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「内部留保」言及で産業界に衝撃、企業統治改革が再始動

2017年11月07日 21時52分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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Photo by Takahisa Suzuki、picture alliance/アフロ

10月16日、コーポレートガバナンス(企業統治)改革の行方を占う有識者会議が再始動した。全上場企業に対して独立性の高い社外取締役2人以上の選任を促すルールの導入から2年半弱。産業界にさらなる衝撃を与えそうな論点が浮上している。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

 1年弱の休会状態を経た10月16日、日本のコーポレートガバナンス(企業統治)改革の行方を占う有識者会議が再び動きだした。

 振り返れば、2015年6月に東京証券取引所は、全ての上場企業に対して独立性の高い社外取締役を2人以上選任するように促すルールなどを取り入れた、「コーポレートガバナンス・コード」(企業統治原則)を導入。産業界に衝撃を与えた。

 そのコードをまとめた会議の流れをくむ有識者会議が久しぶりに再開し、さらなるガバナンス改革に向けて再始動したのだ。

 その会議とは、金融庁と東京証券取引所が事務局を務める「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」だ。

 この長い名前には、それぞれ別に議論していた二つの「コード」を一体運用しようという、ガバナンス改革の経緯が込められている。

 会議名にある「スチュワードシップ・コード」は機関投資家の行動原則とも呼ばれる。機関投資家には2種類あり、資産を保有する公的年金や企業年金などの基金と、その基金が資産運用を任せる信託銀行や保険会社などの運用会社に分けられる。このコードでは、機関投資家が企業と建設的な議論をする「物言う株主」となるように促す。

 企業と機関投資家に対する二つのコードを「車の両輪」として、さらなるガバナンス改革に取り組んでいく。そのために誕生したのが、前出のフォローアップ会議なのだ。企業価値の向上と機関投資家の投資リターンの拡大を図り、最終的にはその先に国民の安定的な資産形成の実現を見据えている。

 休会後初となるその会議で、ガバナンス改革のねじを巻き直す意味で提示されたのが、以下の5大テーマ(下図「コーポレートガバナンス改革を巡る指摘」参照)だ。

 (1)投資と内部留保=企業において、現預金での内部留保が増加し、「攻めの投資」が少ない。

 (2)経営環境の変化に対応した経営判断=企業において、事業の選択と集中、資本コストに対するリターンへの意識が低い。

 (3)CEO(最高経営責任者)・取締役会=企業のCEOの育成と選任に向けた取り組み、社外取締役の実効的な機能発揮が不十分。

 (4)政策保有株式=いわゆる「持ち合い株」の削減が進んでいない。

 (5)アセットオーナー=企業年金によるスチュワードシップ・コードの受け入れが少ない。

内部留保率ランキング作成

 これらの5大テーマは、それぞれ密接に関係しているため、同時並行で改革を進めていくべき課題だ。ただ、中でも産業界が気にしているのは、1番目に挙がった内部留保に関する議論ではないだろうか。

 10月22日に投開票が行われた衆議院議員選挙において、希望の党が公約の中で「内部留保課税」を掲げたことでも話題になったテーマだ。

 フォローアップ会議では、右図上のように、日本企業において、現預金のかたちでの内部留保(利益剰余金)が増加しているという指摘があった。その一方で、設備や人材、研究開発などに対する「攻めの投資」に企業の資金が流れておらず、日本企業の経営効率性に改善の余地があるという問題提起がなされた。

 そこで、本誌では上場企業の総資産に占める内部留保の割合を内部留保率として求め、高い順でランキングを作成した。それが下表だ。

 このランキングを見ると、少し意外に思うかもしれない。というのも、内部留保に関する議論は、大企業に対する「もうけ過ぎ」「利益のため込み過ぎ」批判とセットで語られることが多いが、ランキング上位に入った企業の規模はさまざまだからだ。

 総資産1兆円超のキーエンス(2位)、任天堂(5位)、ファナック(22位)など大企業の名前も挙がるが、それ以上に総資産100億円未満の企業の数が多い。

 フォローアップ会議内でも「現金を保有しているのは、圧倒的に中小企業」といった指摘が複数の有識者からあった。08年のリーマンショック発生時に、銀行から貸し渋りや貸し剥がしに遭った中小企業は少なくない。そのトラウマの影響で銀行への不信感が募った結果、中小企業が手元に大量の現金をため込み、日本企業全体での現預金の増加につながっている側面があることも否めないという。

 そのため、内部留保については、産業界全体のマクロなデータだけを基にした一般論で、個別企業のミクロな話に落とし込むことに対して、慎重論も多く挙がった。

 一方、多くの有識者からやり玉に挙げられたのが、日本における積年の課題であり、投資家と企業の間になれ合いの関係を発生させてしまう、持ち合い株の問題だ。

 先の図下は、フォローアップ会議の資料内で示された、保有主体別の株式持ち合い比率の推移を示したグラフだ。これを見ると分かるように、銀行や保険会社など金融機関では株式持ち合い比率は減少しているものの、事業法人の間では高い水準で横ばいの状態が続いていることが問題視された。

 持ち合い株に関する情報開示の不十分さを指摘する声も複数上がるなど、今後このテーマに関する議論が再び熱を帯びることは間違いないだろう。

 また、コーポレートガバナンス・コードの「独立社外取締役2人以上の選任」を促す行動原則には、導入当初から今に至るまで、産業界からの反発が強いが、今後はさらなる社外取締役の増員に関する議論も避けられそうにない情勢だと思われる。

 というのも、休会後初の開催となったフォローアップ会議では、国際的な機関投資家で構成される組織、インターナショナル・コーポレート・ガバナンス・ネットワークのケリー・ワリング・エグゼクティブ・ディレクターがプレゼンテーションを実施。その中で、「企業は全取締役の3分の1、もしくは最低3人の社外取締役を選任すべき」という提言があり、他の有識者からも賛同意見が相次いだからだ。

あなたの資産にも影響

 産業界は、自社のガバナンスを向上させるためにも、自社のステークホルダー(利害関係者)や社会がどのような問題意識を持っているのかを知るためにも、フォローアップ会議の議論の行方を追い掛ける必要があるだろう。

 ただ、ガバナンス改革は企業だけではなく、われわれ全員が関心を持ち、注視すべき議論だということを見落としてはいけない。

 その理由は、フォローアップ会議の場で日本投資顧問業協会の大場昭義会長が語った、「今や国民全員が企業の株主」という発言に端的に表れている。なぜなら、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が保有する運用資産約149兆円のうち、24%強(約36兆円)が国内の株式で運用されているからだ(17年6月期)。

 公的年金は、日本国内に住所のある全ての人が加入を義務付けられており、その運用実績によって年金支給額が左右される可能性がある。そのため、前述した通り、ガバナンス改革は最終的に、われわれの資産形成に結び付くことになるというわけだ。

 われわれ全員が企業のステークホルダーであり、間接的な「物言う株主」であろうとする意識が、回り回って自分たちの実利に跳ね返ってくるということも忘れないようにしたい。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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