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日本ユニシスが勘定系システム「BankVision」をAzureのIaaSへ実装

「勘定系をパブリッククラウドで」は地銀の声、BankVision on Azure計画の始り

2018年04月09日 13時00分更新

文● 羽野三千世/TECH.ASCII.jp

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 日本ユニシスと日本マイクロソフトは2018年3月23日、パブリッククラウド環境に勘定系システムを実装する共同プロジェクトに取り組んでいることを発表した。Microsoft Azureに日本ユニシスの勘定系システム「BankVision」を載せて、既存顧客の地方銀行へクラウドサービスとして提供することを目指す。同プロジェクトについて、2社の担当者の皆さんに話を聞いた。

BankVision on Azureのプロジェクトを担当する日本ユニシスと日本マイクロソフトの皆さん

パブリッククラウドに目を向ける地銀

 BankVisionは、日本ユニシスが2007年から提供しているWindows Server、SQL Serverを基盤とした勘定系システムだ。現在BankVisionは日本ユニシスが運用するオンプレミス環境で稼働しており、ユーザーの銀行は日本ユニシスにアウトソーシングする形で、サービスとして勘定系処理機能を利用している。ユーザー銀行は、山梨中央銀行、北國銀行、スルガ銀行、大垣共立銀行、百五銀行、紀陽銀行、筑邦銀行、佐賀銀行、十八銀行、鹿児島銀行の地銀10行。

 低金利や人口減少などにより経営環境が厳しい地銀は、インターネットバンキングの強化や新しい金融サービスの開発、外部のFinTech企業と連携するためのオープンAPI整備、業務効率化や業務システム見直しによるコスト削減に取り組んでいる。その取り組みの一環として、パブリッククラウドの利用に目を向ける地銀も出てきた。BankVisionのユーザー銀行である北國銀行は2017年に、Azureを基盤としたインターネットバンキングの開発を開始している。

 「パブリッククラウドの利用に目を向けたBankVisionのお客さんの中には、“聖域なきパブリッククラウド化”にとても乗り気な地銀さんがいます。このようなお客さんの要望を受けて、今回、勘定系システムのフル機能のパブリッククラウド化を開始しました」(日本ユニシス)。

オンプレでは将来的な固定費削減が見込めない

 勘定系のパブリッククラウド化を求めるユーザー銀行の最大のニーズは、IT費用の削減だという。現行のBankVisionもユーザーにとっては利用型ではあるものの、オンプレミスで稼働するシステムはIT費用が固定的になり、将来にわたってコストが低くなることが見通せない。BankVisionのAzureへの実装にあたっては、勘定系処理機能を機能単位でモジュール化し、ユーザー銀行が事業構造の変化に応じて使う機能を追加・削除してコストを最適化できるようにしていく。

 日本ユニシスにとっても、BankVisionのインフラを所有から利用に切り替えることで長期的には運用コスト削減が見込まれる。「Azureへの移行によって、BankVisionの料金を現行から2~3割安くできる可能性があります」(日本ユニシス)。

API連携だけでは実現できないこともある

 もう1つ、ユーザー銀行が勘定系システムのパブリッククラウド化に期待しているのは、勘定系が他サービスと連携しやすくなることだ。

 日本ユニシスは、BankVision向けに各行のWeb APIをインターネット公開するためのオープンAPI公開基盤「Resonatex」を2017年1月にリリースしており、同基盤を通じてBankVisionの勘定系と外部サービスをAPI連携することは現状も可能になっている。しかし、「APIで連携できるものはデータ量が限られてきます。銀行が勘定系のデータをクラウドで分析して活用したいと思ったとき、すべての累積データをAPIでやりとりするのは困難。勘定系のフル機能がデータを含めてクラウド上にあるからこそ可能になることがあります」(日本ユニシス)。

