シャープ復活させた戴正呉社長「目標達成したので辞めたい」
文●大河原克行、編集●ASCII.jp
2017年12月12日 09時00分
今回のことば
「東証一部復帰を果たす決心で、片道の切符を買って、日本にきた。ようやくこの目標を果たすことができた。本当はいま社長を辞めたいが、個人のわがままでは決められない」(シャープ・戴正呉社長)
シャープが2017年12月7日、東京証券取引所市場第一部銘柄に指定された。
同社は2015年度通期連結決算で430億円の債務超過に陥り、2016年8月1日付けで、市場第一部から市場第二部へと指定替えになっていた。だが同年8月に鴻海精密工業が出資を完了し、鴻海ナンバー2の戴正呉氏を社長として送り込んで、鴻海傘下で再建を進めてきた。
戴社長は2016年8月21日に発表した経営基本方針において「経営幹部に期待すること」として、8つの項目を設定したことを明らかにし、そのひとつに「東証一部への早期復帰を共通目標として、業務を遂行すること」をあげ、東証一部復帰は戴社長にとっての最優先課題のひとつとしていた。
同社は2017年6月30日には市場第一部銘柄への指定申請をし、東証一部復帰への取り組みを具体化。「東証一部から二部に指定替えとなった企業が、再び一部に復帰したのは過去数10年間で1件だけである。加えて、指定替え後わずか1年4ヵ月でのスピード復帰は、過去に前例がない」(戴社長)という。
東証一部復帰にあわせて、東京証券取引所で開いた記者会見では「2016年8月に、シャープの東証一部復帰を果たすという強い決心をして、片道だけの飛行機の切符を買い、日本にきて、シャープの社長に就任した。『One Way Ticket』という歌と同じ気持ちだった」と、当時の心境を吐露した。
実際、鴻海傘下での回復ぶりには目を見張るものがある。
新卒採用は2.2倍、1人あたりの年間平均給与は1.17倍に
東証二部への指定替え時点となる2016年度上期決算では、売上高が9196億円であったものが、2017年度上期決算では1.21倍となる1兆1151億円に増加。当期純利益は、454億円の赤字から、347億円の黒字へと転換した。2017年度第2四半期の最終利益は、当初予想を大幅に上回り、リーマンショック以前の水準にまで回復したという。また、設備投資では、2016年度には274億円の実績であったものが、2017年度計画では732億円と2.67倍に拡大。同じく新卒採用は142人から312へと2.20倍に増え、1人あたりの年間平均給与は1.17倍に増加したという。
わずか1年で大きく変化したこれらの指標を示しながら、「シャープ復活の証といえる」と宣言。「私は日本人ではないが、多くの人が応援してくれたこと、全員一丸となってがんばってきた結果が、今日につながっている。シャープはもともと実力がある会社であり、金脈と同じだ。私は、金脈を掘る役割を行なってきた。これからも金脈を掘りたい」と語った。
戴社長が語る「シャープ復活」のバロメータは、これらの数字とともに、東証一部復帰というゴールによって証明されるのは確かだ。
戴社長は「これからのシャープには人材が重要であり、そこに投資をしていくには、一部復帰が大切であった。また次の100年のシャープを考えると、一部復帰は通過点である」とも語る。
東証一部復帰によって、社会から認められ、より強く社会的責任を担う会社となり、同時に、人材確保にも優位に働くことで、将来の成長につながるという好循環を生むことになる。
だが、戴社長は、東証一部復帰を自らの退任時期と考えていたようだ。
共同CEO体制へ移行
「私はもう67歳。目標の東証一部復帰という目標を達成したので辞めたいという気持ちがあった。それはいまも変わっていない」とする。
実際、退任に向けた動きもみせている。
「取締役会に社長交代を諮ったが、取締役会からは業績が成長していることや、年度途中で社長交代をすることは異例であると言われた。また、社長は株主総会で選出された取締役のなかから選ぶことが通例であると言われ、社長交代の話は保留になった」という事実を明かす。
戴社長は「個人のわがままでは決められない」としたものの、「本当は辞めたい」と笑いながら語ってみせた。
そのなかで戴社長は、バトンタッチに向けての体制づくりを開始することも示した。
同社では2018年1月以降、次期社長育成のため今後、共同CEO体制へと移行し、決裁権限の委譲を検討することを新たに発表した。これまでは取締役会の議長、経営戦略会議の議長、そしてオペレーション決裁は、戴社長に集中していたが、新体制ではオペレーション決裁を、共同でCEOを務める新たな社長に委譲する。
「共同CEOは社内社外を問わず、いい人材であることが条件である。早急に検討したい」と戴社長は語る。
戴社長が持つ経営ノウハウを、共同CEO体制によって伝承することになるというわけだ。
次は経営理念を実現する飛躍の1年に
「次の私の使命は中期経営計画の達成。この責任を背負い、中期経営計画の最終年度となる2019年度まで全力をあげて取り組む覚悟である」と戴社長は語り、シャープは共同CEO体制によって、中期経営計画の達成に挑むことになる。
戴社長は2017年は「シャープ復活の年」になったとする一方、2018年を「シャープ飛躍の年」にしたいと語る。
「飛躍と言っても、単に売上げや収益を拡大するということではなく、経営理念に示された『広く世界の文化と福祉の向上に貢献する』、『会社の発展と一人一人の幸せとの一致をはかる』、『全ての協力者との相互繁栄を期す』ことができてこそ、本当の飛躍だと考えている。全社一丸となってシャープを日本を代表する企業へと成長させていきたい」とする。
これまでにも、創業者である早川徳次氏の言葉を引用したり、シャープの経営理念に則る経営を重視してきた戴社長は、今後もその姿勢を崩すことがなさそうだ。
業績を回復に転じさせ、東証一部復帰を実現したのは、鴻海流の経営手法によるのは確かだ。だが、鴻海流といわれる郭台銘氏の経営手法に、シャープの創業精神や経営理念を盛り込んだ「戴流」ともいえる経営手法が、シャープの復活につながったともいえるだろう。その手法が、次の経営者に継承されることを期待したい。
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