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2018年のストレージ事業戦略説明会、クラウド連携や投資価値の永続化などのキーワード

HPEが「InfoSight」を核とした「自律型DC」ビジョンを説明

2018年03月09日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 日本ヒューレット・パッカード(HPE)は2018年3月7日、記者/アナリスト向けに2018年のストレージ事業戦略説明会を開催した。米国本社からストレージ製品責任者や「HPE InfoSight」担当幹部らも出席し、クラウドストレージサービスとの連携や全ハードウェア製品へのInfoSight適用など、今後の方針を紹介した。

HPEのストレージ製品ポートフォリオとそれぞれの位置付け

HPEストレージ部門 製品管理&マーケティング担当ディレクターのヴィッシュ・ムルチャンド(Vish Mulchand)氏

HPE Nimble Storage 分析&カスタマーサポート担当バイスプレジデントのロッド・バグ(Rod Bagg)氏

HPE データセンター・ハイブリッドクラウド CTO アジアパシフィック部門の高野勝氏

新CEOのネリ氏にバトンタッチ、スリム化から“筋肉質”化への前進

 説明会ではまず、HPE データセンター・ハイブリッドクラウド CTO アジアパシフィック部門の高野勝氏が、HPE全体の近況やストレージ事業における新しい動きを紹介した。

 米HPEでは2018年2月1日付で、2012年からCEOを務めてきたメグ・ホイットマン氏が退任し、これまで同社社長を務めてきたアントニオ・ネリ氏が新CEOに就任した。PC/プリンティング事業をHP Inc.として、またITサービス事業をDXC Technologyとして分社するなど、ホイットマン氏が進めてきた5カ年計画が完了し、スリム化から筋肉質化のフェーズへと歩を進める。「(ネリ氏は)生え抜きのエンジニアであり、ハードウェアのスペシャリスト」(高野氏)。

 スリム化の一方で、HPEではこの数年間、ユニークな製品/技術を持つ企業の買収も行ってきた。HPCベンダーのSGI(2016年8月)、クラウドのコスト管理や自社内システムの従量課金化(HPEフレキシブルキャパシティ)を実現するCloud Cruiser(2017年1月)、高速ストレージ技術を備えたHCIのSimpliVity(2017年1月)、そしてビッグデータ分析/機械学習に基づく障害予測やキャパシティプランニングの能力を提供するInfoSightが特徴のNimble Storage(2017年3月)などだ。いずれもHPEがより“筋肉質”になるための買収であり、ポートフォリオへの組み込みや適用領域の拡大が進められている。

 もうひとつの新たな動きとして、HPEが提唱する「ハイブリッドIT」ビジョンに基づき、オンプレミス/プライベートクラウド/パブリッククラウド間の連携と統合を円滑にするためのツール群をSaaSで提供し始めていることも紹介された。「HPE 3PAR」ストレージにも対応を拡大したInfoSightもそのひとつだが、ほかにもAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureから参照可能な単一のストレージ領域を提供する「HPE Cloud Volumes」、マルチクラウド/オンプレミスをまたいだプロビジョニング/マイグレーション/課金管理などを行う「HPE OneSphere」などをリリースしている(InfoSight以外は日本市場で未展開)。

データを1カ所に保持しつつマルチクラウドのワークロードに対応する「HPE Cloud Volumes」

マルチクラウド/オンプレミス環境の管理を統合する「HPE OneSphere」

「予測可能性/クラウド対応/投資価値の永続性」の3点に注力

 続いて登壇したHPEストレージ部門 製品管理&マーケティング担当ディレクターのヴィッシュ・ムルチャンド氏は、HPEのストレージ事業における戦略を説明した。

 ムルチャンド氏は、HPEでは現在「3つのキーエリア」、具体的には「Predictive(予測可能性)」「Cloud Ready」「Timeless(永続性)」にフォーカスしていると語る。パフォーマンス変化や障害発生、必要なキャパシティなどを事前に予測できること、マルチクラウド環境とオンプレミスとの双方向で柔軟な利用が可能なこと、そしてストレージ投資の価値が将来的にも無駄にならないこと、という3つの目標だ。

HPEがフォーカスする「3つのキーエリア」

 そして、「Predictive」に対してはInfoSight、「Cloud Ready」にはCloud Volumesや「Cloud Bank Storage」、「Timeless」にはオンプレミス/従量課金モデルである「GreenLake」といったサービス展開が始まっている。

 このうちCloud Bank Storageは、バックアップ製品「StoreOnce」のバックエンドストレージとして、パブリッククラウドのオブジェクトストレージ(またはをオンプレミス配置したオブジェクトストレージ)を利用するもの。あらかじめローカルで重複排除/圧縮処理したデータを転送/保存するため、DR対策を低コストで実現するという。