 なお、オープンAPI公開基盤「Resonatex」はAzureを基盤に構築されている。APIゲートウェイ機能にAzureのPaaSである「Azure API Management」を使い、APIを呼び出す認証・認可サービス(Authlete社のOAuth2.0)をAzureのIaaSに実装している。

 Resonatexの開発でAzureを利用した経験や、BankVisionが稼働するWindows ServerおよびSQL Serverとの相性の良さ、金融機関に特化した契約があるといった理由から、日本ユニシスは今回、BankVisionをのせるパブリッククラウドとしてAzureを選択した。すでに1年半にわたって日本マイクロソフトやマイクロソフト米国本社のエンジニアと共同で検証を続けてきており、2018年に入って「BankVisionがAzureで問題なく稼働しそうだという目途がたったので、プレスリリースで発表しました」(日本ユニシス)ということだ。

 2020年度から、BankVisionの既存ユーザーの基盤交換の時期が順次訪れるので、「そのタイミングで多くのユーザーにパブリッククラウド版へ移行してもらいたい考え。そのために、2020年度までにはBankVision on Azureをリリースする計画です」(日本ユニシス)。

BankVisionをそのままAzureのIaaSへ移行

 これまで1年半の共同検証では、Windows Server/SQL Serverで稼働するBankVisionのコア機能に変更を加えず、そのままAzureのIaaSへ移行することを試みてきた。オンプレミス版のBankVisionは、日本ユニシスの東日本と西日本のデータセンターで国内地理冗長している。Azureへの実装にあたっても構成を踏襲して東日本リージョンと西日本リージョンで冗長化する。

 地銀の業界規模、地銀のコスト意識を鑑みると、勘定系をクラウド向けに作り替える投資の回収は時間がかかりすぎる。既存の資産を活用できることを優先してのIaaSだ。さらに、「シンプルにAzureへ移行するために、オンプレミスとAzureのハイブリッド構成の検討は優先度低めです。フルバンキングシステムを全部Azureにのせることを前提にしています」(日本ユニシス)。

 「AzureのVMはWindows Serverとの親和性が高く、この部分はIaaSでの稼働にほぼ問題ありませんでした」と日本ユニシス担当者は振り返る。一方で、ストレージやネットワークについてはオンプレミスとパブリッククラウドパフォーマンスの出し方などの考え方が異なるので、様々な検討項目があったという。「1年半の取り組みで技術的な課題はクリアになっており、2018年度は一つずつ検証を重ねていくフェーズです」(日本ユニシス)。

IaaSで可用性をどう担保していくか

 IaaSのみで勘定系システムを構築しようとした場合、可用性の担保が課題になる。オンプレミス版のBankVisionでは、独自ミドルウェアの「MIDMOST」がトランザクションの制御や障害時のリカバリー、ノード接続などの機能を提供し、可用性を高めている。「MIDMOSTをPaaS的にAzureのIaaSに実装して可用性を高めるのか、あるいはパブリッククラウドのプラットフォームにMIDMOSTがそもそも必要なのか、これから設計を検討していきます」(日本ユニシス)。

 IaaSのみの構成でも、「例えば、最近利用可能になったAzureのAZ(アベイラビリティゾーン)を使えば、単一リージョン内のVMでSLA 99.99%まで可用性を高めることができます」(日本マイクロソフト)。AzureのAZは国内リージョンではまだGA(一般提供)していないが、「日本ユニシスさんとの共同プロジェクトは米国本社のエンジニアも入っており、銀行の勘定系をAzureにのせる先進的な案件が日本で動いていることは本社も認知しています。AZの国内リージョンでのGAについても日本法人からリクエストしています」(日本マイクロソフト)とのこと。

 マイクロソフト的には、同プロジェクトに対して、IaaSより可用性の高いPaaSの選択肢も提案したいようだ。「例えば、オンプレミスのSQL Serverとほぼ100%互換のデータベースAzure SQL Database Managed Instanceであれば、システムを変更することなくマネージドのPaaSが利用できます」(日本マイクロソフト)。

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