Atomの新アーキテクチャー
Tremont
チップセットの話はこのあたりにして、ここからはCPUアップデートの話だ。前回はCoreアーキテクチャーのみを紹介したが、Atomにも若干のアップデートがある。
インテルのRonak Singhal氏(Intel Fellow, Core and Visual Computing Group Director, CPU Computing Architecture, Intel Architecture Cores Group)が4月5日にこんなTweetをしている。
Latest version of our document with upcoming ISA extensions now available, including some new instructions detailed for the first time: https://t.co/bV2QC2Uw8M
— Ronak Singhal (@rsinghal1) 2018年4月4日
アップデートされたのは“Intel Architecture Instruction Set Extensions and Future Features Programming Reference”で、名前の通りx86/Intel 64の命令セット一覧である。ここのFeatureページにTremontの文字が出現したことで、ちょっとした騒ぎになった。
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このマニュアル自体、2017年4月の-029から10月に-030、2018年の1月に-031と-032が出て、3月にこの-033になった。Ice LakeやGoldmont Plusの文言は-030から追加になっている |
このマニュアルはあくまで命令セットであって、マイクロアーキテクチャーがどうなってるという話は一切載っていないため、Tremontがどんなものなのかはさっぱりわからない。
マイクロアーキテクチャーが載っているのはIntel Softwareの“Intel 64 and IA-32 architectures optimization reference manual”の方だが、見ていただくとわかるがGoldmont Plusどまりである。
このTremontは、コード名一覧にも載っていない。今回追加されている命令はAVX系ではなくIntel 64の方で、以下のようになっている。
追加された命令 | ||||||
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命令 | 搭載マイクロアーキテクチャー | |||||
GFNI(SSE) | Ice Lake and later Future Tremont and later |
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ENCLV | Ice Lake Server and later Tremont and later |
|||||
Split Lock Detection | Ice Lake and later Tremont and later |
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CLDEMOTE | Tremont and later | |||||
Direct stores: MOVDIRI, MOVDIR64B | Future Tremont and later | |||||
User wait: TPAUSE,UMONITOR, UMWAIT | Future Tremont and later |
登場時期はIce LakeやIce Lake Server(Ice Lake-SPのことだろう)より後になると思われる。ということは、製造プロセスは10nmと考えるのが妥当だろう。
ちなみにAtomの場合、当初のBonnell(45nm)/Saltmont(32nm)はIn-orderの2命令同時実行(Photo02)、Silvermont(22nm)/Airmont(14nm)は2命令発行のOut-of-Order(Photo03)、Goldmont(Photo04)/Goldmont+(Photo05)は3命令同時発行のOut-of-order構成である。
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以下出典は“Intel 64 and IA-32 architectures optimization reference manual”より。BonnellとSaltmontは2命令同時実行である。SMT構成になっており、ALUとAGU、2つのパイプラインが用意される。ただしIn-Orderなので、DispatcherやSchedulerが存在しない |
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SilvermontとAirmontは、Alloc/Renameユニットに2命令が入り2命令が出ていくことで、2命令のOut-of-Orderとわかる |
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GoldmontではInstruction QueueやAllocate/Renemaeが3命令に増えている |
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Goldmont+は基本的な構造は変わらないが、ROB(Re-order Buffer)の数の増強や一部命令の高速化、L2 命令TLB(L2 データTLBと共用)の追加などが主な相違点 |
ということは次は4命令同時発行か……という考えがよぎるが、そこまで行くとCoreとの差がなくなり、同程度に巨大なダイになりかねない。消えてしまったKnights Hillに搭載予定だったAtomコアにはひょっとして、という話があった。
というのはその前世代のKnighs LandingはAtomコアに2つのVPU(AVX-512ユニット)を組み合わせたものだが、仮にKnights Hillでも同じ構成だとすると、2つのVPUをフルに活用するためにはロードストアユニットも2つ(VPUあたり1つ)ないと帳尻が合わなくなるからだ。
VPU2つとロードストアユニット2つを同時に動かすためには4命令同時発行でないと間に合わないわけで、ここから4命令という話が出てきた。
ただKnights Hillが消えた今となっては、そこまでのピーク性能は求められないため、個人的には3命令のままなのではないか、と考えている。
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