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小池都知事の憂鬱、豊洲の地下水位は追加工事でも下がらない!?

2018年02月21日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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小池都知事は2月13日、豊洲にブロガー20名らを招いたイベントに出席、新市場のPRに余念がないが――
写真:つのだよしお/アフロ

築地市場の豊洲移転もままならず、東京オリンピックに向けた計画も頓挫して、小池百合子東京都知事もここで万事休す、となるのだろうか――。追加対策工事が完了しても、地下水位を現状から大きく下げられず、“安全宣言”すらできない可能性が、都の公表資料から明らかになった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)

 10月に築地市場から中央卸売市場の機能が移される予定の、東京都江東区の豊洲市場。小池百合子東京都知事は2月に入って、著名ブロガーを豊洲に招いたイベントや、業界団体からの意見聴取を開催するなどアピールに躍起だが、空回り感は否めない。むしろ意見交換の場では、業界団体幹部に対して「築地の跡地に市場を作る考えはない」と述べたと伝えられたことから、昨年6月に「築地は守る、豊洲は生かす」と名付けた両立案の内容を自ら翻したとして批判を浴びている。

 市場機能が築地にあろうとなかろうと、そもそもこの両立案自体がまるで成算のない絵に描いた餅であり、これを掲げて昨年の都議選を戦った小池知事が政治家として到底信用足らざる人物であることは、本誌がすでに当サイトで指摘している(http://diamond.jp/articles/-/144821)。

 もっとも移転後の跡地の問題を議論する前に、計画通り豊洲に市場機能を移せるかどうかさえ危ういという現実を認識すべきだ。

 豊洲市場の地下の汚染土壌から有害物質が建物内に入り込むことを防ぐための、地下水管理システムの機能強化、土壌の上部のコンクリートによる被覆、そして換気機能の強化の3種類の追加対策工事は昨年12月に着工し、現在も続いている。ゼネコン側からは「工事をしても汚染を防ぎきれない」「失敗した際に都から責任を負わされる」などと非難囂々で受注に難色を示していたことも当サイトで取り上げたが(http://diamond.jp/articles/-/149899)、小池知事は自身の肝いりであるゼネコンに厳しい入札制度改革の方向性を捻じ曲げた、特命随意契約という“裏技”さえ繰り出して、なんとか受注にこぎつけたのだった。

 そんな小池知事は、受注の決定を表明する昨年12月の緊急記者会見で「追加対策工事によって(安全性が)担保される、との考えでよいのか」と記者に聞かれ「基本的にはそうであります」と明言した。追加対策工事は今年7月に完了し、小池知事が何らかの“安全宣言”を表明、農林水産省の認可を得て10月11日に豊洲を開場する計画を描いている。

 もちろん、工事完了後も汚染が検出されるなど、安全対策が不十分であることが明らかになれば、“安全宣言”もできず、移転はとん挫する。市場移転後の築地市場跡地を、2020年の東京オリンピックのデポ(選手や関係者の輸送車両の拠点)として整備する計画である以上、移転の失敗が五輪の計画に大打撃を与えることは論をまたない。

現状で工事完成時の8割の排水能力
それでも目標水位を大幅にオーバー

 そして不幸なことに、前述したゼネコン側の懸念を示す“不都合な真実”が、東京都の公表データから明らかになった。

 問題の本丸は、地下水管理システムの機能強化だ。図1をご覧いただきたい。昨年6月16日に実施された都の「市場のあり方戦略本部」の会議資料である。これによると、(1)揚水井戸の洗浄・ポンプ交換、(2)地下ピットでの揚水ポンプの設置、(3)観測井戸での揚水、(4)真空ポンプによる揚水――の4種類の工事を、5街区(青果棟)、6街区(水産仲卸売場棟)、7街区(水産卸売場棟)でそれぞれ実施することで、地下水の管理を強化するとしている。実際、(1)のポンプは8月に交換されており、(2)(3)(4)の工事が、昨年12月に着工した、くだんの追加対策工事の一環として実施されている。

 これは、土壌汚染の専門家で組織された「豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議」(以下、専門家会議)が昨年11月の報告書で、気化した汚染物質が地下ピットから建物内に進入するのを防ぐため「地下水管理システムの機能強化を図り、早期に目標管理水位(A.P.+1.8メートル)まで地下水位を低下させるとともに、地下水位上昇時の揚水機能を強化する必要がある」と提言したことを受けたものだ。

 A.P.+1.8メートルとは、東京都で基準となる海抜より1.8メートル高い水位、という意味だ。報告書は、地下水から揮発したベンゼンやシアン、水銀といった有害物質が、地下ピットから建物1階部分に進入しないようにするため、地下水位がA.P.+1.8メートルに管理された状態を想定していると、報告書の本文だけでなく図中でも再三、注記していることをよく覚えておいていただきたい。

 一方で都の公表資料によると、2月9日現在の5、6、7街区の地下水位は、複数ある観測井戸のうち、建物地下で最大A.P.+2.36メートル、建物地下以外ではA.P.+3.34メートルを記録している。これが現在進められている追加対策工事によって地下水管理システムの機能が強化され、いずれもA.P.+1.8メートル程度に引き下げられる――と考えられていたが、都の公開資料を精査すると、どうやらそうではないらしい。

 都が日々公表している「地下水管理システムからの排水量」(図2)によると、昨年8月21日のデータの備考欄に「21日より、地下ピットに設置した釜場(A.P.1.5m)からの排水を順次開始」との記載がある。「釜場」とは地中に凹んだ箇所を設けて水を集めて排水する仕組みで、前述の4種類の地下水管理システムのうち(2)にあたる。

