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歯周病が認知症に関与しているという説は本当か

2018年01月30日 06時00分更新

文● 森下真紀(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです

近年、歯周病とアルツハイマー型認知症との関連性が指摘されている。どうして口の中の病気である歯周病がアルツハイマーと関係しているのか。だとすれば、予防はいつ頃から有効なのか、歯科医師の立場から解説する。(歯科医師・歯学博士・日本歯科総合研究所代表取締役社長 森下真紀)

アルツハイマー型認知症に
歯周病が関係している

 差し迫る超高齢社会を目前に、医療や介護、社会保障を脅かす”2025年問題”として非常に緊迫感を増しているのが、認知症患者の増加である。

 厚労省によると、認知症高齢者数は2012年の時点で全国に約462万人、そして2025年には認知症患者が700万人を超えると推計している。これは、65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患するという計算にあたる。

 認知症にはさまざまな種類があり、それぞれ原因や症状が異なるが、その中でも認知症の大部分を占めるのがアルツハイマー型認知症だ。進行性の病気で、脳の細胞が死滅、機能が悪化することで、物忘れをはじめとしたさまざまな障害が生じ、日常生活に支障をきたす。歳をとれば誰にでも起こりうる身近な病気であることから、その予防、診断、治療法の開発が急務となっている。

 近年になり、糖尿病や高血圧といった生活習慣病がアルツハイマー型認知症の発症と関連があることが科学的に証明された。すなわち、認知症の予防には日々の正しい生活習慣が重要である、ということだ。

 そんな中で、予想だにしない事実が明らかになってきた。アルツハイマー型認知症に、なんと歯周病が関係している、というのである。

 昔から「口の健康は全身の健康の源」と言われてきたが、アルツハイマー型認知症に歯周病が関係しているとなれば、糖尿病や高血圧にも匹敵する深刻な問題である。なぜなら、歯周病は50歳代以上のほとんどの人が罹患している疾患であるからだ。

歯周病もアルツハイマーも
「炎症」が引き起こす病気

 では、歯周病はアルツハイマー型認知症に一体どう関与しているのか。その理解には、まず歯周病とアルツハイマー型認知症という二つの疾患を正しく理解する必要がある。

 一般的に、歯周病というと「口の中」に限定した病気として捉えられがちである。しかし、本来歯周病は、「全身性に炎症が継続している病態」として捉えるべき疾患なのである。歯周病は、歯肉や歯肉溝(歯と歯肉との溝)といった口内の組織に、歯周病の原因細菌が感染することを発端としている。

 人体はそのような細菌感染が生じた場合、自己防衛として炎症反応を起こす。歯茎が腫れて出血する、歯槽骨(歯の周囲の骨)が失われて歯がぐらぐらするといった歯周病の症状は、簡単にいえば、そうした外から入ってきた細菌に対する自己防御としての「炎症反応」の結果なのである。

 そしてこの「炎症反応」、病変局所だけに留まっていればいいものの、厄介なことに、さまざまな「炎症性物質」が作られて全身に波及するのだ。

 実際、重度の歯周病患者では、そうでない患者と比較して、全身の血中の炎症性物質の濃度が高値を示すことが分かっている。加えて、重要なことは、歯周病は長期に渡って全身性に炎症が生じている状態、すなわち「慢性の炎症性疾患」であることだ。

 一方で、アルツハイマー型認知症であるが、この疾患は脳にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することが原因として知られるが、実は、アミロイドβが脳内に蓄積すると、脳の炎症に関わる細胞が活性化されて脳内に炎症反応が生じ、結果として正常な神経細胞が破壊されて脳の萎縮が起こるとされている。

 つまり、アルツハイマー型認知症は「脳の炎症」が原因で起こる病気なのである。

 以上から、歯周病とアルツハイマー型認知症、この二つの疾患は「炎症性」の疾患という観点から共通していることがお分かりであろう。

 簡単にいうと、歯周病の慢性的な炎症反応によって、アルツハイマー型認知症における脳の炎症が、さらに“増強”されるというわけだ。

アルツハイマー型認知症に
歯周病が関与する原因とは

 もっとも、実際はもっと複雑だ。

 すべての物質は脳内に入る際に、血液脳関門と呼ばれる“関所”を通過しなくてはならない。これは、脳へ血液中の有害な物質が入らないようにして、大事な神経細胞を防御する機構である。当然、人体に細菌感染が生じた際に作られる炎症性物質も、容易には脳内に侵入できない。

 それなのに、なぜ、歯周病の炎症反応が脳内へ波及するのだろうか。

 歯周病は先に述べたように慢性の炎症性疾患であるが故、その炎症性物質が、長期に渡って血液脳関門を攻撃することになる。その結果、患者によっては、血液脳関門が正常に機能できなくなり、炎症性物質が脳内に侵入する状況を可能にしてしまうと考えられる。

 読者の方々にとっては驚愕の事実かもしれないが、口腔内に潜んでいるはずの歯周病細菌自体さえも、脳内へ侵入するのを許してしまうことがある。実際に、アルツハイマー病患者の脳から歯周病の原因細菌が見つかっているのだ。

 しかし、現在のところ、このような歯周病がかかわる炎症反応だけで、アルツハイマー型認知症が発症するとは考えにくいとされている。認知症の発症時期を早めたり、認知障害の程度を強めたり、進行を早めるという病態を修飾する作用があるのではないかと考えられる。

 アルツハイマー型認知症に歯周病が関係しているという事実を逆手に取れば、歯周病治療や口腔ケアをすることで、アルツハイマー型認知症の発症予防や、症状の軽減、進行を抑制できる可能性があるということだ。

認知症の発症予防のためには
遅くとも50歳代から口腔ケアを

 では、「認知症の予防」という観点でいうと、いつ頃から歯周病に注意すればいいのであろうか。

 アルツハイマー型認知症の高い発症率を示す年齢層は、70歳代である。しかし、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβの脳への蓄積は、発症する10~15年以上前から始まっている。そのため、認知症の発症予防のためには、遅くとも50歳代で歯周病がコントロールされていなければならない。

 もちろん、それよりも早ければ早いほど望ましいことは言うまでもない。

 そして、アルツハイマー型認知症において歯周病が問題となる理由が、実はもう一つある。それは、虫歯もそうだが、歯周病により、「歯を失う」という状況が生じることだ。歯の機能は、食べるという咀嚼機能だけではない。

 物を「噛む」という行為による脳への刺激が、脳の活動において極めて重要なのだ。

 例えば、高齢者において、残っている歯が少ないほど、記憶や学習能力に関わる海馬、意志や思考の機能を司る前頭葉とよばれる脳の一部の容積が小さくなることが分かっている。つまり、歯を失い物が噛めなくなると、脳への刺激が減少して脳の働きに影響が生じ、その結果として、アルツハイマー型認知症のリスクが増すのである。

 以上のことから、アルツハイマー型認知症の予防において、歯周病予防がいかに重要であるかがご理解いただけたことと思う。

 日本のように、一般的に医療が進んだ国においては、長生きすることはできる。しかし、身体的、精神的に健康な状態で長生きできるかどうかは、また別の問題だ。認知症の場合、命としては長く生きられるが、満足のいく幸せな生活かどうかを考えると疑問が残る。幸せに長生きする為にも、定期的な歯科への受診と合わせて、日々丹念な口腔ケアを行っていただき、歯と口の状態を健康で良好に保つことを心がけてほしい。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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