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仮想通貨業者に一斉処分、「新産業の旗手」のお粗末すぎる実態

2018年03月14日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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コインチェックの和田晃一良社長(左)と大塚雄介最高執行責任者 Photo by Takahisa Suzuki

「2018年3月8日」は仮想通貨業界の歴史の中で、重大な転換点の一つとして記されるだろう。監督官庁の金融庁が仮想通貨交換業者7社を一斉に行政処分。そのうち2社には業務停止命令を下した。そこで明らかになったのは、新産業の旗手として期待された企業たちのあまりにお粗末な実態だった。(週刊ダイヤモンド編集部 鈴木崇久)

仮想通貨の業界全体に不信感
監督官庁の金融庁が動き出す

 顧客資産の私的流用、不正取引の看過、システム障害の頻発、顧客への情報開示における不適切な状況――。

 これまで謎に包まれてきた仮想通貨交換業者のビジネスの実態が明るみに出た。それは、想像以上にお粗末な世界が広がる“パンドラの箱”が開いた瞬間だった。

 仮想通貨の販売や売買の仲介をなりわいとする仮想通貨交換業者は、日本の新たな成長産業の有望株として期待されてきた仮想通貨業界の旗手だった。

 ただ、彼らは財務諸表や経営管理体制などの情報開示がほとんどない、まったく新しい産業のベンチャー企業たち。そのため、利用者としては大事な自分の資産をどの交換業者に預けるべきかを考える際に、参考になる情報が限られてきた。

 ところが、交換業者の中で急激な台頭をみせていたコインチェックにおいて、当時の交換レートで約580億円相当もの仮想通貨「NEM(ネム)」が不正に流出する事件が発生。この一件を受けて仮想通貨の業界全体に不信感が募り、利用者の間にも不安が広がった結果、監督官庁である金融庁が動き出した。

 金融庁は仮想通貨交換業者に登録制を導入しており、その審査において、交換業者が自身と顧客の資産を分別管理できているかどうかや、反社会的勢力やテロ資金への資金流出に対する防止態勢の整備状況といった項目をチェックしてきた。

 そして、登録申請はしているものの審査をまだ合格できていない「みなし業者」全社に対して、立ち入り検査を実施すると表明。また、審査をパスした「登録済み」の交換業者の一部にも立ち入り検査に入った。

 3月8日、その時点で実施できた検査の結果を受けて、金融庁は仮想通貨交換業者7社に対して一斉に行政処分を発表。その中には、登録交換業者であるテックビューロとGMOコインの2社も含まれていた。さらに、みなし業者のFSHOとビットステーションの2社に対しては、1ヵ月間の業務停止命令という、より重い処分が下された。

 FSHOは、複数回にわたる高額な仮想通貨の売買において、登録業者に義務付けられている取引時確認などを行っておらず、犯罪資金への流出防止態勢に失格の烙印を押された。

 もう1社のビットステーションに至ってはさらにお粗末。同社の100%株主である経営企画部長が、利用者から預かった仮想通貨のビットコインを私的流用していたことが、金融庁の立ち入り検査によって判明したのだ。金融庁は同社に対して刑事告発の指示をしたという(処分発表時点でビットステーションは刑事告発をしていない)。

 これまで、利用者が仮想通貨交換所を選ぶ際の安心・安全に関する有力な判断材料は、金融庁の登録済みか否か以外にないといっていい状況だった。ところが、金融庁がお墨付きを出したはずの登録交換業者でも安心できず、みなし業者に至っては目も当てられない惨状が広がっていることが明るみに出たというわけだ。

創業6年目にして460億円を払える
カラクリが明らかに

 同じ3月8日、この日の「本当の主役」がしばしの沈黙を破って表舞台に登場した。金融庁が腰を上げるきっかけをつくったコインチェックが記者会見に臨んだのだ。

 この日、1月末に続いて金融庁から二度目の業務改善命令を受けたコインチェックは、NEMの不正流出事件に関する調査結果を報告。これまで時期を未定としていた被害者に対する補償についても今週中を目処に実施するとした(実際に3月12日に補償の実施を発表)。

 さらに、サービス再開と今後の事業継続への意志をあらためて表明。それに向けたセキュリティー対策などの取り組みを発表した。

 会見時の焦点は大きく二つ。

 一つは、コインチェックの利用者保護に対する姿勢だ。3月の行政処分の中で同社は、昨秋以降の急激な業容拡大に対して、内部管理態勢が追い付いていなかったと指摘を受けた。さらに、「取締役会において顧客保護とリスク管理を経営上の最重要課題と位置付けておらず、経営陣の顧客保護の認識が不十分なまま、業容拡大を優先させた」と断罪されている。

 もう一点は、コインチェックのビジネスモデルについてだ。問題発生当初から、創業6年目のベンチャー企業が補償額として表明した約460億円もの巨額資金を本当に払えるのかという疑念が付いて回っていたが、その支払い原資が確かにあることは金融庁も確認したという。そのカラクリはコインチェックの脅威の収益力だ。

 コインチェックのビジネスモデルは2本柱で成り立っている。

 一つは、利用者同士が売買する場を提供する「取引所」事業。こちらは取引量の約8割を占めるが、手数料は取っていないという。

 もう一つは、コインチェックが自ら仮想通貨を仕入れ、利用者に売るという「販売所」事業だ。そして、この残り約2割の取引量を占める事業で得てきた利ざや(スプレッド)こそが、ベンチャー企業にして巨額資金の蓄積を可能にした“魔法の杖”だったのだ。

 利用者の取引ニーズをつかみ、超高収益な事業をスピーディーに立ち上げたコインチェック経営陣のビジネスセンスは確かだったかもしれない。ただ、そのビジネスは利用者保護との“二人三脚”が必須であることを見落とした点は決定的な過ちを犯したと言わざるを得ないだろう。

 金融庁はこれまで、仮想通貨を含むフィンテック(金融とテクノロジーの融合)に関して、利用者保護と産業育成のバランスを取りながら行政方針を考える必要があると指摘していた。そして、コインチェック事件を受けても「一方的に規制強化をする方針に転換したわけではない」(金融庁)と語っている。

 しかし、過度な“振れ幅”は避けるべきだが、利用者保護の観点から現実にここまで問題が起きている以上、「バランス」の再検討は必要だろう。実際に一連の問題噴出を受けて、仮想通貨交換業者の登録審査は厳格化。それを受けて、今回業務停止命令を受けたビットステーションと、ビットエクスプレス、来夢のみなし業者3社は、登録申請を取り下げることを金融庁に申し出たという。

 仮想通貨業界を襲った「3.8ショック」。しかし、それは業界“浄化”の号砲に過ぎない。本当に価値ある新たな産業を「創造」するためには避けて通れない「破壊」が、これから本格化していくはずだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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