「Cloud Bank Storage」の概要。StoreOnceを介してクラウドバックアップを実現する

 ストレージハードウェアのポートフォリオについては、手頃なコストで導入できる「HPE MSA」から、シンプルでブランチオフィスなどでの設置に向くNimble、柔軟で全社統合ストレージ基盤などに向く3PAR、ミッションクリティカル向けハイエンドの「HPE XP7」まで、顧客の幅広いニーズに対応できるようラインアップしている。なお、Nimbleと3PARについてはターゲット顧客もニーズも異なるため、今後も両製品ラインを維持する方針であり、将来的にも統合は考えていないと述べた。

 なお、前述した3つのキーエリアに加えて、新たに「Cloud and Unstructured Data(クラウド/非構造化データ)」という領域への対応ニーズも高まっている。ムルチャンド氏は、この領域での爆発的なデータ増大に対応するために、コールドデータの保存はスケールアウト型オブジェクトストレージに統合されつつあると説明。ソフトウェアパートナー(HortonworksやCloudera、MapR、Scalityなど)との協業によるスケールアウト型ストレージ(SDS:Software-Defined Storage)ソリューションを提供していることを紹介した。

InfoSightの適用拡大で「自律型データセンター」を目指す

 HPE Nimble Storage 分析&カスタマーサポート担当バイスプレジデントのロッド・バグ氏は、HPEが将来像として考える、あらゆるデータセンターコンポーネントへのInfoSight適用について説明した。

 HPEでは「自律型データセンター」こそがデータセンターの将来像だと捉えている。管理者が手を煩わせることなく、データセンターを構成するあらゆるITコンポーネント(サーバー/ストレージ/ネットワーク/コンバージドインフラ)が、自己管理/自己治癒/自己最適化を行う、というものだ。

自己管理/自己治癒/自己最適化を実現する「自律型データセンター」ビジョン

 そのための重要な基盤として位置づけられているのが、もともとNimble Storageが開発してきたInfoSightである。クラウドサービスとして提供されるInfoSightは、データセンターに設置されたITコンポーネントから、稼働状況などにまつわる大量のデータを継続的に取得する。世界中の顧客データセンター/コンポーネントから収集されたビッグデータを分析し、そこに機械学習/AI技術を適用することで、故障や障害の発生をプロアクティブに検知し、IT担当者に具体的な対策を提案する。

自律型データセンターを実現するための中核となるのが、適用範囲を拡大したInfoSightだ

 バグ氏は、InfoSightは顧客に対し「問題の事前予知」「グローバルな情報共有に基づく高可用性」「高レベルなサポート」という3つの価値を提供すると説明した。Nimble Storageの場合、障害や問題の86%を“発生前に”検知できている。また数百万台レベルの実稼働データを分析することで、99.9999%の可用性を実現できている。またサポートベンダー側でも詳細な稼働データを参照できるため、障害発生時の原因追及なども迅速に行われ、それがNPSスコア「85」という高い顧客満足度にもつながっているという。

 さらに、グローバルなテレメトリデータの収集(情報共有)を通じて、ある顧客で一度起きた障害はほかの顧客では二度と起きないよう予防する「See Once, Prevent for All」を目指しているとも述べた。

 「たとえば、ある顧客でデータを破壊する重大障害が発生したケースでは、データサイエンティストによる根本原因の分析の結果、コード中にメモリリークのバグが見つかった。複雑な要因が重なることで発症するバグであり、それに該当する顧客がほかにいないか調べたところ、47社で同じ障害が発生しうると予測された。そのうち40社はパッチ適用によって未然に障害発生を防いだ。残り7社は間に合わなかったが、障害が発生したタイミングはInfoSightが予測したとおりだった」(バグ氏)

 現在のInfoSightは、このように障害や問題の発生を予測し、管理者に対応を「提案」するステップまでとなっているが、将来的にはその対応もAIエンジンにより大幅に自動化され、データセンターの「自己治癒」や「自己最適化」へと発展していく見込みだ。

 前述のとおり、対応コンポーネントもストレージ(Nimble、3PAR)だけでなく、サーバーやネットワークにも拡大していく。ムルチャンド氏によると、すでにSimpliVityからはテレメトリデータの収集が可能になっているほか、ProLiantなどの既存サーバー製品についても、比較的新しい世代の製品ならばファームウェアアップデートによって対応可能だという。

 「サーバー製品の多くも、すでに(内部的に)データ収集はできているが、まだInfoSightへのデータ送信は始めていない。テレメトリデータを送信する価値が理解いただければ、より多くの顧客に同意いただけるはずだ。Nimble Storageでは91%の顧客がデータを送信している」(ムルチャンド氏)

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