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だがそれがいい:

スマホどうぶつの森が地獄でした

2017年11月30日 13時30分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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森全体に地獄みを感じる

 初めに違和感をおぼえたのは、1日ぶりに会ったどうぶつの冷たい態度です。たとえばハンナというロックが好きな姉御タイプの赤いイヌ(♀)。友だちのように気さくに話してくれていた彼女が、「こんにちは」と他人行儀に。おねがいされていた品を手渡しても「ウチをマブダチと認めてくれたんだね」と言い、まるで初めて会ったかのような態度をとられます。森には基本的に現実とおなじ時間が流れているのですが、「なかよし度」が低いと、次に会ったときの会話はそれほどフランクではありません。少しでも営業を怠ると主人公のことは忘れられてしまいます。

 その後ハンナに話しかけたときの「あぁ アンタかい」という退屈そうな一言で本当に心が折れそうになり、そこから営業のプレッシャーが上がっていきました。

 一度プレッシャーを感じてからは、どうぶつたちのもとに通うのは営業行為そのものだと感じるようになりました。飛び込みで見つけた見込み客のもとに日参し、身近な要望にこたえて信用を獲得し、ニーズを探り、クロージングを進め、契約を獲得する流れが営業でなくてなんでしょうか。どうぶつたちの信用を得てキャンパーとしてのレベルが上がると出会えるどうぶつの数も増えるのですが、それはつまり営業先が増えることにほかなりません。楽しく過ごしていた毎日が、突如終わりのない営業地獄に変わってしまいました。

 いざ地獄を感じはじめると、森の仕組みそのものがあやしく見えてきます。

 森で仕入れと営業をしているのはプレイヤーだけです。どうぶつたちはお金と材料を無尽蔵にもっていて、自分たちが体を動かして品物を手に入れようという気がありません。どうぶつたちは「おなかがすいたな~」などと言い、主人公から新鮮な食品を買い、バーベキューや炉端焼きのようなパーティー料理、昆虫観察やスケッチなどの趣味を楽しんでいるだけ。どうぶつたちには巨大な不労所得があるか、主人公が現地の相場感を知らないのをいいことに劣悪な金額で労働力としてこき使っているものとさえ想像してしまいます。たとえば「ヒラメ2匹、アジ2匹」のお礼が「200ベル・ペラペラのもと×2・カチカチのもと×1」と言われたとして、この条件が妥当か判断し、交渉する権利を主人公はもっていません。

 お金と材料が価値をもつ根拠になっているのは、家具職人のカイゾーさん、まめつぶ商店・エイブルシスターズ・シューシャンクといった移動販売業者、そしてカスタムショップOKモーターズの価格相場のみ。いずれもどうぶつたちが購入している姿を見ることはできず、主人公を含むプレイヤーのみが利用しているものとも考えられます。人間相手のぼったくり価格をつけているとも想像できます。

 OKモーターズにいたってはぼったくりどころか悪徳業者そのものです。

 キャンタローさんと呼ばれている従業員の1人から「キャンピングカーをカスタマイズしませんか」と気さくに提案され、友だちのような態度からそういうサービスなのかと思って喜んで頼んだところ、相場に比して法外とも思える多額のローン(借金)を組まれてしまいました。他のプレイヤーからもおなじ被害にあったという話を多数聞きました。かわいい見かけに隠された地獄を象徴するような事例ではないかと感じさせられます。ちなみに原作の「どうぶつの森」は、タヌキのたぬきちさんに自宅を強制的に改築されて借金地獄に陥り、ローン返済のためにあらゆる経済行為をするという悪夢のようなゲームです。

 きわめつけはしずえさんです。自営業者としての基本ルールを主人公に教えたあと、「しずえチャレンジ」制度を紹介してきます。労働などで一定の基準を満たすと補助金のように材料を与える制度です。中には現実世界のお金で買える葉っぱのお金「リーフチケット」(1枚6円相当)をもらえるチャレンジもあり、主人公はリーフチケット欲しさに基準を満たそうと必死に働くことになります。中には「ローンを完済しよう」など特定業者との癒着を匂わせるチャレンジもあり、自治体としてのモラルを疑ってしまうこともありました。

 このようにしてポケ森はわたしたちが暮らす現実世界とおなじようにウソとだましあいが横行する欺瞞の森なのではないかと思ってしまったのですが、そこまできて、これは勝手なプレッシャーからくる妄想ではないかと気づきました。

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