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「新型摂食障害」の恐怖、健康ブームが心の病の引き金に

2018年04月09日 06時00分更新

文● 森 江利子(ダイヤモンド・オンライン

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「いつまでも健康でいたい」という高い意識が、かえって健全な心身を病む原因になってしまう――。“健康ブーム”が引き金となり、新たな病が生まれている。そんな現状を医師の山田秀和氏に聞いた。(清談社 森江利子)

日本人に蔓延する「理由なき不安」が
健康ブームを引き起こした

健康情報に振り回されたり、「健康的」であることにこだわりすぎることで不安感を高めてしまい、強迫性障害に似た状態になることも...

 空前の“健康ブーム”が起こっている。日本は世界でも類を見ない超高齢化社会へ突き進んでおり、健康寿命への関心が高まる中でTVや雑誌、インターネットには、「健康」に関するさまざまな言説が溢れ返っている。“健康オタク”という言葉に、心当たりのある方も多いのではないだろうか。

「“健康ブーム”は世界的な潮流ですが、特に日本人は“不安”を感じやすく、流行に流されやすい性格のため、健康情報との付き合い方にも注意が必要なんです」

 こう語るのは、近畿大学アンチエイジングセンター・副センター長でDAAアンチエイジング医師団メンバーの山田秀和医師だ。

「最近で言えば、糖質制限や低炭水化物ダイエットなどもそうですが、次々と登場する健康情報に振り回され、かえって不安感を強めてしまう患者さんが少なくありません」(山田医師)

 2014年、厚労省が20~80代の男女5000人を対象に行った「健康意識に関する意識調査」では、自分の「健康に関して不安がある」と答えた割合が6割超。また、「現在の幸福感」を数値化して回答する項目においては、自分が幸せかどうかを判断する際に重視した事項に「健康状況」と答えた割合が約55%と、「家計の状況(所得・消費)」47.2%、「家族関係」46.8%を上回っている。

「過熱する現在の健康ブームは、それだけ健康に“不安”を抱えている人が多いことの裏返しでもあるでしょう」(山田医師)

高い健康意識が引き起こす病
「オルトレキシア」とは?

 一方で、山田医師は「健康ブームには答えがない」と言う。たとえば、一大ブームを起こした糖質制限や低炭水化物ダイエットだが、その効果についてはたびたび議論が起きている。

「糖質制限や低炭水化物ダイエットブームは、もとは欧米で行われた大規模な研究や疫学調査が由来になり、3~4年遅れで日本でも取り上げられたもの。しかし、欧米人とは体質や遺伝的なバックグラウンドが異なるため、日本人にも同様の効果があるかは分からないんです」(山田医師)

 こうした中で、皮肉にも「健康」に対する高すぎる意識が引き起こす、新たな病が報告されている。たとえば新型の摂食障害の一種「オルトレキシア」は、「健康的」で「正しい」食生活へのこだわりから、強迫性障害に似た状態を引き起こす病だ。

「糖質制限や低炭水化物ダイエットを信じるあまり、特定の栄養素を含む食べ物を受け付けなくなり、食事を極度に制限してしまうことも傾向のひとつ。エスカレートすると、栄養失調を起こしてしまいますし、拒食症や心の病にもつながっていきます。近年、日本人にも増えてきているベジタリアンや、ヴィーガン(卵や牛乳などの乳製品も制限する絶対菜食主義者)なども同様で、厳格に行うことで、逆に健康を損なってしまう可能性があるのです」(山田医師)

ダイエットやアンチエイジングが
行き過ぎて醜形恐怖症に

 実生活や健康に支障をきたしながらも、本人には「健康に良い食事をしている」という思い込みがあるため、気づくことが難しい。

 また、日本人に多いのは、とにかく“見た目”を気にする傾向だという。

「痩せ信仰によるダイエットや、アンチエイジングブームも“見た目”に対する過剰な意識を助長しています。たとえば、他者の目には止まらないような、些細な肌のシミやムラに悩んだり、若いうちから過度に薄毛を気にしてしまう。これらは、醜形恐怖症の一種とも言えるでしょう」(山田医師)

 厄介なのは、これらの入り口が「ダイエットに励みたい」「健康になりたい」「いつまでも若々しさを保ちたい」という純粋な気持ちであることだ。

「健康に対する意識は大切ですが、ある程度、客観的な視点を保ちながら、ほどほどに付き合っていくことです。巷でもてはやされている健康情報に飛びつくのではなく、そんな考え方もあるな、とおおらかに捉えておくべきです。そもそも、痩せすぎよりも小太りくらいが病気予防にはいいし、見た目も若々しく見えますよ」(山田医師)

「いつまでも健康でいたい」とは、人間の共通した願いだが、度を越すとかえって健全な心身を損ないかねない。健康ブームも、一度冷静に見つめる必要がありそうだ。

山田秀和(やまだ・ひでかず)
近畿大学奈良病院皮膚科教授、近畿大学アンチエイジングセンター副センター長、アンチエイジング医師団メンバー。大阪府出身。近畿大学医学部卒業、同大学院修了。ウィーン大学、米国ベセスダNIH等で研鑽を積む。日本皮膚科学会専門医、日本東洋学会指導医、日本アレルギー学会指導医、日本抗加齢医学会専門医。アレルギー等皮膚科領域はもちろん、その領域にとらわれず医療全分野の文献を研究、予防医学の観点から診療にあたる。文化人類学、社会学等にも造詣が深く、「日常に届く医療」の為の情報提供に尽力している。「情報サイト エイジングスタイル http://www.agingstyle.com

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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