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遠藤諭のプログラミング+日記第43回

TモバイルUSとスプリントの合併は、5Gとスマートの先に見えるものは何かだ

2018年05月02日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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2003年に米Danger社から発売されたHiptop(写真はT-Mobileの商品名でSidekick)は、本体の背面から回転しながら飛び出すキーボードのギミックとともに米国では若いユーザー層を中心に一定の人気があった。

スマートフォンのはじまりと“キケン”な会社

 米国の移動通信で3位のTモバイルUSと4位のスプリントが、2019年を目途に合併することで合意したというニュースが流れた。ロイターやブルームバーグは「TモバイルUSがスプリントを株式交換で買収」と表現したが、この交渉は5年も前から行われていたものだそうだ。

 このニュースに対しては、(1)米独占禁止法による規制で承認されないのではないか(4社あるキャリアが3社になる)、(2)「5G」へ積極的に取り組みたい2社だが投資がかさむという事情がある、(3)ソフトバンクは連結売上こそ減るものの297億ドルの負債から抜けられる、などといった反応がある。

 このあたりのお話は置いておくとして、2013年に、ソフトバンクがスプリントを買収したときのことを思い起こしてみたい。当時、「iPhone×Android」というスマートフォン時代の2強による市場支配はできあがっており、ソフトバンクには、そこに“風穴”をあけることをやってほしいと思わせるものがあった。

 パーソナルコンピューティングの35年ほどの歩みの中において、孫正義氏は、何度かハードウェアに興味を示してきた。80年代前半には製品化こそされなかったが「MSX」のような8ビットの家庭用コンピューターを作る準備をしていた(業界人の間でもほとんど知られていないが)。

 ひょっとしたら、2008年にソフトバンクから提案された「インターネットマシン」を連想する人もいるかもしれない。孫正義氏が企画から参加した端末で「閉じて電話、開くと大画面&キーボード」が触れ込みのヨコ開き端末。市場に受け入れられたとは言いがたいが、ネットの用途を考えると実用本位の端末をめざすものだった。

 モバイルに関していえば、前後するが03年に、ソフトバンク系VCが米国デインジャー社へ出資している。デインジャーは、02年に「Hiptop」(TモバイルUSでの製品名はSidekick)というキーボード搭載の端末を発売した会社である。「Blackberry」が、背広族を相手にしていたのに対して、“18歳から34歳”までをターゲットに発売。メール、ウェブ、AOLを使ったチャット、新聞(ニューヨークタイムズ)、オプションで撮影、ゲームができる。その後のスマートフォンのニーズを先取りした内容の端末だった。

 時期的には、アップルがiPodを発売した翌年で、4年後のiPhoneの発売にも影響を与えている可能性がある(もちろんその前にはPalmやHandspringがあったわけだが)。創設者の顔ぶれは、元アップルの3人(2人がWebTV、1人はPowerBook150の設計者でフィリップスでVero 1を開発)、ジョブズと一緒にアップルを創業したウォズニアックも取締役に名前を連ねていた。

 そして、この会社を立ち上げた中心人物が、その後、Android社を設立することになるアンディ・ルービン氏なのだ(Apple → Genaral Magic → WebTV → Danger)。ご存知のとおり、そのAndroid社は05年にグーグルが買収してスマートフォンの一大勢力となるオープン・ハンドセット・アライアンスとAndroidに姿を変えることになる。

02~05年はスマートフォン時代に向けていくつかの出来事のあった時期だ。PalmからTreoが登場、BlackBerryもウェブやメールが使えるようになった。それらに比べてソフトユーザー層に支持されたという点において、Hiptopは、よりスマートフォン時代を予見させたといえる。ソフトバンクはその主要な投資元の1つ。発売元Danger社から設立者自身であるアンディ・ルービンが独立してAndroidとなる(Danger社は後にマイクロソフトが買収)。アップルはこうしたゲームを遠目にiPhoneを生み出したといえる。

 ちなみに、Androidの特徴といえる「ホームボタン」や「戻るボタン」は、「Hiptop」から引き継がれたものである。ソフトバンクが、1兆7000億円で日本のボーダフォンを買収したのは、この4年後の06年。ところが、2007年にアップルがiPhoneを発売して、ネットとモバイルで我々の生活や世界をも大きく変えはじめる。

合併による市場シェアの変化よりも、5Gで何ができるのか?

 ソフトバンクといえば、日本市場でiPhoneを最も担いだ会社だが、13年のスプリントへの出資はそれとは真逆の動きだったのではないか?日本はとくにiPhoneが強い。iTunesで音楽を聴いている若い人たちは歳をとるまでアップルのプラットフォームから抜けないだろう。映画や本では同じようには事は運んでいないが、決済(Apple Pay)や医療、IoTなど、アップルはインフラで世界をにぎろうと考えている。

 そうしたときにキャリア(移動通信事業者)が、自分たちがどのように仕事をすべきか? 何らかの形でそれとバランスをとれるものをプラットフォームとして作りうるのか否か? と考えないほうがおかしいと思う。

 13年のスプリント買収のときに、ソフトバンクは、ある思想的な転換を行ったように思える。ひたすら、iPhoneを担ぐのが仕事ではないということだ。そういえば、1年前のいま頃は、Androidの生みの親のアンディがGoogleを抜けて設立したEssential Productsへのソフトバンクの出資に関することがニュースになった(計画の中止だが)。

 ソフトバンクは米国4位のキャリアの83%の株主から、合弁が成立すればその会社の27%の株主になる。利用者数は1億人になるともいわれ(2位のAT&Tと競うようになる)、孫正義氏は、その会社(TモバイルUSになるという)の取締役になるとみられている。これによって、なにか遠退いたのものがあるのか?なにが可能になってくるのかはとても興味深い。

 iPhoneが、それこそHiptopやTreoやBlackberryにはなしえなかったスマートフォンの時代を切り開くことができたのはなぜだろう。カラー液晶やタッチパネルやCPU性能のバランスがタイミングよく合ったのだという意見がある。重要なのはそれらとアップルの作った滑らかな画面表示のミドルウェアがあいまって、「紙」と比較しうるようなベーシックな材質感を生み出したからだと思う。iOSとかスマートフォンというのは、広い意味での物質のことなのだと言ってもよい(だから大きくしてiPadになったりするのだ)。

 5Gでは、VR/ARのようなリアルタイム3次元映像や8Kといった超高精細映像によって「距離」や「理解」の意味を変えることに価値がある。つまり、スマートフォンで得られたものとは別の次元のものがユーザーに届けられるはずだという。この合併は、ネットデジタルの新しいフェーズに入る前触れのようなものだとみるべきなのだ。

遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。著書に『ソーシャルネイティブの時代』、『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)、『NHK ITホワイトボックス 世界一やさしいネット力養成講座』(講談社)など。

Twitter:@hortense667
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