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「田舎だからこの程度でいい」なんて言わせない

秋田から発信するneccoの力強く自由な生き方、働き方

2018年05月02日 10時30分更新

文● 重森大

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なんか面白そうだったのでノリで阿部さんについてきちゃった

 秋田の企業にデザインの力を知ってもらい、ビジネスを成長させる力として活用してもらいたいという阿部さんの想い。そこに共感してともにneccoを立ち上げた……はずの森下さんと今さん。

立ち上げからneccoを支えてきた今さん、森下さん

「阿部さんの想いのどういう点に共感して、necco立ち上げに参加したんでしょうか」(筆者)

「なんかノリでついてきちゃいました」(今さん)

「なんかノリで」(筆者)

「面白そうだなって」(今さん)

 世の中、事実というのはそんなに深くないものだ。しかたがないので、もうひとりのコアメンバーである森下さんに伺ってみた。

「森下さんはどのようなモチベーションで参加されたんですか?」(筆者)

「ノリでついてきちゃいましたね」(森下さん)

「ノリで」(筆者)

「阿部と今の会話ってすごく面白いんですよ。その2人がやるなら、面白いに違いないと」(森下さん)

 面白いってのは重要だ。筆者も、面白そうだなという理由だけで全国どこにでも取材に飛んでいく。起業もそんなものなのかもしれない。しかし、いろいろと話を聞いているうちに今さんと森下さんが「面白そう」に込めた想いがわかってきた。

お客さんのために一番いいことを目指して、前職からやり合ってきた仲間

 3人とも前職では同じ企業に勤めていたものの、今さんはデザイン部門だったので阿部さんとともに仕事をしていた訳ではなかった。デザインのことはデザイン部署が考えるという役割分担があり、部署内のミーティングでいろいろなことを決めながら仕事を進めていたが、物足りなさも感じていたという。

「どことなく、この程度でいいんじゃない?という雰囲気を感じていました。お客さんの意識も高くないので、求められるレベルは確かにクリアできますが、もっとよくできるのでは、という思いがあったんです」(今さん)

necco Designer / Illustrator 今 聖菜さん

 その今さんに、部署の壁を越えて声をかけてくるのが阿部さんだった。もっとこうした方がいいのではないかと、顧客を第一に考えた意見をことあるごとに持ちかけてきたという。顧客によりよい体験をしてもらいたいという想いは、今さんも同じ。自然と2人の議論は熱を帯び、それが森下さんの言う「この2人の会話は面白い」につながるのだった。

「デザインでできることがもっとあるはず。お客さんにもっと喜んでもらうことができるはず。そんな仕事がneccoならできると思ったんです」(今さん)

 森下さんは、阿部さんと同じように東京のIT企業勤務を経験している。殺人的な通勤地獄やデスマーチに疲れ果てて、地元企業に転職して秋田に戻ってきた。しかし秋田では東京のような刺激のある仕事は少なく、次の一歩を考えていたところだったという。

「独立するかエンジニアをやめるか、そんなことを考えているところでneccoに誘われました」(森下さん)

necco CTO Technical Director / Engineer 森下 裕介さん

 森下さんの心を打ったのは、阿部さんの「地方だからこの程度のレベルでもしかたない、とは言わせない。秋田でも東京に負けない仕事ができることを示したい」という言葉だったそうだ。東京ではWebサイトがあって当たり前、ITをビジネスに使って当たり前、その上で他とどう差別化するかを競っている。同じレベルの仕事を、秋田でも。阿部さんはそう語ったそうだ。その想いを共有したうえで、「この2人がそう考えて取り組むなら面白い仕事ができるに違いない」と仲間に加わったのだ。

「ITに関係した仕事を目指すなら、一度東京に出ることは重要だと思います。スピードは速いし刺激も多い。でもその分疲れることも多いんです。東京で技術を身につけて、でも疲れたら秋田に帰ってくればいい。そんな人が戻ってこれる場所を、作りたいと今は考えています。秋田なら車で楽に通勤できますし、家も広いですよ」(森下さん)

コミュニティ活動を通じて回り始めた好循環

 阿部さん、森下さんはコミュニティ活動にも熱心だ。東京にいたときには勉強したいことがあれば適当に検索すれば勉強会が見つかったが、秋田ではそうはいかない。自分が立ち上げ、牽引していかなければならない。しかしコミュニティ運営のノウハウを持っていなかったので、まずは既存コミュニティの運営に加わって経験を積んだ。

「CSS Niteに加わったり、そこで誘われた他のイベントを手伝ったりしているうちに、イベント運営の基本が見えてきました。同時に、そこでコネクションも広がって行ったんです」(阿部さん)

 ここで得た知見やコネクションは阿部さんたちにとって大切なものになった。学んだノウハウをベースに秋田でイベントを開催できるようになり、そこに登壇してもらう人を呼ぶためにはコミュニティ活動で得たコネクションが役立った。阿部さんはWordBenchを、森下さんはCoderDojoやkintone Café、東北TECH道場などの運営に携わっている。neccoとしてデザイン勉強会も開催しているとのこと。

 「秋田を牽引するというよりも、今はまだ自分たちが勉強したいという思いで勉強会を開催しています。それを分かち合いたい人がいれば参加してもらう、という気持ちですね」(森下さん)

 こうした活動を通じて巻き込んだり巻き込まれたりしているうちに、発信力の強い人とのコネクションが増えて、情報がどんどん入ってくるようになった。秋田にいても、アウトプットファーストの大切さを実感しているという。

終始仲の良さそうな雰囲気に、思わずこちらも楽しくなって長居してしまった

「大切さを実感しているからこそですが、まだ自分たちの情報発信が足りないと感じています。ついつい目の前のお客さんのことを考えてしまって、自分たちの情報発信って後回しになりがちなんですよね。でも、お客さんだけじゃなく自分たちも成長しなければいけない。秋田で成長する姿を見てもらって、いっしょに成長したいと思ってくれるお客さんといっしょに仕事をしたいんです」(阿部さん)

 筆者が取材に訪れた日も、自社Webサイトの改修について3人で議論していたところだそうだ。neccoの成長と阿部さんたちの情報発信を、期待しながら見守りたい。

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