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日産、検査不正の反動で懸念される「過剰な現場管理強化」

2017年11月27日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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日産の西川廣人社長(左)は無資格検査問題について「過去からのあしき慣習を断ち切る」と表明したが、「挽回」すべき課題は山積する Photo by つのだよしお/アフロ

無資格の従業員が自動車の完成検査を行っていた問題をめぐり、日産自動車は11月17日、弁護士ら第三者を交えた調査チームによる報告書を国土交通省に提出した。この調査報告書から浮かぶのは、現場の実態を見過ごし続けた経営陣の姿だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 重石岳史)

「自動車工場の現場では、無駄を削減し効率を上げる改善が基本動作として行われている。『当たり前のことをやっていたのに』というのが現場の率直な感覚だろう」。日産自動車で発覚した無資格検査問題を受け、あるOBは指摘する。

 このOBが言う“無駄”とは、完成検査員の指名手続きを指す。

 完成検査は、国の代わりに自動車メーカー自らが行うことが義務付けられているものだ。だが、その検査を担う完成検査員の指名手続きは工場の実態とあまりに乖離し、現場とすれば“無駄”でしかなかった。

 そこで現場は不正と認識しながらも、コスト削減要求に応えるため“当たり前”のように法令違反を犯し、それを現場に無頓着な経営陣が放置し続けた。日産で無資格検査が長年にわたって継続された本質的な原因はこの点にある。

 そもそも完成検査員とは何か。国土交通省は通達で「検査に必要な知識および技能を有する者のうちからあらかじめ指名された者」と定めている。しかしこれは国家資格ではなく、認定基準は各社まちまちだ。

 日産の場合、(1)72時間の講習を修了し、筆記試験で100点満点中80点以上を獲得、(2)有資格者からマンツーマンの指導を受ける一定期間の補助業務に従事──した従業員に資格を与えていた。

 (2)の補助業務は、検査区分によって期間が定められており、例えばブレーキやライトが正常に作動するかなどを確認する「テスター検査」の資格を得るためには2カ月間を要する。

 無資格検査は主にこのテスター検査で行われていたが、2カ月間の補助業務期間について、調査報告書は「一項目のみを習熟する期間としては長く、現場の検査指導員にとって大きな負担となっていた」と結論付けている。つまり実態に即していない「不合理なルール」でしかなかったのだ。

 そのため現場では、不具合をあえて仕掛けた車両を見抜けるかなど「見極め」と呼ばれる独自の習熟度チェックを行い、資格取得前であっても見極めに合格しさえすれば完成検査を任せていた。

 「検査工程に習熟した者が完成検査を行う以上、実質的には完成検査の適正性は担保されており、大きな問題ではないと考えていた」。この従業員の証言は、無資格検査の核心を突いたものといえる。完成検査員に形式的に任命されたかどうかではなく、現実の検査工程に習熟しているか否かが重視されていたわけである。

実態把握できず
日産経営陣の重過ぎる責任

 こうした現場の実態を把握できなかった経営陣の責任は重い。

 調査報告書によれば、不正を認識していたのは工場の係長までであり、課長以上に問題が伝わることはなかった。日産には内部通報制度があるが、多くの従業員が「内部通報しても是正されないと思った」と述べており、現場と経営陣の間を隔てる“壁”の存在がうかがえる。

 この結果、完成検査員の適正な人員配置は検討されることもなく、ここ数年で拡大した国内生産に対応するため、筆記試験で解答を事前に漏らして検査員の数を無理に増やすなどの不正が横行した。

 日産の西川廣人社長は「現実と乖離した手続きを是正できなかった役員の意識欠如が問題」と認めつつ、自身の責任については月額報酬の一部自主返納にとどめた。またカルロス・ゴーン会長の責任についても「(社長時代の)再建計画が始まる前から無資格検査は常態化していた」と述べ、効率最優先のゴーン流経営との因果関係を否定した。

 日産経営陣は今後、検査員の任命基準の見直しなど再発防止策を講じる構えだが、責任の所在をあいまいにしたままでは世間の納得は到底得られないだろう。

 加えて日産は今後、重い代償を背負うことになる。

 日産ブランドの信頼は失墜し、販売台数の減少は必至の情勢だ。品質管理に関する国際標準化機構(ISO)の認証は取り消され、今年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考対象も辞退している。年度末にかけての繁忙期のリコール対応に、販売店からは悲鳴が上がる。

 また何よりも関係者の間で懸念されているのが、不正の反動として管理が強化され、自立性が尊重された日産の現場力が衰えかねないことだ。冒頭のOBは「行き過ぎた管理強化は現場の自由な発想を阻害しかねない。バランスが重要だ」と語る。

「日産の全役職員は本件を契機とし、あらためてこれまで以上にユーザー目線に立ったものづくりを意識することが求められる」。調査報告書の提言を、日産経営陣は肝に銘じるべきだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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