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死亡した過激派バイオハッカー、肺がんの遺伝子療法も計画していた

2018年05月09日 06時55分更新

文● Emily Mullin

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過激なパフォーマンスが物議を醸していたバイオハッカーのアーロン・トレイウィックが、肺がん向けの遺伝子療法の実施を計画していたことがわかった。トレイウィックの死亡によって計画は中止に追い込まれたものの、実際にメキシコの診療所で治療をするとして被験者を募っていた。

クリスパー(CRISPR)自己注射のパフォーマンスで物議を醸したバイオハッカー、アーロン・トレイウィックが、ワシントンDCにあるアイソレーション・タンク(感覚を遮断するための装置)で死亡しているのが4月29日に発見された。伝えられるところによると、トレイウィックは肺がんを対象としたCRISPR療法の人体実験を計画していたようだ。

28歳のトレイウィックは、2月に開催されたバイオハック会議の聴衆の前でDIYのヘルペス治療薬を自身に注射し、メディアの見出しを飾った。トレイウィックは、誰でも入手可能な遺伝子治療を目指すとした謎めいた企業、アセンダンス・バイオメディカル(Ascendance Biomedical)のCEO(最高経営責任者)であった。

アセンダンス・バイオメディカルは、2017年10月に別の自己投与の様子を生中継で配信したことがある。HIV患者であるトリスタン・ロバーツが、アセンダンスから提供された調合薬を自身に注射している様子がフェイスブックで流れた。アセンダンスは、その治療法を遺伝子療法と呼び、ロバーツの血中にあるHIV分子が減少するよう設計されていると語った。しかし、効き目は現れなかった。注射後、ウィルス量が数週間で増加したのだ。

医学の正式な訓練を受けていないトレイウィックは、遺伝子編集技術であるCRISPRを含むと思われる実験的な肺がん治療も計画していた。治療は、米国の国境からわずか数キロに位置するメキシコのティフアナにある診療所で実施される予定であった。

クリスパー・リジュビネーション(CRISPR Rejuvenation)のWebサイトの「会社情報」のページには、この治験の宣伝やトレイウィックについて載せられている。Webサイトは直近では3月に更新されており、非小細胞肺がんの患者50名を治験の被験者として募っているという。登録にあたってトレイウィックによる診察代として25ドルの支払いを求めている。実際に支払った患者がいたのかどうかは不明だ。

Webサイトによると、この療法は、通常、発がん抑制物質の役割を果たすp53遺伝子をターゲットにすることを示唆している。しかし、多くの場合、非小細胞肺がん患者の遺伝子には、がん細胞の制御不能な成長を許す突然変異体が含まれている。

この記事を執筆している時点では、治験のフェイスブック・ページも存在している。Webサイトとフェイスブックのページに載せられた電話番号に電話をすると、アセンダンス・バイオメディカル用のグーグル・ボイス受信サービスへ転送される。

昨年12月、米遺伝子細胞治療学会(American Society for Gene and Cell Therapy)が、無認可の遺伝子治療について患者に警告する声明を出した。潜在的な危険性があり、恩恵を受ける可能性は低いという内容のものである。

スタンフォード大学の科学者で、米遺伝子細胞治療学会の副理事長でもあるミチェル・カルロス教授は当時、MITテクノロジーレビューに、疑わしい幹細胞治療が激増したのと同様に、怪しげな診療所が遺伝子療法と銘打った治療を始めるのを危惧していると語った。

「まさに、恐れていた類のことが起こってしまいました。おそらく避けられないことなのでしょう」と、クリスパー・リジュビネーションのWebサイトを眺めたカルロス教授は語った。

CRISPRをベースとしたがん治療のいくつかの治験は、中国ではすでに進められている。米国では、ペンシルベニア大学が主導する米国初となる研究もまた現在、特定の種類のがん患者の受け入れをしている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の1月の記事によると、ペンシルベニア大学は治験開始の認可を連邦政府から得るために、安全性への懸念の対処に約2年を費やしたという。

ティファナの診療所であるインターナショナル・バイオケア・ホスピタル・アンド・ウェルネス・センターの従業員は、電話取材に対して、医師陣が治験の立ち上げをトレイウィックと手掛けていたことを認めた。しかし、トレイウィックが死亡したので、計画を進めることはないという。

ヒトの被験者を含む科学的研究は一般的に、治験審査委員会(Institutional Review Board、IRB)が最初に審理し、研究が倫理的であるかを確認する。インターナショナル・バイオケア・ホスピタルの従業員は、トレイウィックの計画した研究が、そのような委員会の認可を受けていたかどうかは知らないという。

インターナショナル・バイオケア・ホスピタルの創業者であり、クリスパー・リジュビネーションのWebサイトに名前が載っているロドリゴ・ロドリゲス医師には連絡が取れず、コメントが得られなかった。宣伝用のパンフレットによると、同診療所は、がん治療の「代替療法」として、栄養療法、デトックスと包括的抗酸化療法、オゾン療法、全身温熱療法を提供しているという。こうした療法ががんに効果的であるかどうかは証明されていない

Webサイトに載っている他の協力者も連絡が取れず、コメントは得られなかった。

MITテクノロジーレビューとの過去のインタビューでトレイウィックは、新治療を患者に届けるのを加速するために、アセンダンス・バイオメディカルは連邦規制と一般に長い年月を要する新薬開発過程の回避を熱望していると語った。これまでのところ、アセンダンスの治療が効果を発揮した証拠はなく、同社のWebサイトに治療方法の詳細はほとんど載っていない。


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