 また排水量の資料には、8月31日の備考欄に「31日より、ポンプ交換した揚水井戸からの排水を開始」とある。これは(1)のことであり、前述のように追加対策工事とは別に行われたものだ。

 一方で9月11日には「11日より、従来の観測井戸からバキューム車による揚水作業を開始」との記載もある。これは、(3)が完成するまで、バキュームカーで代替して揚水していることを意味する。

 すなわち、地下水管理システムのうち(1)(2)(3)は、一部や代替的な手法ではあるが、昨年9月11日以降、すでに排水を始めているのである。

 また昨年6月16日に開催された専門家会議の議事録によると、図1に本誌が書き加えたように、都はそれぞれの機能の完成後の1日当たりの排水量について(1)が100~160トン、(2)が280~330トン、(3)が20~50トン――と説明している。また都新市場整備部技術調整担当課の今宮正純課長によると、まだ完成していない(4)は70トンを想定している。追加工事の完了後、(1)~(4)が最大限機能して、合計610トンの排水機能を持つこととなる。

 一方で前に述べたように、(4)以外の機能は代替手法を含むものの、すでに排水を始めている。また今宮課長によると、(2)については「現状のポンプは仮設であり、設置個所も全体の一部」と説明した。

 だが、雨が多かった昨年の秋のデータを見てみよう(図3)。都は(2)だけの日々の排水量を公表しているが、例えば昨年11月13日は279.1トンを記録。都の言うように稼働しているポンプは一部で、しかも仮設でありながら、追加対策工事完了後の280~330トンに迫る量だ。すなわち、この時点での最大の排水量は(1)160トン+(2)279.1トン+(3)50トンと単純計算すれば、合計で489.1トン。これは610トンの約80%に達する排水量だ。

 一方で図4をご覧いただきたい。同じ11月13日の地下水位は、建物地下でも最大A.P.+2.38メートル、建物地下以外では最大A.P.+4.66メートルにもなる。今後地下水管理システムの(2)が強化され、(4)が完成して排水量が2割増加し、単純に地下水位も2割下がると仮定しても、A.P.+2.38メートルはA.P.+1.904メートル、A.P.+4.66メートルはA.P.+3.728メートルにしかならず、後者は専門家会議が提言したA.P.+1.8メートルの倍以上もある。またポンプには稼働によってごみやチリが詰まるため、実際には常時最大限の排水量を維持できるわけではない。都新市場整備部技術調整担当課の今宮課長に改めて回答を求めたところ、「現在、建物の下では水位がA.P.+1.8メートル以下になっている個所があり、釜場の仮設ポンプの排水によるとみられる」と述べた。

 確かに都の資料では、2月16日には建物下で最低でA.P.+1.39メートルを記録している。だが、そのことに一体どれほどの意味があるのだろうか。

 まず、ここ最近はほとんど雨が降っていない。東京管区気象台の「江戸川臨海」エリアの観測記録によると、2月に入ってから16日までに雨が降ったのは、1日、2日、10日の3日間のみ。降水量は1日が7.5ミリ、2日が4.0ミリで10日が1.0ミリ。そのほかの日はずっと0ミリだ。台風が来れば2日で100ミリ程度の雨が降ることもあり、雨の多い日の記録を見ないと意味がない。

 加えて、そもそも専門家会議は、A.P.+1.8メートルの基準について、建物の下であるかどうかを全く区別していない。豊洲市場の問題を長年調べてきた一級建築士の水谷和子さんは「建物の下とそれ以外を区別する議論は聞いたことがない」と批判して、以下の指摘をする。

 例えば、地下には地上に建物がない場所であっても、地下水が土壌の隙間から上昇し、地表に漏れる「毛細管現象」によって、地下水と共に汚染物質が地表に漏れるのを防ぐため、場所によって異なるがおおむねA.P.+2~3メートルの地点に砕石層(砕いた石を人工的に敷き詰めた層)が設けられている。ところが同じ2月16日の建物下でない場所の地下水位は、最大A.P.+3.37メートルと砕石層より高い水位となっており、これでは砕石層をわざわざ設けた意味がない。

 しかも、地盤地震工学などを専門とする時松孝次・東京工業大学名誉教授は昨年8月10日の都の市場問題プロジェクトチームの知事報告において、大地震が起きても豊洲市場で液状化現象が起きないか、起きても軽微であると判断した前提として、「市場施設完成後に、地下水位を A.P.+1.8m に維持する」ことを挙げている。液状化現象ももちろん、建物の下かどうかを問わず対策が必要であり、「建物の下は」と強調することは、むしろこうした問題から目を逸らせることになりかねず問題だ。

 逆に、地下水位がA.P.+1.8メートルで安定的に管理されなければ、汚染物質の漏出も液状化現象もことごとく防げないことが、よくご理解いただけたのではないだろうか。

 なお、本誌は専門家会議の座長を務めた放送大学和歌山学習センターの平田健正所長にも取材依頼したが、事務方を通じて「テレビや週刊誌の取材はつながないでほしい」とのコメントが伝わって来たのみだ。

 小池知事や都が自らに課した安全性という条件を守れなければ、市場の移転にとどまらず、現行の五輪の計画そのものが破たんする。事態はもはや、小池知事の進退如何にとどまらず、日本の国際的な信用をも毀損しかねない。

 もちろん、豊洲移転を前提としない五輪計画を描く大胆な戦略があってもいいが、今やレームダック(死に体)と化した小池知事に、そうした手腕は到底期待できない。10月までに、本当に豊洲市場の安全性を担保できるのだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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