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燃えるゴミをエタノールに変える、積水化学の新技術に熱視線

2018年03月26日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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2019年内の本格稼働を目指す、積水化学の「ごみをエタノール化する技術」を投入したパイロット・プラント。現在は実証を繰り返す段階で、約1000分の1の設備規模で動かす。地方自治体の担当者は、このサイズで導入を検討する Photo by Hitoshi Iketomi

 燃えるごみなら何でも化学製品の主原料の1つであるエタノールに変えられる――。昨年12月上旬、世界で初めて積水化学工業が発表した「ごみをエタノール化する技術」に熱い視線が集まっている。この勢いは、しばらく衰えそうにない。

 それから3ヵ月、EU(欧州連合)の環境規制が厳しい欧州諸国からの問い合わせが増えている。そればかりか、国内でも既に20の地方自治体がパイロット・プラント第1号を設置したオリックス資源循環の寄居工場(埼玉県大里郡)まで、遠路はるばる見学に訪れた。

 端的に言うと、積水化学が開発したごみ処理のシステムは、2つの設備を使って環境負荷を減らす。

 まず、日本で普及が進む「ガス化溶融炉」(焼却設備)で、燃えるごみを分別することなく、2000度の高温で丸ごと溶かすことでガスに変える。ごみを燃やす段階までは、地方自治体の管轄となる。

 次に、民間の企業が長期契約で運営を請け負う付帯設備の「エタノール生産プラント」は、ガスを食べる微生物の活動をコントロールしながら、基礎化学品のエタノールを効率的に取り出す。将来的には、ブタジエンなどの稀少留分の生産なども視野に入れる。

 この技術自体は、米国のバイオベンチャー企業が開発したものだが、プラント設計・運営に関わる技術特許などのマスター・プランは積水化学が押さえており、両社はがっちり組んで活動してきた。

再エネ売電ブーム終焉に商機

今回、第1号のパイロット・プラントの設置場所となったオリックス資源循環は、2002年後半から埼玉県と彩の国資源循環工場などのPFI事業(民間主導による公共サービス)で、産業廃棄物や一般廃棄物のリサイクルを模索してきた 写真提供:オリックス資源循環 寄居工場

 今日、日本全国には新旧のごみ焼却設備が約1200カ所ある。

 近年の地方自治体では、ごみを燃やすばかりでなく、新たに発電設備などを併設することで、地域の電力会社に余剰電力を固定価格で買い取ってもらうことがブームになっていた。財政難に悩む地方自治体にとって、新たな安定した収入源として期待されたからだ。

 ところが、2009年に太陽光発電で生じた余剰電力の買い取りから始まった日本の固定価格買い取り制度(FIT)は、再生可能エネルギーの普及・促進には一定の成果があったものの、法整備がスムーズに進まず、買い取り価格の条件が悪くなった。今では、地方自治体の関係者の間で「FITは、未来永劫に続くわけではない」という認識が高まっている。要は、おいしい話ではなくなってきているのだ。

 もとより環境問題に力を入れてきた積水化学は、こうした潮目の変化に乗じて、世界最先端のエタノール生産プラントを市場に投入する。狙っているのは、既にある発電設備の置き換え(リプレイス)需要である。通常、30~40年というスパンで考える設備更新の際に、最有力の候補になることだ。

 現在は、地方自治体の関係者に向けた“お披露目”の段階にすぎないが、同社でこのプロジェクトを率いる岩佐航一郎氏は「19年内の本格稼働を目指す。30年代前半には、売り上げ規模で1000億円を実現したい」と力を込める。

 この数字は、少し遠慮しているように思われる。実は、このプロジェクトが動き出してからの積水化学では経営幹部が「石油や天然ガスに頼らない新システムで、50年後に世界を変える」と口にするようになっているからだ。社内でも期待感から盛り上がりが続く。

化石燃料に頼らずリサイクル

 現在、積水化学では、ビジネスを広げるために、(1)エンジニアリング会社と協業して完成させたプラントを納入する、(2)設備で生産した割安のエタノールなどの販路開拓でも協力する、(3)海外企業にエタノールの生産システムを有償でライセンスする、などの展開を検討している。

 かねて大手化学メーカーの一角を成す積水化学は、「上流部門」のエチレン・センター(ナフサ分解装置)を自前で持っておらず、「中~下流部門」に軸足を置いてきた。全ての石油化学製品の母体となる――今や市況に振り回される最大の要因でもある――エチレン生産を自ら手掛けていない積水化学は大手メーカーに対して“引け目”にも似た感情を抱き続けていた。

 ところが、今回のエタノール・プロジェクトは、有限である化石燃料の枯渇が叫ばれる中で、既存のエチレン・センターとは異なる “もう一つのやり方”で上流部門に手を伸ばす。積水化学が開発したのは化石燃料に頼らない循環型のリサイクル・システムなのだ。

 現時点で、積水化学が満を持して世の中に打ち出すエタノール・プロジェクトは、環境対策面で難癖を付けられる要素がない。さらに、他の化学メーカーは扱えない唯一無二のシステムでもあることから、50年後の世の中を見据えてどこまで健闘するのか見物である。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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