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ベストセラー「職場の問題地図」の沢渡あまね氏、サイボウズ伊佐政隆氏と語る

働き方を変えたければ、やり方とプラットフォームを変えよう

2018年02月09日 10時30分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders 写真●曽根田元

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働き方改革はなぜ進まないのか? なぜ楽しくないのか? 「職場の問題地図」などさまざまな書籍・講演で、働き方改革や業務改善にメスを入れている沢渡あまね氏と、サイボウズ kintoneプロジェクトマネージャーの伊佐政隆氏を迎え、働き方改革について語ってもらった。(以下、敬称略 モデレーター アスキー編集部 大谷イビサ)

経営も現場も楽しくない「働き方改革」って誰得か?

大谷:沢渡さん、お忙しいところありがとうございます。イベントでいっしょになることはありましたが、こうやって座談会やるのは初めてですね。よろしくお願いいたします。

沢渡:よろしくお願いします。私も普段から青野さんや伊佐さんの話を聞いて、いつも膝たたきまくっていたので、サイボウズさんとはいつかいっしょに企画やりたいと思っていました。ありがたいです。

業務改善・オフィスコミュニケーション改善士 沢渡あまね氏

伊佐:サイボウズの伊佐です。こちらこそ、よろしくお願いいたします。

大谷:相変わらずお忙しいようですが、まず沢渡さんは最近どんなところで、どんな話をしているんでしょうか?

沢渡:おかげさまで大企業、中央官庁、自治体など、さまざまなところから講演やコンサルの依頼が来ているのですが、私がもっともお話ししているのは、まさにサイボウズさんがおっしゃっている「働き方改革はなぜ楽しくないのか?」についてです。とにかく働き方改革が重苦しい。これがもっとも大きな課題です。

大谷:どこらへんが重苦しいんでしょうか?

沢渡:まず経営にとって重苦しい。「No残業」「有休取得」「採用労働制」とか、いろいろ制度を揃えたのに、なんだか働き方が変わらない。「こんなに制度も揃えたのに、なぜ生産性が上がらないんだ」というモヤモヤ感を経営陣は感じています。

伊佐:やはり経営的に見て、課題って生産性なんでしょうか?

沢渡:大きく、生産性、コミュニケーション、働きがいの3つだと思います。もちろん、このうちコミュニケーションと働きがいの先には、従業員の採用や定着といった課題の解消もありますよね。この3つの課題に対して、どうしてよいかわからないというのが現状だと考えています。

大谷:経営者と現場で働き方改革のモチベーションが大きくずれているのも課題ですね。

沢渡:その通りです。確かに現場は現場で「早く帰れって言われても、仕事減らないし、終わらないでしょ」という不満があります。いわゆる現場の従業員は普通に考えれば残業代減ったらイヤですし、働き方改革自体を仕事としてもらえないと、お金も出してくれないという話であれば、やるモチベーションは起きないです。

管理職だってツラい。会社側からコミュニケーションの活性化も、売り上げも、部下の教育も全部押しつけられています。自分の仕事が楽になるとか、部下が育ってくれるといったメリットがないため、やっぱりモチベーションに乏しい。経営者、従業員、管理職でそれぞれメリットがない「誰得?」な状態が今なんだろうと思います。

伊佐:僕は経営者が現場の不満に気づかなければならないと思います。業績を上げるのは一人ではできないのだけど、それを忘れがちな気がしますね。人を見ないで、数字や全体感で見てばかりいるから、成果も上がらないし、人も集まらなくなってしまいます。

大谷:とはいえ、サイボウズさんが出している「働き方改革が楽しくない」というメッセージは、わりと現場を代弁した感じですよね。

沢渡:そうですね。サイボウズさんは、そこズバッと言ってくれているので、痛快だなと思います。あとは、「改善のための仕事増やされた」とか、「上司がビジネス書持ってきて『これやれ』って言ってくる」とか、「残業したくないのに上司早く帰らない」とか、とにかく現場には不満が山積しています。

大谷:生々しすぎる(笑)。

沢渡:やっぱり人間なので感情があるんですよね。こうした感情を度外視してあるべき論だけを押し付けてもうまくいかない。やっぱり感情と論理を行き来するしかない。そして、論理の方は共通のツールやフレームワーク、そして溜まってきた事実が必要になるというのが持論です。

伊佐:今日、沢渡さんとの対談でアウトプットできたらいいなと思っているのは、働き方改革や業務改善に向けた具体的な手段なんですよね。業務改善の意欲はすごいんだけど、具体的な手段がない人が多い。「定例会議でなにを話せば次のアクションにつながるのか?」 そういう部分を議論できたらと思っています。

「見える化」の前に必要なのは「言える化」

大谷:では、沢渡さんが働き方改革を支援するために、具体的にどんな話で進めている感じでしょうか?

