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国家資格なのに稼げない!脱落者続出「管理栄養士」の受難

2018年03月14日 06時00分更新

文● 岡田光雄(ダイヤモンド・オンライン

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近年、健康志向の高まりや食育ブームなどもあって、注目されている「管理栄養士」。その職業に対する世間一般的なイメージとしては、「専門性が高いので給料が良さそう」「国家資格なので就職先はいくらでもありそう」といったポジティブなものだろう。今回紹介する3人の女性も、そんな未来に憧れて業界入りしたのだが、あまりの現実に愕然としたという。(清談社 岡田光雄)

そもそも栄養士と
管理栄養士の違いって何?

イマイチ認知度が低いため、職場で不当な扱いをされることが少なくない管理栄養士たち。国家資格なのに…というぼやきが聞こえてきそうです

 まずは栄養士と管理栄養士の違いについてご存じだろうか。

 端的に説明すると、栄養士は民間資格の一種で、主に健康な人を対象に栄養指導・給食管理を行う職業。一方の管理栄養士は国家資格で、傷病者など個々の症状や体質を考慮しながら同行為を行う職業だ。病院や介護施設などは栄養士がどれだけ在籍していようが、必ず一定数の管理栄養士を雇わなければならない。

 管理栄養士になるためには、2つのルートがある。1つ目はやや遠回りだが、栄養士養成施設(専門学校や短大)に入学して栄養士資格を取得。卒業後1~3年以上の実務経験を経れば管理栄養士国家試験受験資格を得られるので、ここから試験に合格するという方法。

 2つ目は最短ルートで、管理栄養士養成施設(4年制の専門学校か4年制大学)に入学すれば、栄養士資格と管理栄養士国家試験受験資格(実務経験免除)の両方を得られるので、試験に合格すれば晴れて管理栄養士になることができる。

 厚生労働省の統計によれば、管理栄養士免許交付数は累計で約20万人(2015年12月時点)となっており、毎年新たに約1万人ずつ増えている状況だ。

 後述の3人の女性は、某有名私大(管理栄養士養成施設)に現役で合格して管理栄養士国家試験にも一発合格を果たし、業界内ではある意味、エリート街道を歩んできたキャリアの持ち主である。

人気の食品メーカーに就職するも
18時間労働で心身疲弊

 白石玲子さん(仮名、30歳)は大学卒業後、冷凍食品メーカーの営業職に従事。販売店や福祉施設への食品営業、商品開発、展示会企画などが主な仕事内容だった。

 管理栄養士といえば病院や介護施設などで働く印象が強いかもしれないが、活躍の場はそれ以外にも、食品メーカー、飲食店、保育園、社員食堂と多岐にわたる。

「実は食品メーカーって、管理栄養士業界の中だとかなり人気職種なんですよ。私が就職したのは、年商30億円ぐらいの中小企業だったんですけど、私1人で6億円は稼いでいたので、月収は額面30万円ほどもらえていました。周りの同級生と比べてもかなりいい待遇でしたが、労働時間は常軌を逸していましたね」(玲子さん)

 玲子さんが所属していた営業チームは全部で7人。その少人数で日本全国を回っており、彼女の担当エリアは北海道、東北、中部とかなり広域だった。

「月の半分以上は車で出張でした。しかも食品業界って朝がめちゃめちゃ早いんですよ。20時ぐらいに出張から帰ってきて22時に寝て、深夜2時に起きて食品サンプルを作り、朝6時にお客さんのところに届けるなんてこともよくありました。そんな生活を7年間続けましたが、ある時さすがに無理だって思って、彼氏に結婚をせがんで寿退社しました」(玲子さん)

 厚労相が定める過労死ラインは1日12時間となっているが、18時間働き続けるとは正気の沙汰ではない。

 現在、玲子さんは、派遣社員として商社で事務の仕事をしており、月収は額面20万円に下がったが、しっかり定時には帰れているという。

子どもの食育よりも
洗脳タイムを優先する保育園

 松本カンナさん(仮名、26歳)は、新卒として地元ではサービスに定評のあった“優良”保育園に就職。しかし、月収は額面20万円にすら届かず、管理栄養士手当は5000円。ボーナスは雀の涙ほどだった。

