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漫画ソムリエ常駐、女子御用達…異色のマンガ喫茶に行ってみた

2017年11月09日 06時00分更新

文● 大来 俊,-週刊ダイヤモンド編集部-\,井手ゆきえ(ダイヤモンド・オンライン

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女子受けしそうなカフェ…?
実はマンガ喫茶!

 マンガ喫茶業界は2008年をピークに市場が縮小傾向と言われている。複合カフェ化が進む現在は、最新ゲームやダーツ、ビリヤード、VRなどの導入が必要な装置産業の側面が色濃く、資本力のある運営会社でないと、生き残りが難しくなっている。

ハイリーファイブカフェの受付近くにある大樹をイメージさせる大型の棚。大人の女性好みのボタニカルな雰囲気だ

 だが、そんなマンガ喫茶業界に、全く新しいコンセプトで挑む店もある。

 東京・渋谷の繁華街にある商業ビル。エレベーターが7階に到着してドアが開いた瞬間、壁や床がウッド調の明るい店内が目前に広がった。

 大樹を彷彿させる大型の棚には無料貸出用のアロマオイル、アロマストーンがさりげなく置かれている。冷蔵ケースにはクラフトビールや輸入ビール。輸入菓子も60種類以上が整然と並ぶ。一見「女子受けしそうな今どきのカフェに来ちゃったか」と勘違いしそう。実はこの店が、ベンチャーのソーエキサイトが運営する斬新なマンガ喫茶(マン喫)「Hailey'5 Cafe(ハイリーファイブカフェ)」だ。

 マン喫だから、店内には当然のことながら、本棚にぎっしり詰まったマンガが用意され、その数はざっと2万冊。ただし、一般的なマン喫と異なるのは完全個室制であることだ。

マンガの所蔵数は約2万冊。通路の両側に設けられた本棚にぎっしりと収まっている

 靴を脱いでくつろげるシアタールーム51室と、椅子に座ってデスクワークが可能なチェアルーム4室の計55室。しかも、全室がカードキー採用のオートロック式の扉を備え、防音設計であることが特徴だ。室内も明るい色の壁紙を使用し、洗練された印象。「大人の場所」にするために、18歳未満は入店禁止というルールを設けたことも、他店と一線を画する。

 従来のマン喫は、主要な顧客である男性向けに作られてきた観は否めない。筆者も時々利用しているが、店内は黒が基調で照明は暗め、どちらかと言えばアカ抜けせず、洗練された雰囲気とは言えない印象を受けていた。「ネットカフェ難民」という言葉もニュースで耳にする機会が多く、不特定多数の利用者が出入りすることから、防犯面が心配という声も聞かれる。要するに、20代以上の大人の女性にとっては、興味があっても行きづらく、あまり縁のない世界だった。

居心地の良さを追求したら
女性客がどっと増えた

 そこを、ハイリーファイブカフェは、180度違う世界に塗り替えた。

 突き詰めたのは、“居心地の良い空間”だ。「大人の女性は、居心地を何よりも大切にするのに、そのニーズに真正面から応えるマン喫はなかった。そこで、彼女たちが好みそうなインテリアや商品、メニュー、部屋、設備、ルールを徹底的に追求した。従来のマン喫業界はいかに安く利用できるかを争ってきたから、設備投資でお金がかかるのに儲からない商売になっていた。けれどもこうやって“居心地の良さ”を徹底すれば、もう一度利益が出るビジネスに再生できると考えた」と、運営責任者の西田将輝氏は明かす。

 目論見は当たった。今までマン喫に見向きもしなかった大人の女性が「ハイリーファイブカフェなら」と、足を運び始めたのだ。

 実は、ソーエキサイトは、業界では老舗の「まんが喫茶ゲラゲラ」を20年前から運営している会社でもある。客層は他のマン喫と同じように大半が男性で、女性はわずか1割。一方、ハイリーファイブカフェの利用者は、女性が実に半数に上る。つまり、居心地を良くすることで、割合にして女性客が5倍に増えたのだ。

部屋のインテリアも洗練されており、快適に過ごしたり、仕事をしたりできる

 これには、「女性比率が2~3割になればいいと思っていたから、予想以上」と、西田氏も驚く。加えて、平均客単価は約2000円と、業界平均(約1300円)を大きく上回る。時間当たりの利用料は従来のマン喫の400円に対し500円で、こだわりのフードメニューもやや割高に設定しているためだ。「大人の女性は居心地の良い空間に対しては、お金を惜しまない。多少高くても利用していただける」(西田氏)。

