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現役医師が考える遠隔診療についての未来

日本でも間違いなく広がる遠隔診療の焦点とは?

2017年11月17日 06時00分更新

文● 明星智洋 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

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市中病院にてがん診療の最前線で抗がん剤中心の治療をおこなっているかたわら、Hyper medical creatorとして、ビジネスと医療現場をつなげる活動を行なっている江戸川病院の明星智洋氏による現場側から見た「遠隔診療」についての寄稿をお届けします。

明星智洋氏

 みなさんは、病院や診療所にかかったことはありますよね。もしかかったことはないという方は、よっぽどの健康体か、健康に無頓着な人なのかもしれません。

 さて、その病院での待ち時間、かなりストレスに感じているのではないでしょうか?

 まず、受付を済ませてから診察まで、短いと30分。長いと4時間以上という場合もあります。それだけ待っても、診察室で医師と話す時間はせいぜい3分から5分程度ではないでしょうか? それが自分の命にかかわるような重大な病気であれば、長時間でも待てるでしょうが、いつもの高血圧の薬や花粉症の薬を処方してもらうためだけだと何時間も待てないですよね。

 また診察が終わってから、会計待ちがあり、さらにそこから薬局で調剤待ちもあります。現在我が国は高齢化社会となって、患者さんの数もそれに比例して増加しています。

 しかし、医師の数は変わりません。

 そして、わが国では医師法20条に、「医師の無診察治療等の禁止」という法律があり、実際に患者さんを診察せずに処方などを行なうことは、禁止されていました。つまり、いつもの高血圧の薬や花粉症の薬などを処方するだけでも必ず、対面で医師の診察を受けなければならないことになっています。待ち時間が長くなるのも仕方ないのかもしれません。

 しかし、最近ではその状況が変わりつつあります。そのキーとなるのが「遠隔診療」です。

 遠隔診療というと、遠く離れた場所からレントゲン検査などの読影をしたり、離れた場所からロボットを使って手術したり、というイメージもあるかもしれません。しかし、ここでいう遠隔診療は、初診の患者さんの医療相談や、かかりつけの患者さんの診察をして、処方したりできる仕組みのことを指します。

 最近はこのような遠隔診療の取り組みが進んでいます。この遠隔診療について現状、そしてこれからの未来について解説します。

遠隔診療は実際どこまで進んでいるか?

 遠隔診療について、上記の医師法の無診察治療の禁止に抵触しないのか。という懸念がありますが、厚生労働省からの通知で、対面診療を補完するものとして、2015年に、遠隔診療を認める内容の文書が発表されました。また2017年には、自由診療の禁煙外来に関しては、初診時から遠隔診療でも問題ない旨の通知もされました。

 現状だと遠隔診療を行なった際には再診料(72点)と処方せん料(68点)しか請求できません。しかし、対面診療の場合は、疾患によりますが、特定疾患療養管理料(225点)や生活習慣病管理料(包括)、外来管理加算(52点)、時間外対応加算(5点)などのほか、レントゲン検査を行なえば、画像診断管理加算(70点)などの診療報酬請求ができます。つまり患者さんのために効率化を図った結果、自身のクリニックの収益が減ってしまうというジレンマに陥ってしまう可能性があります。

 その溝を埋めるために、近いうち、国が遠隔診療加算を設定する必要性は高いと感じます。

 一方、事故やじんましんなどの急な事象で、とりあえず遠隔診療で医師に診てもらいたいという場合には、あくまで「医療相談」としての扱いになりますので、保険は効きません。全額自費での診療となります。

 それでもモニター越しに、医師の顔を見ながら話せる安心感はかなり大きなものでしょう。現在、複数の企業が遠隔診療に参入してきており、国としても推奨しているため、数年後には遠隔診療が主流になっている可能性もあります。

遠隔診療の先にいるのは、あくまで実在の医師

 では、実際の現場で使われはじめている仕組みはどうなっているのでしょうか。すでに複数の企業が遠隔診療のデバイスや仕組みを作ってきていますが、そのパイオニアの1つとして、MRT株式会社を例として紹介します。

 同社が提供する遠隔診療サービス「ポケットドクター」は、スマホやタブレット端末を使って遠隔診療を行なうサービスで、タップ操作で簡単に予約が取れ、通話中の画質も高画質を実現しています。

