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人口減は日本にとってイノベーションを準備するいい機会だ

2017年12月25日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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『週刊ダイヤモンド』12月30日・1月6日特大号の第一特集は「総予測2018 世界は新次元!」です。毎年恒例のこの企画ですが、今年ははっきりいって、全然違います!なんと、簿記の知識なしで決算書がすらすら読めるようになる、付録ブック「財務三表 虎の巻」が、まるごと一冊ついてきます。さらに、インタビューでは31人の経営者が登場。また、株価・景気・為替などを35人の専門家が、産業編は週刊ダイヤモンド記者が徹底的に取材し、予測しています。ここでは、特集冒頭の特別対談の一部を抜粋改変して紹介します。

人口減は大変革への好機!
問題解決へ新ビジネス創出を

──人口減少は日本経済にとってマイナス要因となるのでしょうか。

よしかわ・ひろし(左)/立正大学教授。1951年生まれ。米イェール大学経済学博士。大阪大学助教授、東京大学教授、財政制度等審議会会長などを歴任。紫綬褒章受章。専門はマクロ経済学。著書に『人口と日本経済』(中公新書)、『デフレーション』(日本経済新聞出版社)など。
くすのき・けん/一橋大学大学院教授。1964年生まれ。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『好きなようにしてください』(ダイヤモンド社)など。Photo by Kazutoshi Sumitomo

吉川 日本の人口はこれから100年かけて、100年前の約5000万人に逆戻りします。この先は人口減が進むため、世間では「普通に考えてGDP(国内総生産)はマイナス続きでしょう」といった見方が少なくありません。でも、それは違う、というのが私の意見です。

 人口問題を楽観視しているわけではありません。確かに人口減は経済成長に重荷にもなります。ただ、あまりにも「人口減だと成長できない」というような悲観論の広がりには異を唱えたいわけです。

 なぜなら、先進国の成長はこれまでも1人当たりGDPの拡大によるところが大きかった。その1人当たりGDPが何で伸びるか、結論を言えば「イノベーション」に他なりません。それはいつの時代も、どこの国でもそうです。

 例えば1人当たりGDPで豊かな国を見ると、ルクセンブルクやスイスなど人口で言えばまさに小国となっています。

楠木 そこでイノベーションという考え方が出てくるわけですが、私が割と大切だと思う切り口に、「イノベーション」と「進歩」という現象を分けて考えることがあります。イノベーションは進歩ではない。何が違うかといえば、「非連続性」の有無です。

 例えばデジカメの画質が良くなるとか、スマホがどんどん薄く軽くなる。価値の次元で連続するので、そういう現象は進歩です。

 イノベーションとは「何がいいか」という「価値の次元そのもの」の変化です。だから、例えばプレゼンに使うプロジェクターが、ポケットに入れて持ち運べるような大きさになったとする。それは先ほどの分類ではイノベーションではない。「すごい進歩」なのです。

 日本発の製品イノベーションでは、例えばソニーのウォークマンです。発売当時、既にいい音質で再生できる技術はありましたが、人間を物理的制約から解放し、音楽がいつでも聞ける新しい楽しみを提供した。だから音のいいステレオ装置を持っている人も、またお金を使いました。

吉川 これからの日本市場は、価値創出へ大きな役割を果たすための、ある種の実験場として考えるべきです。

 もちろん、欧米やアジアなど海外でビジネスチャンスを見つけるのもよいですが、それとは別に国内で次世代のモノやサービスへの新しい価値を創り出す試みこそ、イノベーションに通じるのだと思います。

楠木 供給側の事情を見ても、いろんなものが十分に良くなって行き詰まっている社会の方が、イノベーションの動機は大きくなります。日本の自国市場について、高齢化が新しい価値次元の源泉といえるのは、それが将来ものすごく大きなスケールで中国など他の市場にも確実に起こるからです。その点でかなり時間軸のボーナスをもらっている面があります。初めは自国市場で始まっても、それがグローバル展開する可能性が高い。