沢渡:手段という意味では、『「見える化」より、まず「言える化」が重要です』とお話しています。

大谷:最新刊の「職場の問題かるた ~“言える化”してモヤモヤ解決!」(技術評論社)で取り扱っているテーマですね。

働き方改革の最終兵器を謳う「職場の問題かるた」(作:沢渡あまね/イラスト:白井匠/CV:戸松遥 技術評論社刊)
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沢渡:多くの組織が、働き方改革を進めようとすると、まず見える化に着手します。部署ごとの労働時間を見える化するとか、改善のツールを入れて、仕事のフローを見える化するとか。確かにこの施策自体はすごく大事です。でも、どんなに素晴らしい手法やツールがあっても、そこに本音が載ってこなければ、空振りになってしまう。おかしいと思っていることでも、「言える化」しないと給湯室の愚痴で終わってしまいます。

給湯室で愚痴っているだけだったら、合意形成ができず、組織の問題にならないですよね。現場は「こんなこと言っていいんだっけ?」という迷いがあるけど、マネジメントする側は実は「そんな意見を聞きたい」と思っていたりします。

伊佐:経営者がきちんと現場に話を聞こうとしているのに、わざわざ言わなかったらなにも変わりませんよね。これって鶏と卵の関係で、どこの会社も苦労していますが、経営者が「現場に働きがいを持ってほしい」と思っていることを理解した上で、現場の人たちも「働きがいを感じるためにはこれが必要です」と進言しないと、相互理解につながりません。なぜ言える化が進まないんでしょうか?

沢渡:いくつか理由があります。まず怖くて言えない。そりゃ、言えないですよね。だって人間だもの。だから、社長や幹部が社員と1時間ミーティングしたところで、本音が出るなんて思うなと言いますね(笑)。

「ほ:本音を言わないメンバーたち」

大谷:札が出てきた(笑)。私が沢渡さんの本で共感するのは、この「だって人間だもの」の部分ですね。多くのビジネス本は「やればできる人」を前提にしているけど、沢渡さんのロジックは「できない私たち」に優しいです。

沢渡:ありがとうございます。2つめは「わざわざ言わない」というのもあります。「会議資料、ここまで作り込む必要あるのかな?」とか、よっぽどの勇者じゃないとわざわざ言わないじゃないですか。

伊佐:確かにわざわざ議題に挙げるのもなーという気持ちはありますね。

沢渡:はい。3つめは「言語化できない」。言語化はスキルの壁があるので、モヤモヤ思っているんだけど、うまく表現できないことって多いですよね。私もシステム開発長いんですけど、言語化ができないことが原因で、だいたいの要件定義はもめます(笑)。仕様書の通り作って、3~4ヶ月後に納品すると、これじゃないという話になります。

大谷:私は記者・ライターなので、日々まさに言語と戦っているのですが、やはり言語化ってすごく壁ですよね。同じことを言っているのに、なぜここまで書き方、言い方が違うんだろうと。もっとスマートに表現できれば、意図をきちんと伝えられるのにと思っています。

沢渡:そうですね。あと「気づかない」ということもあります。上司から「ムダ減らせ」と言われて、「いえいえ、私たちの仕事にムダはないです」と思う人も多いはず。そりゃそうですよね。10年間属人化して、自分に最適化してきた仕事にムダなんてないと思いますよね。

「む:ムダをムダだと気づかない」

大谷:また、出ました(笑)。

伊佐:なるほどー。個人的には「言語化できない」と「気づかない」が大きいと思いますね。両方とも全員がそうなるわけではない。誰かは気づいているし、誰かは言語化できているけど、チームの総意になっていない。だから、まずはその課題感を形にして、見える化していくのにkintoneが役立つとも思うんですよね。

沢渡:おっしゃる通りです。個人のモヤモヤで終わってしまっているので、もったいないんですよ。そういう言いにくいことを言いやすくするのが、このカルタを作った目的です。ゲームの雰囲気で、カルタのせいにして楽しく言っちゃおう!みたいな。

その意味では、サイボウズさんが「働き方改革楽しくないのなぜだろう?」という問題点を掲げてくれたのはすごいと思います。「ほら、やっぱり楽しくないじゃん」とか、「労働時間の削減って現場には重いよね」と言える化できるようになった職場が増えてきました。

大谷:個人的には取材を続ける中で、「働き方改革のトリガーは女性が多い」という気づきもあります。女性が働き続けるのにあたって理不尽な仕組みや文化について、女性自身が「これっておかしいですよね」と声を上げている。そこから組織ぐるみの取り組みになるパターンがけっこう多いんです。わざわざ言わないことをきちんと言えるようにするのが大事ということですね。

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