このページの本文へ

LPI-Japanが「LinuC」開発に込めた思い

日本のIT技術者のために作った、新Linux技術者認定試験「LinuC」の開発理念

2018年03月09日 08時00分更新

文● 羽野三千世/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 オープンテクノロジーの技術者認定機関である特定非営利法人エルピーアイジャパン(LPI-Japan)は、新しいLinux技術者認定試験「LinuC(リナック)」を2018年2月に発表した。3月1日から受験が可能になっている。

 LinuCは、LPI-Japanが2000年から18年にわたり提供してきた「LPIC」に加わる認定試験として、日本のLinux技術者のために作られた。LPI-Japan 理事長の成井弦氏、副理事長の鈴木敦夫氏、理事の中野正彦氏に、LinuCの開発理念を聞いた(聞き手は、アスキー羽野三千世)。

将来は、AIやIoTなど先端テクノロジー活用を踏まえたOSレイヤーの知識を問う

-- 新しいLinux技術者認定試験「LinuC」はどのような試験でしょうか。

鈴木氏:LinuCは、日本のマーケットが求めるLinux技術者を育成するために、日本市場向けに試験問題を最適化した“高品質”な認定試験です。

 今国内では、AIやIoTといった新しいテクノロジーの産業利用が始まっていますが、これらのイノベーションの多くはOSSが支えており、ほとんどのOSSはLinux上で動いています。LinuCでは、将来的に、これらの新たな技術やその使われ方を踏まえた、OSレイヤーに関する知識を問う試験問題なども出題範囲にいち早く取り込んでいこうと考えています。

 また、国によってよく使われるLinuxディストリビューションは異なります。LinuCはLinuxディストリビューションに依存しない試験ですが、例えば、新しいコマンドがどのタイミングで実装されるのかはディストリビューションごとにサイクルが違っていたりするわけです。LinuCは、これらのことを踏まえ実際に日本で多く使われているコマンドや最新のLinux技術について出題します。

LPI-Japan 副理事長の鈴木敦夫氏

中野氏:“高品質”な認定試験とは、試験問題文がわかりやすい、解きやすい、試験内容が適正、試験による評価がわかりやすいといったことです。LinuCは、日本の技術者向けに最初から日本語で開発しているので、英語を翻訳した試験問題文よりも分かりやすくなっています。また、試験の合否だけでなく、自分の弱点を把握できるように試験項目(主題)ごとの理解度を「受験者マイページ」で確認できるようにしています。

-- 従来から提供していた「LPIC」と新しいLinuCはどう違うのでしょうか。

成井氏:LPICは、カナダのLPI Inc.が開発したグローバル認定試験で、試験問題はグローバルで共通です。そのため、日本で受験する人のニーズや日本企業が求める認定の信頼性に対応できていない部分があります。LinuCは、LPI-Japanが国内で試験開発から運用まで担う認定試験になります。

 ただし、受験者や企業の混乱を避けるため、LinuCではファーストリリースとして、LPICと同じ出題範囲で提供します。出題範囲は同じですが試験問題は異なります。フェーズ2として、日本市場向けにカスタマイズした出題を開始します。フェーズ1の受験は3月1日からスタートしました。1年後を目途に、フェーズ2へ移行する予定です。将来は外国語でのリリースも検討しています。

LPI-Japan 理事長の成井弦氏

なぜ今、新しいLinux技術者認定資格を作ったのか

鈴木氏:なぜ今、LPICに加えてLinuCを新たに作ったのか。それは、LPICだけではLPI-Japanの理念に基づく活動が継続できないと判断したからです。

 LPI-Japanは、オープンテクノロジーの認定資格の提供を通じて、日本の技術者を育成することを目的に活動している組織です。技術者の育成には、オープンテクノロジーが重要な役割を果たします。技術者は、オープンソースのコミュニティとつながり、コードを読み主体的にコミュニティ活動や開発貢献をする中でより深くコードの必要性や価値について考えることで成長します。それがひいては日本の経済力向上につながると考えます。

 ベンダーが提供するプロプライエタリなテクノロジーは、ベンダーが認定資格やトレーニングを用意し、技術者はその資格で自分のスキルを証明することで企業に受け入れられます。こうしてテクノロジーが市場に根づいていきます。一方、オープンテクノロジーは、ベンダーの存在がないためこのサイクルで市場に浸透しにくい側面がある。そこで、企業のプラチナスポンサーが母体となるLPI-Japanという組織が、オープンテクノロジーの認定試験を用意し、日本市場へテクノロジーを根づかせることに取り組んでいるわけです。これが我々の活動の理念です。

 この活動において最も重要になるのは、提供する認定資格が、企業の求める技術力を正しく証明するものだと企業に信用され、受け入れられることです。

LinuC認定資格ロゴ

成井氏:残念なことに、LPICは過去に海外で試験問題の漏えい事故が起きてしまいました。今後も、世界のどこかで誰かが試験問題を暗記してネットで販売するといった事態が起こり得ます。そのような事が起きれば、企業から認定資格者への信頼が失墜してしまう。オープンテクノロジーを日本市場に根づかせて技術者を育成していくというLPI-Japanの理念に基づいた活動ができなくなってしまいます。

 そのような背景から、今回、国内で試験開発と運営の全てをLPI-Japanが管理をするLinuCをリリースしました。LinuCは、受験者一人ひとりに異なった試験問題が出る仕様になっており、基本的に試験問題の漏えい事故が起こらない運用をしています。

 LPICの試験内容自体は優れたものだと考えています。LPI-Japanは、2000年から18年にわたって、LPICの試験開発をリードしてきました。今後もLPICの国内提供は継続します。それとは別に、今、日本独自のニーズを取り入れて、さらに日本の受験者や企業の期待に応えるLinux技術者認定試験が必要なのです。

-- 今後国内では、LinuCがLinux技術者認定試験の第1選択肢になるのでしょうか。

成井氏:はい、そうです。Linuxの勉強をしている国内の技術者には、早い段階でLinuCをメインの試験にしていただく方がメリットがあります。また、社内技術者育成のために従来LPICを利用している国内企業にも、LinuCへ切り替えてもらうよう働きかけていきます。

LPI-Japan 理事の中野正彦氏

中野氏:既存のLPIC認定者がLinuCの認定者としても認定される優待プログラムも用意しています。2018年8月31日までに限り、資格取得から5年以内のLPIC認定者は、LinuCの「受験者マイページ」のログイン時に同意するだけでLinuC認定を取得することができます。すでに5000人以上のLPIC認定者がLinuCの認定者としても認定されました。また、資格取得から5年を過ぎてしまった「有意ではない」LPIC認定者は、8月31日まで受験料が50%オフになります。

LinuC認定証、LinuC認定カード、LinuC認定者専用のロゴ

 LPICでは資格認定の証明書は紙のみでしたが、LinuCは紙の認定証に加えて、PDFの認定証も発行します。転職などで早急に企業人事に証明書を提出する必要がある場合などはPDFが便利です。また、名刺にLinuC認定者専用のロゴを入れることも可能になります。

■関連サイト

  • LinuC
  • (取材協力:特定非営利活動法人エルピーアイジャパン)

カテゴリートップへ