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日本のUIデザインシーンは3年でどう変わったか? 坪田 朋さんに聞く

2018年01月30日 08時00分更新

文●小島芳樹

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デザインとエンジニアリング、デザインとビジネスなど、クリエイターにも従来の仕事の範囲を超えた知識と発想が求められる時代。連続インタビュー企画「Borderline」では、ブログ「テクニカルクリエイター.com」を運営する小島芳樹さんが、注目のクリエイターが日々どんなことを考えているのか? オン/オフの両面からお話を伺います。
第8回のゲストは、Onedot株式会社のCCO坪田朋さん。これまでのキャリアについて伺った前編に続き、後編では日本のUIデザインの現状、これからデザイナーに求められることを伺いました。

中国の感動的なユーザー体験

小島 ここから、坪田さんが最近気になっていることをお聞きしたいと思います。

坪田 やっぱり少し前まで滞在していたので、気になることといえば中国かな。都市部であれば本当にスマホだけで生活できる国なんですよ、財布を持たずに本当にスマホだけであらゆるサービスが使える。あのサービスの連携性とユーザー体験は気になっているというよりも、感銘を受けています。

小島 どこでもスマホで決済できるんですか? 屋台とかも?

坪田 いけますね。都市部なら99%。屋台だって全然いけますよ。QRコードの立て看板みたいなのが置いてあって、それをAlipayでピッと写して画面上で支払うだけ。払ったら向こうに通知が行くし、画面を見せたらOK。

Onedot株式会社のCCO。デザイン会社Basecampの代表。東京で活動するサービス設計を仕事にしているデザイナーです。

小島 なぜ中国でそんなに普及したんでしょうね。

坪田 クレジットカードがほとんど普及していなかった事情もあると思います。あと、紙幣や硬化が汚かったり、最高紙幣は100元札(日本円で約1700円)なんですが、店で使うと偽札判定機にかけられる事も多く高額の支払いが面倒だったり。あと、小さいお店だとお釣りがなくて嫌な顔をされる事もあります。
日本だとクレジットカードの手数料が安くても1%から高いと10%くらいの手数料が店舗負担になるので、お店の負担が増えるけど、Alipayは手数料無料か0.1%とかで圧倒的に安いしデジタル化すると盗難被害もなくなり会計処理もラクになる。ユーザーとしても財布不要で、マネーフォワードみたいな家計簿機能がAlipayについているので支出管理もできる。あらゆるサービスがデジタル化されているので、たとえば、滴滴(ディディ、中国版Uber)でタクシーを呼んだら料金はAlipayで自動的に支払われて、そのあと領収書は経路と金額が出てくるので経費精算はそれをPDF化して提出したら終わり。

小島 へぇ。それはめちゃくちゃラクですね。

坪田 日本も、日本交通アプリで配車から支払いまでのソリューションを提供していますが、経費精算は紙のレシートをもらって、経路を記入するアナログ部分も残されていて手数が多い。「決済」の瞬間だけではなく、AlipayやWeChatがハブになって各サービスがつながっている。例えば話題になったシェアバイクも専用アプリを落とさなくてもWeChatから利用できて決済も可能。あの経済圏が本当にすばらしいんですね。

UIデザインシーンはどう変わった?

小島 DeNA時代、坪田さんがUI Crunch(DeNAとグッドパッチが運営するUIデザインのコミュニティ)を立ち上げてから3年経ちました。あれから日本のUIデザインの状況がどう変わったのでしょうか?

坪田 明確に変わったのは、求められるデザイナーですね。当時、デザイナー人口も少なかったから業界を盛り上げて、UXと言うバズワードに乗りつつ外堀から重要性を高めていく——みたいな感じでした。UIデザイナーの数が増えてきたいまは、事業を作るデザイナーへのニーズがすごく高い。僕もワンドットではCCOという役職ですが、デザインのことなら予算も意思決定も全部権限を持って働く人が、今後は増えてほしいと思っています。

小島 UIデザイン自体も変わったものを作るよりも、本当に使いやすいものがちゃんと提供されるかどうか、たとえばアップルのガイドラインのようなものに落ち着きつつあるじゃないですか。新しいUIを作り出すよりは、もっと体験に寄ったデザインができる人や、事業貢献できるデザイナーが求められる方向に変わってきたな、と僕も思っていて。

坪田 そうですね。iOSやAndroidのガイドラインが整備されてツールも豊富になった昨今、UIデザインのハードルは以前より低くなったし、生産性も上がったと思います。ただ先程話した通り中国やグローバルでも生産性が上がっているので、世界と戦うためには「使いやすい」デザインは当たり前で差別化が必要になってくる。その差別化方法は様々で、新しいテクノロジーを駆使してイノベーションを起こすのか、既存のアセットをデジタル化するのかユーザー体験を責任もって推進する力が必要なんじゃないかと思います。

ようやくここまできたのか、という気もしますけど、3年前はCDOやCXOみたいな役職を企業で作りましょうといっても、突拍子もない感じがしましたよね。スタートアップの数も増えたいまらなら、そういう人材のニーズがすごく高くなってきている。だから、もっと増やしたいと思っていたりします。

30代の僕らがチャレンジすべき

小島 坪田さんはOnedotのほかにも、別のお仕事もされていますよね。それは、そういう思いから?

坪田 2つあります。1つは、僕みたいなシニアでも事業を作ってプレイヤーとして最前線で働いて、それで事業が成功すれば、経営メンバーにデザイナーが必要だと世の中に伝えられるとの考えから。もう1つは、いま増えている若手のベンチャーを何らかのかたちで手伝いたい、という思いなんですね。最近シード期のスタートアップを手伝っていますけど、資金調達は済んでいて、めちゃくちゃやる気もある。だけど、デザイナーはそんなぱっと雇えないし、プロダクトを作った経験値もない。そこに週に数時間コミットするだけでも、かなりわーっと伸びるんですよね。そういう子たち一緒にモノを作りたい。

小島 最後にまとめとして、今後の展望についてお話いただけますか。

坪田 Onedotの事業も当然大事なんですけど、僕はデザイナーのキャリアを切り開いていきたい。デザイナーのキャリアは、昔なら広告業界の著名人が独立する流れだったけど、ネット業界ではデザイン職のマネージャーがゴールになってる事も多い。デザイン職のマネージャーだと、デザイン組織をマネジメントしてます以上に突き抜けられないんですよね。事業や数字に責任を持つ執行役員に後からなるのはハードルが高い。今後のキャリアをどうしたらいいか、わからない人が多いはずなんですよ。そこで、経営者の1人であるCCOという役職名をつけてやることで、その道筋を作りたい。

小島 なかなか少ないですよね、CCOやCDOを置く会社。

坪田 3年前は確かにほとんどいなかったけど、やはり重要性が認知されてから、やっと増えてきたじゃないですか。優秀デザイナーはフリーランスで月に100万〜200万円ぐらいは稼げるようになってきてるんですよ。そうやって1人で稼げるような人はどこでも生きていける。だけど、その道以外にきちんと企業のキャリアで年収も役職も上がっていく、というのをもっと広めていきたい。僕たちのような30代半ばぐらいの人が、もっとチャレンジすべきだと思うんですよね。

そういう意味で、僕はスタートアップでおじさんになっても、きちんとモノ作りができるし、かつ給料が上がっていく、キャリアアップの道を切り開いていくことで、若手に背中を見せたい、というが今の思いですね。

小島 相変わらずかっこいいことやってますね(笑)。引き続き、活躍を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

[撮影:伊東武志]

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