 同園は管理栄養士のカンナさんと、栄養士の2人体制で子どもの栄養管理に務めていたが、職場の人手不足は深刻で、衛生管理も劣悪だったという。

「本来、管理栄養士は厨房の中には入らず、栄養士さんや調理師さんを管理するのが仕事です。とはいえ、そんなことをいちいち守っている企業は少なく、普通に私も料理を作っていましたね。しかも園の方針で保育士さんまで厨房に入って手伝わされてたんです。さすがにそれはありえないと思いましたね。法律的にも、厨房に入る人間は検便検査までして衛生管理を徹底しないといけないのに、その園はそういう意識がまるでなかったんです」(カンナさん)

 近年、保育士業界がブラック化していることが度々報じられているが、そこで働く管理栄養士も、もれなく理不尽を強いられているようだ。

「ご飯やおやつを作るのにてんやわんやで、発注業務や献立表作成などデスクワークをする暇がほとんどなかったですね。就業中に終わらなかった仕事は、自宅に持ち帰って毎日サービス残業してましたよ。しかも親御さんが迎えにきて園児が全員帰宅しないと、職員は誰一人帰れないという暗黙のルールもありました。運動会やひな祭りのシーズンには、業務後に食とは一切関係のない飾り付けなんかも手伝わされましたし、土曜には園の理念を職員で勉強し合う“洗脳タイム”を受けさせられるのも当たり前でしたね」(カンナさん)

 心身が疲弊しつつも、子どもの健康・食育のために何とか仕事を続けようとした彼女だったが、やはりブラックな職場をブラックたらしめるのは、そこで一緒に働く人間に他ならない。

「当時の保育士の主任は50代の女性でしたが、長年主婦をやっているからか、私が作る料理に対してはよくケチをつけてきましたね。『あんまり美味しくないわね~これ』『見た目が茶色いわね~』みたいな。しまいには『管理栄養士なのに牡蠣に当たったの?』とか嫌味まで言われて、“うるせえよ、どこの姑だよ!”って感じでしたね。結局、勤続2年目で早期退職しました」(カンナさん)

 現在、カンナさんは派遣社員として大手建設会社の事務(月収25万円)の仕事をしている。

国家資格の管理栄養士は
市民権を得られていない

 なぜ国家資格保持者である管理栄養士が、これほどまでに不遇な扱いを受けるのだろうか。その理由の一つとして、満床150人規模の介護老人保健施設で働く現役の管理栄養士・神崎愛子さん(仮名、38歳)はこう説明する。

「世間一般的に栄養士と管理栄養士の違いが知られていないのと同じように、雇用主である企業も管理栄養士が何をする人なのかをよく知らず、料理や、関係のない事務作業をさせてしまう傾向にあります。それに、厨房の中では調理師や料理人の方が強く、彼らにしてみれば『管理栄養士の連中は料理もしないくせに、頭でっかちに栄養の計算ばかり言いやがって!』と取り合ってくれないケースも多いのです」(愛子さん)

 さらに愛子さんの職場では、介護施設ならではのほころびも出始めているという。

「年々、介護保険料が値上がりして施設を利用する高齢者の自己負担額も増えている中で、もし施設の食事の質を落としたりしたらクレームや退去者が続出してしまいます。そうならないために、施設側は栄養部の人件費を極力抑え、かつ料理のクオリティは上げようとします。それで、私たちの労働環境はどんどん劣悪になっていくんです」(愛子さん)

 勤続年数15年の愛子さんでさえ月給は額面20万円には届かず、管理栄養士手当は5000円で、ボーナスもわずか。こういった労働状況に耐えかね、せっかく苦労して国家資格を取って働き始めたものの、業界から逃げ出す人が後を絶たないのだ。

「管理栄養士として、定年まで働くというのは今では珍しい話なのかもしれません。それに一度退職してしまうと、なかなか戻るのが難しい業界でもありますからね。というのも、ひとえに管理栄養士といっても病院や施設、保育園、メーカーなど業種がバラバラすぎて、潰しが利かず門戸が狭いという現実があります。また国の安全基準や指針も頻繁に変わるので、常に現場に近いところで勉強を続けていないと、すぐに知識的に付いていけなくなるんです」(愛子さん)

 最後に“将来、自分の子どもが管理栄養士を目指すと言ってきたらどうするか”と尋ねてみたところ、どういう偶然か3人とも「どうせ栄養学を学ぶなら薬剤師を勧める」と同じ答えだった。どうやら最も心身の健康管理を必要としているのは、管理栄養士自身なのかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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