 また、完全個室で防音であることは大人の女性だけでなく、ビジネスパーソンにとっても利点を感じるところ。集中してデスクワークができ、周囲に聞かれることなく営業などの電話ができるため、サテライトオフィスとして活用できるからだ。筆者も試しにチェアルームでパソコンを使って仕事をしてみたが、カフェのように周囲の雑音がないためとても快適で、ここなら電話取材も問題なくできると実感した。

 あるいは、仲良しの女性同士やカップルで利用して、周りを気にせずに会話できたり、過ごせたりするのもメリットだろう。最近では、英会話の個人レッスンなどで使う場合も見られるという。「15年8月に池袋店、今年8月に渋谷店がオープンした。今後は都心や地方のターミナル駅に新規出店を加速させたい」と、西田氏は話す。

置いてあるマンガは“3巻まで”
マンガソムリエが選んでくれる!

「今の気分に合わせて、おすすめのマンガを選んで差し上げます」――。

 マンガの知識が豊富な店員が、まるでワインを選ぶソムリエのように、店内の約1万2000冊の蔵書から、個々の客の好みにぴったりのタイトルを選んでくれる店が「マンガサロントリガー」だ。マンガ書評サイト「マンガHONZ」の代表を務めるホリエモンこと堀江貴文氏と、イラストやマンガの制作代理店であるサーチフィールド社長の小林琢磨氏が中心となり、14年に東京・渋谷で開業した。

 店内の壁はマンガが収まった本棚で埋め尽くされ、チャージ料500円と1ドリンク(500円~)分の料金を払えば、時間無制限で居続けることができる。そして、“ソムリエ”がいる以外に、本棚をよく見ると、もう一つの特徴があることに気づく。それは、各タイトルが最大3巻までしかなく、少ないものでは1巻しか置いてないことだ。

マンガに囲まれた空間で、お酒を飲んだり、交流したりと、マンガ好きにとって至福の時を過ごせる

 小林氏は理由をこう話す。「この店は、自分が読みたいマンガを最後まで読み切るのではなく、知らないマンガと“出会う”ことを目的としている。ソムリエが利用者の好きなマンガの傾向やその日の気分を聞いてマンガを選ぶのも、出会いを手助けするため。初めて知ったマンガを気に入ってその先を読みたければ、書店などで購入してくださいというのが、基本的なスタンス」。

 つまり、リアルに「試し読み」ができる場なのだ。全巻がない分、既存のマン喫より多い約5000タイトルを揃えることができ、「タイトル数だけなら日本一だろう」(小林氏)。

 もう一つ、マンガとの出会い以外にも重要な意義がある。それは「マンガ好きな人と出会える場」でもあることだ。店ではビールやウイスキー、カクテルなども提供し、マンガに囲まれた空間で飲みながら、楽しく交流できる。1時間5000円で店の貸し切りが可能で、マンガ好きな仲間のオフ会での利用も多い。人が集って、マンガのことを楽しく語らう場だから「サロン」と名付けている。

マンガ喫茶の「その先」で
収益化を図る

 また、マンガの人気作家が開催する有料イベントの会場としても利用される。店には30人程度しか入れないが、その様子はYouTubeなどで生中継し、視聴者数が1万5000人以上を記録したイベントもある。マンガの販促に活用できることから、出版社は協力的で、協賛している大手もあるほどだ。

 ビジネスはこれだけでは終わらない。小林氏は、マンガを1話ずつ読むことができるアプリ「マンガトリガー」を運営する別会社の代表も兼務している。1話目は無料で、24時間経つごとに2話目、3話目…と順次無料になっていくシステム。待たずに読みたい場合は、1枚120円のコインを購入する仕組みだ。マンガサロントリガーに来て、アプリのことを知り、利用し始めるユーザーも多いという。

 マンガサロントリガーは、1年間チャージが無料になる年会費1万円の会員が約450人、1年間飲み放題になる年会費30万円の「ブラックカード」の会員が3人いる。これだけでも一定の売り上げがあり、その他にも、全国から訪れるマンガファン、オフ会や出版社イベント、協賛金などからの収入がある。

 ただし、店舗として見た場合の収支はトントンだという。「僕らはこの店で収益を上げようと考えてなく、マンガのプロモーションの場として捉えている。つまり、マンガサロントリガーをフロントとして、どうバックエンドにつなげていくかというビジネスモデル。マンガ好きが集まるリアルな場を持っていることが重要で、そこから先のやりようはいくらでもある」と、小林氏は話す。

 マンガ喫茶という形態も、居心地を徹底的に追求して新たな客層を呼び込んだり、思い切って販促やコミュニティの場にしてしまったりなど、切り口次第で、まだうま味のあるビジネスに再生させることはできそうだ。後に続く、新たなコンセプトの店の登場を待ちたい。

(大来 俊/5時から作家塾(R))


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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