計算によって、治療計画にかかる日数を短縮して効率的な治療が可能になることが期待される。

 国内では、リクルートコミュニケーションズ、三菱UFJトラスト投資工学研究所、富士フィルム、フィックスターなどがデジタルアニーラの導入検証を進めている。富士通グループ内でも、サーバー製造子会社の富士通ITプロダクツが、倉庫内のピッキング計画の最適化にデジタルアニーラを活用し、最大45%の移動距離を削減できたとする。

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