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囲碁の方が世界でメジャーなのに、将棋より人気がない理由

2018年02月14日 06時00分更新

文● 布施翔悟(ダイヤモンド・オンライン

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昨年の将棋界は「藤井聡太四段(現五段)がデビュー1年目で29連勝」「羽生善治が永世七冠達成」など大いに盛り上がったが、将棋と双璧をなすボードゲームの「囲碁」はイマイチだった印象だ。囲碁界にも、先日の国際大会・LG杯でも準優勝の活躍を見せた井山裕太七冠というスター棋士がいるが、なぜ将棋と囲碁はこれほど人気に差が生まれてしまったのか。囲碁の普及に取り組むIGOホールディングス株式会社代表取締役の井桁健太氏に話を聞いた。(清談社 布施翔悟)

競技人口は将棋の半分以下
なぜ囲碁人気はイマイチなのか?

「囲碁にだってスター棋士はいるのに...」。将棋の棋士ばかりが注目される昨今、ほぞを噛む囲碁ファンは多いはず。実は世界的に見れば、囲碁ファンの方がはるかに人口が多いのだが、なぜ日本では将棋人気に圧倒されてしまっているのだろうか?

「将棋も囲碁もプレイヤーのことを“棋士”と呼びますが、将棋界の藤井五段や羽生竜王と同じように囲碁界には井山裕太というスター棋士がいます。彼は圧倒的な成績を残し、昨年は「2度目の七冠達成」という偉業を成し遂げたにもかかわらず、世間では将棋棋士ほど注目されていません。正直、将棋界が羨ましいですね…」(井桁氏)

 井桁氏が漏らすように、おそらく「囲碁」という白と黒の碁石を使う陣地取りゲームがあることは知っていても、打ち方は知らないという人がほとんどではないだろうか。

 データ上でも、将棋と囲碁の人気差は明らかだ。日本生産性本部が発刊する『レジャー白書 2017』(生産性出版)によれば、16年の囲碁人口は200万人で、一方の将棋は530万人となっている。

 では、なぜ囲碁は将棋ほど人気がないのか。井桁氏はまず、囲碁というゲームにつきまとう誤解があると指摘する。

「将棋に比べて、囲碁はルールが分かりづらく、とっつきにくいという印象があるようです。しかしルール自体は4つぐらいしかなく、10分ほどで説明は終わります。囲碁で使う碁石は盤上のどこに置いてもいいので、シンプルかつ自由なところがこのゲームの最大の魅力ですが、それを1回目で分かってもらうのは、なかなか難しいのかもしれませんね」(井桁氏)

 勝敗の見極めが困難なことも、普及の妨げになっているようだ。

「囲碁は勝負中の優劣が分かりにくく、打っている手の意図が見えにくいゲーム。テレビや雑誌など、メディアの人間も囲碁の戦局について上手に追えないことが多いのです。そうなると視聴者や読者が『囲碁はよく分からないから将棋に行こう』となるのも確かにうなずけます」(井桁氏)

『ヒカルの碁』ブームも活かしきれず
内輪だけで盛り上がる業界

 囲碁といえば、かつて漫画『ヒカルの碁』(集英社、連載期間1999~2003年)ブームがあった。当時は囲碁の競技人口が急激に増え、02年には「ヒカルの碁スクール」なる囲碁教室まで登場したが、一過性のブームで終わってしまったのはなぜだろうか。

「『ヒカルの碁』が連載されていた頃、多くの子どもたちが囲碁を習い始めましたが、受け皿(教える側の体制)不足の問題がありました。子どもにしてみればとにかく実戦がやりたかったのに、生徒の急増に対してほとんど準備をしていなかった一部の講師は、大人に対して接するのと同じように講義形式でばかり教えていたという実情もあるようです。結局、それでほとんどの子どもが飽きてしまい、多くのファンを取りこぼしてしまったなんて話も聞いたことがあります」(井桁氏)

 また、囲碁の業界は内輪だけで盛り上がってしまい、世間の認識とは大きな隔たりがあるのも確かだ。

 例えばそれは、日本棋院が発行している業界新聞『週刊碁』(18年1月22日号)が特集した「2017年の10大ニュース」の記事からも見ることができる。

 読者ランキングの1位は井山裕太の七冠独占、3位が囲碁AI『アルファ碁』の進化バージョンの登場についてだった。これらはまだ世間にもある程度認知されている話といっていいだろうが、2位は芝野虎丸七段という若手棋士が囲碁界で大ブレイクしたことについての内容だった。

 もちろん芝野七段が、囲碁界で有名人なのは周知の事実。しかし正直なところ、同氏が大ブレイクしたなどという話は初めて聞いたという人も多いに違いない。こういうところに世間の認識とのズレがあるのではないだろうか。

世界最強の囲碁大国
日本の復活なるか

 当たり前の話だが、ファンが減っていくに従ってスポンサーの数も減少する。大会を主催する新聞社なども財政事情が厳しく、タイトル戦が消えることはないにせよ、賞金はどんどん減っていく。そうなればプロ棋士も減少し、後継者不足の伝統工芸のような状態になってしまうのは目に見えている。

 そうならないためには、業界としてどんな取り組みが必要なのだろうか。

「将棋のように、まず棋士を知ってもらえるような形を取ることが大切だと思います。囲碁とは一見関係の薄いテーマをキッカケにして、棋士への共感を集めていく方法です。例えば将棋の女流棋士の藤田綾さんは、対戦アクションゲームの『スプラトゥーン』(任天堂)好きが高じて、ゲームイベントなどにも登場しています。囲碁棋士もブログやSNSなどでそういう部分をより発信していくべきではないでしょうか」(井桁氏)

 また、囲碁には将棋にはない強味もある。それは世界的にも認知されている競技人口の多さだ。将棋はほとんど日本人が行っているのに対して、囲碁の世界競技人口は約3600万人もおり、中国2000万人、韓国900万人に次いで、日本は3番目となっている(日本棋院ホームページ『世界の推定囲碁人口』による)。

 世界を相手にした大会も開催されており、今年1月8日から3日間、中国・雲南省で行われた、日中韓トップ棋士の3人が競う「第5回世界囲碁名人争覇戦」には、日本最強の棋士である井山裕太が参加している。もっとも結果は最下位だった。

 井桁氏は、日本での囲碁人気を復活させるためには、世界戦で活躍できる棋士を育てることが不可欠だという。

「25年ほど前なら、世界で一番囲碁が強い国は日本でしたが、現在の日本人棋士は三星杯、LG杯、応氏杯など、世界戦ではなかなか勝てない状況が続いています。中国では、囲碁棋士の社会的地位が日本のプロ野球選手ぐらいありますし、台湾では囲碁が子どもの習い事として確立されていて、日本の学習塾のように囲碁道場があったりもします。彼らに学ぶ点は多くあり、それが日本で将棋人気に追いつくことにもつながってくるでしょう」(井桁氏)

 かつて卓球界では、福原愛というスター選手が登場し、世界の並みいる強豪に立ち向かっていくことで、地味なスポーツという印象だった卓球をメジャー競技へと押し上げた。その成功例は、囲碁界にとっても一筋の光明となるのかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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