今回のことば
「人間の身体のなかにチップが入り、デジタル化したら、30歳以上は歳を取らなくてすむようになる。AIが人の加齢を止めることができる」(物理学者のミチオ・カク氏)
IBMが米ラスベガスで開催した年次イベント「Think 2018」は、全世界から4万人以上の顧客、ビジネスパートナーが参加。日本からも約500人が参加し、同社のクラウドやAIへの取り組み、最新技術などについて発表があった。会期初日にはIBMリサーチが、今後5年以内に砂粒よりも小さいコンピューターが登場し、日用品やデバイスに埋め込める世界が到来するといった予測を発表し、来場者の関心を集めていた。
近未来の話題で同様に注目を集めたのが、会期2日目の物理学者のミチオ・カク氏の講演だ。
米IBM Watson & Cloudプラットフォーム担当シニアバイスプレジデントのデビット・ケニー氏が、最新刊のベストセラー『THE FUTURE OF HUMANITY』の著作に触れながら、「未来を現実にすることを伝えるには最適なスピーカー」とカク氏を紹介。登壇したカク氏は冒頭「これまで半世紀に渡って業界を引っ張ってきた半導体の世界が終わる。つまり、シリコンバレーの半分の企業が、錆びたベルトのようになってしまう。これは、マイクロチップの時代が終わることではなく、新たな時代が始まるということが大切である。AIや神経ネットワークが牽引し、コンピューターと脳のインターフェースが始まり、量子コンピューターが登場することになる」と切り出した。
講演のなかでは、Facebookのマーク・ザッカーバーグ会長兼CEOが、「AIやロボットの広がりによって、新たな雇用や新たなチャンスが生まれ、ビリオネラー(10億万ドル長者)が生まれる」と予言しているのに対して、Teslaのイーロン・マスクCEOは、「人間の存在そのものを脅かすものになる」と発言していることに触れ、「この予言は、どちらが正しいのか。私の個人的な見解では、短期的にはザッカーバーグが正しい。これまでにない新たな産業が生まれ、新たな雇用やチャンスが生まれ、経済を刺激することになる。ロボティクス産業は、自動車産業の規模を超えるのは明らかだ。それは、クルマそのものがロボット化するからである。自動車に話しかけたり、議論したりできる」としたものの、「だが、長期的にみて、ロボットは人類の存在を脅かすものになるだろう」とも述べた。
今のロボットはゴキブリ並みだが、今世紀末には危険な存在に
カク氏は、ロボットが人類を脅かす存在になる転換期として「それはロボットが自認識を持つ時である」と述べた。
「いまのロボットたちは、自分たちがロボットだとは認識していない。ロボットはマシンであり、考えたり、思考したりしているわけではなく、自認識がない。いま、最も進んだロボットであっても、知識レベルはゴキブリ程度である。ゴキブリをロボット化したぐらいのものである」としながらも、「しかし、時間が経つに連れて、ネズミぐらいの頭脳や、うさぎレベルの頭脳を持つようになるだろう。そして、次には、猫や犬ぐらいになり、さらには、猿と同じぐらいの知性を持つようになるはずだ」とする。
犬や猿の知能まで来ると、ロボットの存在について、話の次元が違ってくるという。
「犬と猿には自意識がある。犬はまだ混乱しており、人間のことも犬の仲間だと勘違いしており、ご主人を一番偉い犬だと思っている。それに対して、猿は、自分たちは人間でないということがわかっている」とし、「もし、ロボットが猿のようなレベルで自意識を持つようになったら、脳にチップを入れて悪い考えを持ち出すロボットがいた場合には、すぐにシャットダウンしなくてはならない」とする。
そして、「それが訪れるのは、今世紀末になる。今世紀の終わりぐらいになると、ロボットは危険な存在になるかもしれない。人類にとって、まだまだ準備の時間がたくさんあることは幸いだ」とした。
一方で、「元MIT研究所の所長によると、ガレージから知的レベルを持ったロボットを作り上げるのは、ハリケーンの瓦礫からボーイング747を作り上げるよりも確率が低い」というジョークも付け加えてみせた。
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