吉川 日本発の具体例として、私は個人的に紙おむつの動向に着目しています。紙おむつは赤ちゃん用に始まった後、高齢社会を見据えた日本で開発が進み、高齢者用の市場が発達してきました。

 国内市場ではもう数十年、紙おむつは高齢者用が中心となっています。一方、インドや中国にこの市場はありません。潜在ニーズがあっても、購買力が追い付いていないからです。

 でもやがて高齢者用の紙おむつも、輸出や現地生産される製品になっていきます。日本の高齢社会で困っているから、そういうものが考えられてきた。「必要は発明の母」ということでしょう。

全ての価値観は“気のせい”
「何がいいか」再考の機会に

──社会の閉塞感からリスクが取りづらく、今の若者からは、「進歩」を求めがちな大企業に入りたいとの意識が根強く感じられます。

楠木 僕が大学を卒業した87年と比べると、今の方が新卒のバリエーションは広がっていると思います。一方でいまだに優先順位としてまず大企業がある、というのは価値観の問題です。

「何がいいかが変わる」との意識変化が個人レベルでも起きないと、ビジネスでもイノベーションは起きない。これはよく言うスキル教育の問題とは少し別物ではないかと思っています。

 あっさり言ってしまうと、全ての価値観は“気のせい”なわけです。でも、それがマクロ現象に基づく社会レベルで共有されるといろいろなことが変わってくる。人口減は、皆が自分との関連性を感じられるレベルの包括的な転換点なので、「何がいいか」を考え直す非常に良い機会だとみています。

吉川 同感、同感です。

──「人口減の社会では経済成長を目指さなくてもいい」という考え方が叫ばれることもあります。

吉川 経済成長はそれ自体が目的ではありません。それはそれとして、超高齢社会こそ、人々の生活の中で困った問題が出てきて、解決する余地がたくさんあります。

楠木 一番大切な点だと思います。あらゆる商売事は結局のところ、問題解決です。そして、いつか世の中の全ての問題が解決され、「問題解決需要がなくなる」というのが起きないのが面白い点です。

 なぜなら、ある問題解決が必ず新しい問題をつくるからです。例えばパソコンが生まれてインターネットがつながり、いろんな問題が解決された。すると、新たにウイルスをどうするのか、という問題が生じた。結局、商売事は「問題解決のマッチポンプ」の面があるので、価値観は別にしても経済成長は長い間続くと考えています。

「いよいよ昭和が終わる」
生活満足は過去最高の今

──2019年に新元号となる中、平成の時代をどう振り返りますか。

楠木 「失われた20年」とよく言いますが、20年も失えるってすごい社会ですよ。20年も低迷したら世の中が荒れて、大変なことになってもおかしくない。でも依然として世界で一番、安心安全で食事はおいしく、人々は親切で、というのは図らずも日本の底力を見せつけた平成時代だった気がします。

吉川 長年続いている内閣府の「国民生活に関する世論調査」には、生活の満足度に関する問いがあります。そこで「満足」と答えた割合は17年の調査が過去最高だった。これこそ一つの側面を映し出しています。

楠木 僕は以前、日本の景気低迷が叫ばれていたころ、英国の老紳士が「英国病といわれた本当の不景気のときは、夜に誰も出歩いていなかった。日本の不況は高が知れている」と話していたのを思い出します。英国では犬なんて飼っている場合じゃないから、犬の散歩をする人もいなくなったと(笑)。

吉川 同様の話を私も聞きました。日本が「失われた10年」などといわれていた時期、英国のエコノミストが来日した時に「これがリセッション(景気後退)なら“ゴールドリセッションだ”」とね。

 人口減は確かに問題を生み出します。社会保障から財政、その他いろいろあるでしょう。ですが、話してきたように先進国経済を引っ張る大本はイノベーション。日本が欧米や諸外国より劣るかといえば、全然、そうは思わない。必要以上に将来を悲観する理由はないのです。

(聞き手・構成/週刊ダイヤモンド編集部 竹田幸平)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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