大学生協で仕入れが増える
振り返れば、2011年の年末商戦でブラザーは「第3の選択肢」として、コンシューマー向けインクジェットプリンター市場に本格参入。40%台の攻防というシェア争いを繰り広げるエプソンとキヤノンの間に割って入り、それ以降8%前後のシェアを維持し続けている。
碓井社長はこれに次ぐ新たな勢力として、エプソンのエコタンモデルを位置づけようとしているのだ。
2017年の年末商戦では、販売台数では3%前後でシェアは推移したものの、販売金額では約9%にまで拡大(いずれもBCN調べ)。週次データでは、販売金額でブラザーを抜き去って、3位に踊り出た週もあった。台数シェアではまだ限定的と言わざるを得ないが、販売金額では存在感を持つ製品にまで一気に成長したのだ。
さらに取材を進めると、エコタンクモデルへの関心が急速に高まっている市場があることもわかった。大学生協である。
全国約200ヵ所の大学生協が販売するプリンターを共同仕入れしている生活協同組合連合会大学生活協同組合東京事業連合(大学生協東京事業連合)では、2018年4月に入学する学生を対象に販売するプリンターに、エプソンのエコタンクモデルを選定した。これは前年に続いて2年目となるが、前年が首都圏の8キャンパスでの取り扱いであったのに対して、今年は全国60キャンパスでの取り扱いに拡大。仕入れ台数は5倍に拡大しているという。
これは台数ベースで全体の約10%を占める規模だ。なかには、東京工業大学生活協同組合大岡山店のように、「仕入れ台数の半分をエコタンクモデルにする。動き方次第では追加発注を予定しており、半分以上をエコタンクモデルが占める可能性もある」という例も出ている。同店では、前年からエコタンクモデルを取り扱っており、学生からの反応が予想以上によく、当初予定の3倍もの台数を仕入れる結果になったという前例がある。「今年も、一番目立つところにエコタンクモデルを展示する予定である」と同店では語る。
大学生協向けに販売するのは、「EW-M571T」。これに、補充インクを各色1個ずつ付属させて販売する予定だ。実はこれには意味がある。
一度買えば4年間はインクを変えなくてもいい
エプソンが約200人の大学生を対象に調査したところ、4年間の在学中にプリンターで印刷する平均枚数は9994枚だったという。ゼミ資料や授業資料、レポート印刷のほか、サークル活動の資料など、印刷内容は多岐に渡る。補充タンクを1個ずつ付属すれば、4年間、一度もインクを追加購入することになく利用できるという計算だ。
インクカートリッジモデルの「EP-710A」と比較した場合、1490枚を印刷した時点でエコタンクモデルの方が安くなり、逆算すると大学1年生の秋過ぎには、早くもエコタンクモデルの方がお得になる。最終的には、4年間で約1万枚を印刷した時点では、なんと12万8000円も得になる計算が成り立つという。
インクカートリッジの購入には、6色タイプだと5000円以上の投資が必要になる。学生にとって、5000円もの投資は大きなハードルだ。とくに一人暮らしをしている学生にとっては生活への影響も懸念される金額。実際、インクカートリッジがなくなっても買い足さずに、研究室などにあるプリンターを利用している学生が少なくないという話も聞かれるほどだ。
購入時点では本体価格は約3倍になるが、多くの場合、親が購入することが多い。学生にとってみれば、在学中にインク代金を支払うことになく、安心して利用し続けられる環境が入学時に手に入るというわけだ。
コストメリットだけでなく、安心して利用できるという点は学生にとって大きなメリットだといえる。
こうしてみると、大学生協では碓井社長がいう「第4極」というポジションはすでに獲得しているといえるだろう。海外では新興国を中心にエコタンクモデルが普及しおり、エプソンのプリンター出荷台数の45%以上がエコタンクモデルとなっている。2018年度にはさらに2割増の出荷を見込んでおり、50%を超えるのは確実とみられている。
今後、日本でもエコタンクモデルが注目されるのは明らかだ。2018年は国内市場において、どんな勢いでエコタンクが広がるかが注目される。
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