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前世代の遺産とお別れするまでの3年間を追う

約2万社の物理サーバー移行でファーストサーバが得たもの

2018年04月05日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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連日、運用管理システムを見ながらドキドキしていた

大谷:具体的な移行作業について教えてください。

辻野:設備の深刻度、システムの互換性、お客様の利用形態、移行のやりやすさなどをベースにお客様をまず3つにグループ化し、一番深刻度の高いグループから進めることにしました。

「お客様をまず3つにグループ化し、一番深刻度の高いグループから進めることにしました」(辻野氏)

矢倉:ケースバイケースなのですが、早いユーザーであれば10分、遅いユーザーでも2時間程度なので、基本お客様には「3時間」とアナウンスしました。もちろんあきらかに3時間以上かかる人もいますので、その人たちには個別アナウンスしています。

大谷:実際の移行作業はスムースだったのでしょうか?

辻野:最盛期は毎日200件ずつ移行作業を進めていきました。当初は大半のお客様がスムーズに移行できたのですが、1日の処理件数を増やして本格な移行を進めたら、問題が噴出してきました。

大谷:なにが問題だったんですか?

辻野:一番多かったのはやはり文字化け。もちろん当初から想定はしていたのですが、対応件数が想定よりもはるかに多かった印象です。結局いったん作業を中断し、方針を変更しました。当初は新サービスへの移行とともにUTF-8の文字コードを許容してもらおうと考えていたのですが、思いのほか多かったため、互換性を優先せざるをえないと判断しました。そういった判断を逐一やってましたね。

大谷:プロジェクトリーダーとしてはどこらへんに苦労しましたか?

矢倉:スケジュールを組み立てるのがとにかく大変でした。旧サービスの契約期間や入金期限、ドメインや証明書の有効期限、移行日の兼ね合いを調整し、お客様にご迷惑がかからないようにスケジュールを組まなければなりません。でも、移行作業の進捗で刻々と状況が変わるので、日々チェックしていました。

たとえば、よかれと思って土日に作業を組むのですが、土日に作業をしてしまうと、週明けに問い合わせが殺到し、顧客対応チームがパンクしてしまったんです。メンバーも深夜まで返信メールを書いていたりしたので、休日の前日は移行作業しないようスケジュールを組み直しましたね。

「土日に作業をしていたら、週明けに顧客対応チームがパンクしてしまったんです」(矢倉氏)

大谷:それにしても連日移行作業していたら、落ち着かないですね。

辻野:毎日、運用管理システムを見ながら、ドキドキしていました。停止時間にシビアなお客様もいらっしゃいますので、延びそうなときは個別で調整したり。移行作業は基本夜でしたし、家で寝ていても落ち着きませんでした。

岩崎:毎日、夕方5時にプロジェクトメンバーで集まって、日々起こったことを報告していました。そこに行けば、社長もいるし、方針も早く決まるのですが、毎日メンバーで決断の連続でプレッシャーがすごかったと思います。

辻野:フロントメンバーを支援する技術支援体制を社内に作りましたし、運用管理を専門で行なうチームが現場判断やエスカレーションできるようになっていたため、継続的に作業が進められました。移行が難しいお客様に関してはとことん手厚くサポートできるよう、お客様のシステムや使い方を洗い出した「カルテ」を作り、個別にきちんと説明するようにしました。

岩崎:とはいえ、後半はツールや手順も洗練されていったので、かなりスムースでした。最多で1晩267件切り替え、12月には第3グループの移行も完了しました。

4割はログインすらしていないので、気がついていない

大谷:先日、約2万社の移行プロジェクトが2017年12月に終了したというプレスリリースが出ました。ユーザーからの反応はどうだったんでしょうか?

岩崎:4割近くのお客様はログインすることもなく、移行したこと自体もおそらく気づいていないと思います。いまだに旧サービス名で問い合わせてくる方も多いです。一方で、われわれの都合で移行したことに関して、受け入れがたいという声もいただきました。

辻野:私も何件かクレームになった問い合わせに対応したのですが、ファーストサーバとしてきちんとインフラを見直すことで、お客様の事業を支えていきたいという説明をすることで、最終的には移行自体に関してはみなさんに納得いただきました。

大谷:なんだか事業をやっている方であれば、ユーザーも納得はすると思います。ただ、インフラ事業って縁の下の力持ちなので、ありがたみを感じにくいというのはありますよね。

岩崎:物理インフラに依存していた旧来システムの場合、いったん導入したらそのシステムが10年とか続いてしまうのですが、今回はクラウド型のZenlogicに載せ替えたので、全ユーザーが性能や機能強化の恩恵を受けられます。今後はメリットを感じていただけると思います。

「クラウド型のZenlogicに載せ替えたので、今後はメリットを感じていただけると思います」(岩崎)

辻野:正直言って請求書のやりとりくらいしかなかったお客様も多かったんです。でも、創業当初から使ってくれているお客様も数百単位でいますし、2000年代初頭のサービスは数千ユーザー単位います。そういった方々とコミュニケーションできたのが、われわれにとっても大きかったです。

Zenlogicに関わった全員に「ようやく1つ終わりました」と報告したい

大谷:今後の予定について教えてください。

岩崎:今回、共有サーバーのお客様はほとんどZenlogicに移行できましたが、お客様任意で進めてもらった専用サーバーでは移行先でスペックや性能が下がってしまい、解約に至ってしまったお客様もいらっしゃります。なので、こうしたお客様に戻ってきていただけるような、クラウドならではのリソースを活かしたサービスを検討しています。

辻野:クラウドベースのZenlogicに移ったことで、お客様ごとのリソース共有が効率的にできるようになったので、今後はセキュリティを強化する仕組みも強化していきたいと思います。

大谷:最後、今回のプロジェクトで得たもの、感じたことなど教えてください。

辻野:WindowsのようなOSもそうですが、やはり利用者と提供者の意識の差は大きいということですね。提供する側は5年が限界と考えていても、利用者は15年くらい使いたいと思っている。われわれサービス提供者としては、やはりお客様の感覚に寄り添っていかないといけないと思いました。

矢倉:今回、全社一丸で進めたプロジェクトを通して、社内のコミュニケーションはあきらかによくなりました。この風通しのよさを続けていきたいなと思います。

岩崎:Zenlogicも企画や開発含めて、もう5年近く経ちます。その間、会社を辞める人もいたし、入社する人もいました。お客様も同じように、入ったり、出たりがありました。そんなZenlogicに関わってきた人たちに、「ようやく1つ終わりました」と報告したい。20年の近く続けてきたデータセンターからサーバーが運び出され、目の前からなくなるのを見るのは、本当に感慨深かったです。時代は変わっていくんだと思いました。

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