 また会計もそのままクレジットカードで可能で、処方せんの配送もスムーズに行なうことができます。タブレット画面上にマーキングをすることができる技術を備えており、より細かいやり取りができるのも特徴です。

 タブレットの先にはコンピューターやAIではなく、あくまで実在の医師がいます。医師としての遠隔診療のメリットとしては、かかりつけ患者などで、自宅や施設に行く往診の診療の場合、遠隔診療に切り替えることで、移動する労力や時間を、ゼロにすることができます。これは、医療過疎地に行けば行くほどメリットが大きくなるはずです。

 また、かかりつけ患者以外でも、今すぐ医師に医療相談したい場合、ポケットドクターには「今すぐ相談」というサービスがあります。これは、時間のある医師がタブレットの向こうで待機しており、相談案件に応じて、対応可能な医師が手を挙げて診療することができます。つまり医師側としては、隙間時間や空き時間にアルバイト感覚で収入を得ることができるメリットがあります。

 またポケットドクターのスマホやタブレット端末の画面では、画面に直接文字を書き込んだり、幹部を丸で囲ったりすることができ、医師と患者の相互確認ができるツールを兼ね備えているのもメリットの1つです。

 MRTの取り組みは、経済産業省が主催する、ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2016でグランプリを受賞しています。

国は遠隔診療について管理加算について一考を

 この先、遠隔診療がさらに広く流通すれば、病院での待ち時間の解消、医療費の削減などにつながります。

 逆に、対面診療を行なわないことにより、重大な疾患の見逃しや、検査の不履行、病院側の収入の減少などのデメリットもあります。

 このギャップを埋めるためには、国が遠隔診療について管理加算を設定し、遠隔診療はあくまで対面診療の補完であることを周知していくことが重要だろうと思います。

 またウェアラブルデバイスと連携し、日々の血圧や脈拍なども自動でモニターできるような仕組みもできつつあります。そうすることで早期の疾患の発見や管理ができるようになり、将来的に医療費の抑制にも期待ができます。

 血液検査に関しても、病院に来なくても、自宅でごく少量の血液を採取して、配送することで検査する微量採血の技術も進んできており、定期的なデータのフォローも可能になってくるはずです。

 遠隔診療が当たり前の時代になると、たとえば花粉症の薬やいつもの胃薬をもらうためだけに1時間以上待つ必要もなくなりますね。

間違いなく遠隔診療は国民に拡がっていく

 近い将来、間違いなく遠隔診療は、ある一定の施設、国民に拡がっていくはずです。国もそれを後押しています。また一部の患者も求めています。

 ただし、それを使って臨床を行なう医療従事者の受け入れは、現状ではまだまだ認知度は低いのも現実です。病院、クリニックの施設として遠隔診療サービスを導入して、それを使う医師の教育も極めて重要です。

 流通や金融では、IoTやブロックチェーンなどのテクノロジーが急速に導入され、進んできています。医療業界は封建的で腰が重い印象があります。今こそ既得権益を捨てて、患者のため、日本の医療費のためにも重い腰を上げる時ではないでしょうか。

明星智洋(みょうじょう ともひろ)
江戸川病院 腫瘍血液内科副部長、感染制御部部長、東京がん免疫治療センター長/Hyper Medical Creator/MRT株式会社取締役/一般社団法人梅酒研究会代表理事/株式会社オリィ研究所顧問/株式会社マイロプス顧問

熊本大学医学部卒業。岡山大学病院、虎の門病院、がん研究会有明病院で臨床経験を積み、江戸川病院でがん診療の最前線で抗がん剤中心の治療を実施。一方、Hyper Medical Creatorとして、上場企業やベンチャー企業と、医療現場をつなげることをライフワークとしており、遠隔診療や栄養、人工知能、職場の環境改善など幅広い領域で、橋渡しをおこなっている。東証マザーズ上場のMRT株式会社取締役も務め、医師の人材確保、遠隔診療を推進。また一般社団法人梅酒研究会代表理事として、全国梅酒まつり、全国梅酒品評会を主催し、日本の文化である梅酒を全国に広める活動をおこなっている。

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