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量子コンピューターはAIにも有効、IBM副社長が実験結果を披露

2018年03月29日 15時31分更新

文● Martin Giles

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特定のタスクで従来の最高性能のスーパーコンピューターを凌ぐ性能を発揮することが期待されている量子コンピューターは、人工知能(AI)の領域でも有効な可能性がある。IBMでAIと量子コンピューターを統括するダリオ・ジル副社長は、同社での実験結果に言及しつつそう語った。

3月27日にサンフランシスコで開催されたMITテクノロジーレビュー主催の年次カンファレンス「EmTechデジタル」に登壇したIBMのダリオ・ジル副社長(人工知能・量子コンピューター担当)は、量子物理学の難解な現象を活用した量子コンピューターが、テック業界の最も白熱した領域の1つである人工知能(AI)に大きな影響を与えるかもしれないと語った。

情報を 1か0のどちらかのビットで記憶する古典的コンピューターと異なり、 量子コンピューターはキュービット(量子ビット)を使用する。キュービットは、同時に1と0の多重状態で存在できる。これは「重ね合わせ」として知られる現象だ。キュービットはまた、物理的に接続されていない場合でも、「量子もつれ」として知られるプロセスを介して互いに影響を及ぼすことができる。

こうした奇妙な特質のおかげで、量子機械にキュービットを追加すると、その量子機械のコンピューティング能力が指数関数的に増加する(キュービット・カウンターはこちら)。しかし、克服すべき困難な課題はまだ残っている。たとえば 、 キュービットの繊細な量子状態は、軽く触れても破裂してしまう泡のように、ほんのわずかな振動や気温の変化によって失われてしまう。これが計算の際のエラーの原因となる。だが、研究者はエラーを徐々に減らせるようになってきている。やがては量子コンピューターが、特定のタスクにおいて、最高性能のスーパーコンピューターさえも打ち負かすことになるだろうという期待もある(「量子コンピューター覇権争い グーグルは量子超越性を実証できるのか?」を参照)。

機械学習は、量子コンピューターの発展により、恩恵を受けるかもしれない。IBMのAI研究に関する取り組みと商用量子コンピューティング計画を統括するジル副社長は講演で、簡単な分類実験の結果を披露した。機械学習を使用してデータを類似のグループ(この実験では類似色のドット)に整理するというものだった。IBMの研究チームが、キュービットをもつれさせずに量子機械上でタスクを実行したところ、エラー率は5%だった。キュービットをもつれさせて同じ実験をもう一度実行したら、エラー率は2.5%となった。

実験が示唆するのは、量子コンピューターでキュービットの利用とキュービットをもつれさせることがもっと上手くできるようになれば、機械学習の問題にも上手く取り組めるだろうということだ。カリフォルニア州に拠点を置くスタートアップ企業、リゲッティ(Rigetti)のように量子機械を開発している他の企業は、AIにおける量子機械のテクノロジーの可能性を強調している(「米スタートアップ、量子コンピューターで機械学習の実行に成功」を参照)。

ジル副社長は、彼が「量子AI ネットワーク」と呼んでいるものは、 強力な従来型のコンピューター上で現在動作しているニューラル・ネットワークにかなわないと忠告する。しかし、さらに先を見越せば、量子機械はAIにおけるある種の困難な課題では優位に立てるかもしれない。「AIのコミュニティにとって、量子機械とAIの未来を探究し始めるのに本当に良い時期です」とジル副社長は語った。


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